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第94話 悪徳店長の末路と唯一無二の証明。

照りつける太陽と、潮の香りが漂う南の港町。


俺たちは、常夏の群島『ブルーオアシス』へ向けたバカンスの準備のため、海に面した巨大な造船ドックを訪れていた。


しかし、そこで待ち受けていたのは、廃船同然のガレオン船を不当な高値で売りつけようとする悪徳店長ボルドドだった。


俺がその詐欺の手口を指摘すると、ボルドドは逆上し、周囲に潜ませていた数十人の屈強な用心棒たちをけしかけてきたのだ。


だが、当然ながら俺が剣を抜く必要すらなかった。


「クロウのバカンスの時間を奪うなんて……万死に値します」


レイアが静かに怒気を込め、伝説級『冥竜の魔法剣』の柄に手をかけた。


「フハハ! 準備運動にもならんが、その腐った性根ごと叩き直してやる!」


レオナが剛腕を振るい、伝説級のハルバードの石突きで用心棒の鳩尾を正確に突き上げる。


「ご主人様の時間を邪魔する者は、私が排除します」


セツナは一切の殺気を断ち切った隠密歩法で死角へ潜り込み、神代級『嵐穿の虚空刃』の峰で次々と首筋を叩いて気絶させていく。


「あら、野蛮な男たち。バカンス前に血を見るのはごめんだわ」


シルヴィアが指先を弾き、極大圧縮された氷の弾丸で用心棒たちの武器だけを粉々に砕き散らした。


「わらわの海での優雅なひとときを邪魔するとは、愚か者どもめ! ひれ伏すのじゃ!」


タマモが黄金の狐火をふわりと散らすと、恐怖の幻術を見せられた用心棒たちは白目を剥いてその場に崩れ落ちた。


時間にして、わずか数秒。


俺が腕を組んで見守っている間に、ドックを取り囲んでいた男たちは一人残らず地面に転がっていた。


「ひぃぃぃっ!?」


店長のボルドドは完全に腰を抜かし、無様に後ずさりを始めた。


「さ、さては貴様ら、ただの冒険者じゃないな!? ええい、誰か! 誰かこの無法者どもを捕らえろ!」


ボルドドが情けない悲鳴を上げた、その時だった。


「――何事だ! この騒ぎは!」


ドックの奥にある豪奢な建物から、立派な身なりをした初老の男が、数人の護衛と警備員を連れて足早に駆けつけてきた。


その胸元には、『海神の錨亭』の商会長を示す黄金のバッジが輝いている。


「か、会長! ちょうどいいところに! この野蛮な冒険者どもが、突然暴れ出したのです! 私が懇切丁寧に船を案内していたというのに……!」


ボルドドが、商会長の足元にすがりついて泣き叫ぶ。


だが、商会長は倒れている用心棒たちと、俺たちが一切武器を構えていない様子を鋭い視線で見比べた後、低く凄みのある声でボルドドを怒鳴りつけた。


「衛兵! この男たちを捕縛しろ!」


商会長の怒声と共に、駆けつけていた屈強な警備員たちが、地に伏している用心棒たちとボルドドを取り押さえる。


「ひぃぃっ! が、ガリウス会長! これは誤解で……!」


「黙れ! 貴様の悪徳な詐欺の手口、もはや誤解で済む域を超えている!」


ガリウスと呼ばれた商会長は、ボルドドの言い訳を一喝で切り捨てた。


「あの廃船を外装だけ直して素人目に騙し、高値で売りつけようとするなど、商会の名折れだ! 私が何度も警告したはずだぞ!」


どうやらこのガリウス会長は、ボルドドの悪質な手口を以前から問題視し、監視していたらしい。


「い、いや、これは……商会の利益を思ってのことで……!」


「言い訳など聞きたくない! お前は即刻解雇だ! 護衛の者、この男と倒れているゴロツキどもを縛り上げろ! 詐欺未遂と恐喝の罪で、街の衛兵に引き渡してやる!」


「そ、そんなぁぁぁっ……!」


ボルドドは警備員に引きずられ、絶望の叫びを上げながらドックから連行されていった。


あっという間に騒ぎが鎮圧され、ガリウス会長は深くため息をついた。


そして、俺たちの方へ向き直り、深々と直角になるほど頭を下げた。


「当商会の愚か者が、大変なご無礼を働きました。私はこの商会を束ねるガリウスと申します。平にご容赦ください」


「いや、俺たちは気にしていない。あんたがすぐに飛び出してきて、公平な判断を下してくれたからな」


俺が静かに答えると、ガリウスは少しだけ安堵の表情を見せた。


その時、騒ぎを聞きつけて港を巡回していた街の衛兵隊がドックに駆け込んできた。


「何事だ! 詐欺事件と聞いて飛んできたが……被害者の方々、調書のために身分証の提示をお願いできるか?」


衛兵の隊長が、事務的な口調で俺たちに声をかけてくる。


「ああ、わかった。俺たちは一応、冒険者として活動している」


俺は懐から、自身のギルドカードを取り出して衛兵隊長に手渡した。


同時に、レイア、シルヴィア、セツナ、レオナ、タマモの五人も、それぞれのギルドカードや身分証を提示する。


衛兵隊長は俺のカードを受け取り、そこに刻まれた『ランク』の紋章に視線を落とし――。


「え……?」


衛兵隊長の動きが、石像のようにピタリと固まった。


彼はカードを何度も見直し、信じられないものを見るように目をひん剥いた。


「エ、エスエス……SSランク!? こ、国家の枠組みを超越した、大陸にただ一組だけの唯一無二の存在……SSランク冒険者のクロウ様だとぉぉっ!?」


その絶叫に、周囲にいた衛兵たちや、頭を下げていたガリウス会長も弾かれたように顔を上げた。


「な、なんだと!? 御伽話の中だけの存在じゃなかったのか……生ける伝説、SSランク冒険者様だと!?」


「そ、それに、こちらのレイア様、シルヴィア様、セツナ様、レオナ様も……驚いたことに全員がSSランクのバケモノ……いや、大陸最強の英雄の方々じゃねえか!!」


「それに、この狐の御方は帝国の特級市民証を持っておられるぞ!?」


「ひぃぃっ! も、申し訳ございません!!」


衛兵隊長をはじめとする衛兵たちが、一斉に直立不動の最敬礼をとった。


彼らの震えは止まらず、手に持っていた槍をカタカタと鳴らしている。


ガリウス会長に至っては、滝のような冷や汗を流し、今度は地面に額が擦れるほどの土下座の勢いで平伏した。


「ひ、ひぃぃぃっ! 大陸唯一のSSランクの英雄様方に、あのような詐欺を働こうとしていたとは……! 当商会は、なんという恐ろしい相手に喧嘩を売ってしまったのだ……!」


ガリウスの身体がガタガタと震えている。


「そんなに縮こまらなくていい。あんたの誠意は伝わっているし、俺たちもバカンスの時間をこれ以上削りたくないんだ」


俺が苦笑しながら声をかけると、ガリウスは震える手でハンカチを取り出し、額の汗を拭った。


「は、ははぁっ! 寛大な御心、痛み入ります……! このお詫びとして、私が責任を持って、皆様に最高の船をご案内させていただきたいのですが……!」


「それは助かる。実は、俺たちには船に対する細かい要望があってな」


俺の言葉に、ガリウスはパッと顔を上げ、商人の顔を取り戻した。


「どのようなご要望でしょうか? 当商会の総力を挙げて、必ずやご満足いただける一隻をご用意いたします!」


俺は腕を組み、レイア、シルヴィア、セツナ、レオナ、タマモの顔を見渡してから、ガリウスに条件を伝えた。


「まず、俺たちの相棒である暴君雷風竜、タロウが一緒に乗ってもビクともしない、巨大で頑丈な竜骨を持つ船だ」


「巨大な竜、ですか。それはかなりの大型船になりますね」


ガリウス会長が顎に手を当てて頷く。


「それに加えて、レイア、シルヴィア、セツナ、レオナ、タマモ、そして俺が、全員でゆったりと快適に旅ができる居住スペースがあること。そして一番重要なのは、最新の魔導システムが搭載されていることだ」


俺の言葉に、ガリウスは少し目を丸くした。


「最新の魔導システム、ですか?」


「ああ。俺たちの中に、専門の操舵手や航海士はいないからな。全員でバカンスを全力で楽しむためには、船が勝手に進んでくれるのが一番なんだ」


俺がウインクをして見せると、シルヴィアがポンと手を叩いた。


「なるほど。操舵手がずっと張り付いていなくてもいいように、自動で航行してくれる機能ね」


「その通りだ。あらかじめ目的地を設定すれば、御者がいなくても魔物を自動で感知して避けながら、安全なルートを自律航行で進んでくれる機能が欲しい。そんな都合のいい船、あるか?」


俺が無茶振りに近い条件を提示すると、ガリウス会長はしばらく考え込んだ後、ポンと手を打って笑顔を見せた。


「……お客様。実は、その条件にぴったりと合う、とびきりの一隻がございます」


「本当か?」


「ええ。ある大貴族が、最新鋭の魔導技術を注ぎ込んで特注で建造させた最高級の魔導船があるのです。自動航行システムはもちろん、魔物避けの結界発生装置、さらには大型の魔獣を収容できる専用の貨物ハッチまで完備しております」


ガリウス会長の言葉に、レオナが目を輝かせた。


「ガハハ! それならタロウも快適に過ごせそうだな!」


「しかし、なぜそんな最高の船が売れ残っているんだ?」


俺が疑問を口にすると、ガリウス会長は少しだけ困ったような顔をした。


「実は、その大貴族が資金繰りに窮してしまいましてな。完成間近でキャンセルとなってしまったのです。性能は申し分ないのですが、あまりにも高価すぎるため、買い手がなかなかつかずドックの奥で眠っておりました」


「なるほどな。で、いくらだ?」


俺が単刀直入に尋ねると、ガリウス会長は背筋を伸ばし、真剣な顔で答えた。


「本来であれば、金貨一万枚は下らない代物です。……ですが、今回は当商会の不始末への深いお詫びもございます。採算度外視、金貨二千枚でお譲りしましょう」


「金貨二千枚……!」


レイアが驚きの声を上げる。


普通の冒険者にとっては一生かかっても稼げないほどの莫大な金額だ。


だが、迷宮都市バベルの深層素材を売却し、各国の闘技場や依頼で莫大な報酬を得ている俺のアイテムボックスには、その何十倍もの資金が眠っていた。


「よし、買った。その船をもらおう」


俺が即決し、【時空間魔法】の亜空間から金貨がぎっしりと詰まった麻袋を次々と取り出して積み上げると、ガリウス会長は目をひん剥いて固まった。


「こ、これは……時空間魔法!? しかもこれだけの金貨を即金で……! かしこまりました! すぐに船を出航できる状態に整えさせます!」


ガリウス会長が慌てふためきながら指示を飛ばしに走っていく。


「ふふっ、これで私たちの専用の船が手に入ったわね。クロウの豪快な買いっぷり、嫌いじゃないわよ」


シルヴィアが楽しそうに笑い、俺の腕にそっと腕を絡めた。


「これで、誰にも邪魔されずに、皆で海を満喫できますね!」


レイアも嬉しそうに微笑み、セツナは「お魚、たくさん釣ります!」と意気込んでいる。


「わらわは船酔いせぬか少し心配じゃが……快適な船なら問題なかろう! さあ、早く海へ出るのじゃー!」


タマモが九本の尻尾を揺らしながら、はしゃいでいる。


南の港町での思いがけないトラブルは、結果として、俺たちのバカンスを最高のものにする『最新鋭の魔導船』を手に入れるという最高の結末を迎えた。


青く澄み渡る空と、どこまでも続く大海原。


俺たちの終わらない日常の第一弾――『常夏の群島・ブルーオアシス』へ向けた、快適で豪華な船旅が、いよいよ幕を開けようとしていた。


どうやら、俺のDIY魂の出番は、船の内装でも存分に発揮されることになりそうだ。

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