第99話 海の幸と、たこ焼きパーティの船上宴
「はぁ……。なんて平和で、暇なのでしょうか。」
青く澄み渡る群島ブルーオアシスの海を、俺たちが乗り込んだ最新鋭の魔導ガレオン船『ブルー・オリオン号』は、静かに波を切り裂くように進んでいた。
操舵室から甲板へと出てきたシルヴィアが、手すりに肘をかけ、どこか退屈そうに空を見上げる。
「本当に、暇ですね……。海賊の襲撃も、巨大な海竜の出現も、この数日間まったくありませんわ。」
レイアもまた、腰に下げた『伝説級:冥竜の魔法剣』の感触を確かめるように柄を撫でながら、手持ち無沙汰に足先で甲板をトントンと叩いていた。
「ご主人様、もう一週間くらい、ただひたすらに海を眺めているような気がします。」
セツナが銀色の耳を垂れ下げ、少しだけ寂しげに呟く。
「ガハハ! 贅沢な悩みだな! 毎日最高級の飯を食って、広いベッドで寝て、海風に吹かれる……これ以上のバカンスがあるかよ!」
レオナが『伝説級:猛獅子のハルバード』を肩に担ぎ、豪快に笑いながら甲板を闊歩する。
その横で、暴君地竜のタロウが退屈そうに「ガウゥン……」とあくびを漏らしていた。
「暇か……。確かに、安全すぎるのも考えものだな。ちょっと船を停めて、気分転換に釣りでもするか?」
俺が提案すると、ヒロインたちの顔色が一気に変わった。
「釣り、ですか! いいですね!」
レイアがパァッと顔を輝かせる。
「ふふっ、竿は確か、バベルのバザーでついでに買い込んでおいたものがあるわね。時空間魔法のおかげで、ちゃんと手入れも行き届いているわ。」
シルヴィアが優雅に頷き、アイテムボックスから釣り竿を数セット取り出した。
「わらわもやるのじゃ! 海の主を釣り上げて、わらわの食卓を豪華にするのじゃ!」
タマモが三本の立派な尻尾をピンと立てて、大喜びで釣り竿に飛びつく。
俺たちは早速、船のへりから太い釣り糸を海へと投げ込んだ。
ブルーオアシスの海は、底知れぬ魔素が溶け込んでいるため、住む魚たちの活性が異常に高いことで知られている。
「よし、糸を垂らしてみるぞ。」
俺が針を投げ込んだ瞬間、竿が海面へと大きく引きずり込まれた。
「うおっ!?」
「ああっ! クロウ、竿が折れるわよ!」
シルヴィアの叫びも聞かず、俺はハイヒューマンの膂力を限界まで込めて竿を振り上げた。
水面を割って飛び出してきたのは、見たこともないほど巨大な、地球のタイに似た魚だった。しかし、そのサイズは優に二メートルを超え、鱗は宝石のように輝いている。
「なんじゃこれ! 魚というよりは、もはや魔物ではないか!」
タマモが目を丸くする中、レオナやレイアの竿も次々と力強くしなった。
「ガハハ! こっちもデカいぞ! なんて引きの強さだ!」
レオナが引き上げたのは、これまた巨大なイカだった。吸盤一つ一つが人間の顔ほどの大きさがあり、甲板の上で暴れ回るたびに墨を撒き散らしている。
「あらあら、タコまで……。」
シルヴィアが釣り上げたのは、俺の身長ほどもある巨大なタコだった。
「ご主人様、すごいです! お魚がどんどん釣れます!」
セツナが海面から引きずり上げたのは、鋭い牙を持つ青い魚だ。
魔素の濃い海のおかげで、まさに『入れ食い』状態。
開始から一時間もしないうちに、甲板の上には獲物の山ができていた。
「これだけの釣果……。このまま焼いて食べるのもいいけれど、せっかくタコが釣れたのなら、あれを作るしかないわね。」
シルヴィアが獲物の山を見回し、ふっと妖艶な笑みを浮かべた。
「あれって、まさか……。」
「ええ。クロウが教えてくれた、あの『たこやき』よ。」
俺はシルヴィアの提案に、ニヤリと笑った。
「なるほど、それはいい。タコ焼きパーティと洒落込むか。」
俺たちはさっそく、インベントリから巨大なタコ焼き器と、帝国の街で買い込んだ小麦粉、そして何より『魔素をたっぷり吸ったタコ』を準備した。
「タコをぶつ切りにして、生地を流し込む。焼き加減が肝心だぞ。」
「はいっ! こうですね!」
レイアが手慣れた手つきで生地を流し込み、セツナが準備したタコを次々と入れていく。
「わらわにもやらせろ! ひっくり返すのは、わらわの華麗な指使いを見せてやるのじゃ!」
タマモがタコ焼き器を独占し、プロ顔負けの速度でクルクルとひっくり返していく。
「ふふっ、いい匂い。ソースの香ばしさと、紅生姜の風味が食欲をそそるわね。」
シルヴィアがたこ焼きの上に、とろりとしたソースと青のりをまぶしていく。
「ガハハ! これがタコ焼きか! 見た目は小さいが、すごく美味そうだ!」
レオナが焼きあがるのを待ちきれずに、大皿を凝視している。
熱々のたこ焼きが完成し、俺たちは熱さにフーフー言いながら口へ運んだ。
「――っ! 外はカリッとしてて、中はトロトロ……! タコの旨味がギュッと詰まっています!」
レイアが目を輝かせ、二個、三個と口に運ぶ。
「美味しいです! 中の生地がすっごくクリーミーで、ソースと合いますね!」
セツナが銀色の尻尾を激しく揺らしながら、口元にソースをつけて笑う。
「ふふっ、この食感、中毒になりそうね。お酒が進むわ。」
シルヴィアも優雅に果実酒を飲み、たこ焼きを堪能している。
「……美味い。これも前の世界の味だ。……やっぱり、こうしてみんなで食う飯が一番だな。」
俺は出来立てのたこ焼きを噛み締めながら、幸せそうに笑う仲間たちの顔を見渡した。
「クロウ、これは素晴らしい食文化じゃ! 次からは毎日タコ焼きパーティーにするのじゃー!」
タマモが頬を膨らませて叫び、タロウも甲板から「ガウッ!」と同意するように吠える。
海の上での賑やかなたこ焼きパーティ。
俺たちの乗る船は、穏やかな波間に揺られながら、目的地である常夏の楽園『ブルーオアシス』へと、着実に歩みを進めていた。
最高の武器、最高の技術、そして最高の仲間。
最強のパーティとなった俺たちの、規格外でゆるりとした世界旅行は、まだまだ始まったばかりだ。
出航の風は、どこまでも優しく、俺たちの頬を撫でていた。




