表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
90/123

第90話 バベルの我が家と、止まらないDIY魂

迷宮都市バベルの中央ギルドで、胃痛に苦しむギルド長バルガスへの『帰還報告』という名の爆弾投下を済ませた俺たちは、夕暮れの街を歩き、東の郊外にある『マイホーム』へと帰り着いた。


「よし、着いたぞ。ここが俺たちの拠点だ」


俺が鉄格子の門を開け、鬱蒼とした木々に囲まれた三階建ての洋館を指し示す。 かつては幽霊屋敷と呼ばれたボロボロの廃屋だったが、俺が外壁を直し、庭の雑草(毒草)を更地にしたことで、今では落ち着いた雰囲気の立派な邸宅となっている。


「おおっ! ここが旦那様の城か! 帝都の別荘みたいなキラキラした感じはねえが、すげえ頑丈そうでいい構えじゃないか!」


レオナが目を輝かせながら、庭の芝生を踏みしめる。


「ふむ……。帝都の屋敷に比べるとこぢんまりとしておるが、なんじゃこの家から漏れ出しておる異様な魔力は? エルフの森の神木より濃い気がするのじゃが……」


タマモが狐耳をピクピクと動かし、周囲の空気をクンクンと嗅いでいる。


「中に入ればわかるよ。さあ、二人ともおいで」


シルヴィアが微笑みながら玄関の扉を開け、レイアとセツナも「おかえりなさい!」と二人を招き入れた。


玄関を抜け、広いリビングへと足を踏み入れた瞬間、レオナとタマモは揃って息を呑んだ。


「な、なんだこの柱と床は!? 触れただけで、身体の奥の闘気が活性化するような……ただの木材じゃねえぞ!?」


「うむむ……こ、これは、まさかバベルの深層でしか採れんという『深海沈没木アビス・ウッド』か!? それも、こんなに大量に……っ!」


二人が驚くのも無理はない。

俺がサバイバルとダンジョン探索で集めた最高級の素材を惜しげもなく使い、俺自身の手で削り出し、パズルのように組み上げた魔改造建築なのだ。


「すっごく空気が澄んでて、落ち着くでしょう? 冬は床下の魔石のおかげでポカポカですし、お風呂なんて最高なんですよ!」 レイアが得意げに胸を張る。


「……そういえば」 俺はリビングの特注ソファーに腰を下ろし、ふと思い出した。


「さっきギルドでバルガスに報告した時、SSランクと名誉公爵の話で向こうがパニックになってたから……レオナとタマモのこと、ちゃんと紹介するの忘れてたな」


俺の言葉に、シルヴィアがくすりと笑う。


「ふふっ、確かにそうね。彼、書類上でメンバーの名前は見ていたはずだけど、目の前にいる二人が『百戦無敗の剣闘士』と『伝説の妖狐』だってことには気づく余裕もなかったみたいだし」


「ガハハ! かまわんさ、旦那様の報告だけであのギルド長は胃を抱えてぶっ倒れそうになっていたからな。私たちが自己紹介したら、泡を吹いて気絶していたかもしれんぞ」


レオナが豪快に笑い飛ばす。


「まあ、次ギルドに行く時に改めて紹介すればいいか。今日のところはゆっくり休もう」


俺がそう言って一息ついた時、玄関の郵便受けに何かがコトリと落ちる音がした。


「あれ? 郵便ですかね。私が見てきます」


セツナが小走りで玄関へ向かい、一通の封筒を持って戻ってきた。

封筒には、見覚えのある豪華な紋章――アルカディア王国の有力貴族、アルバート伯爵家のシーリングスタンプが押されている。


「アルバート伯爵から? なんだか分厚い手紙ですね」


レイアが首を傾げる中、俺は封を切り、中身に目を通した。


『親愛なるクロウ殿、そして気高き英雄の皆様へ。 王都のギルド本部より、皆様が世界を救う大偉業を成し遂げられ、史上初の【SSランク】、そして帝国より【名誉公爵】の地位を授けられたという報せが届きました! おお、なんという誉れ! 私と娘のシャルロッテは、この胸の熱き感動を抑えきれず、直々にお祝いを申し上げるべく、お祝いの品を馬車に満載してバベルへと出発いたしました! 私たちの到着は数日後になるかと存じますが、どうか、どうかお会いできることを楽しみにしております!』


「……相変わらず、行動が早すぎるなあの親娘」


俺が苦笑しながら手紙を読み上げると、仲間たちも一斉に笑い声を上げた。


「ふふっ、シャルロッテお嬢様、クロウさんに会いたくてウズウズしていたんでしょうね」


「王都からバベルまで、普通なら十日以上かかる道のりよ。それを数日で駆けつけるなんて、どれだけ馬を急がせているのやら……」


「でも、伯爵たちが来てくれるなら、しっかりおもてなししないとですね! クロウさんの美味しいご飯で!」


セツナが尻尾を振りながら嬉しそうに言う。


「ああ、そうだな。……だが、その前にやることがある」


俺はリビングを見渡し、そして二階へ続く階段を見上げた。


「レオナとタマモの分の家具がまだ揃ってないし、何より、大貴族の伯爵たちを迎え入れるための『応接室』がこの家にはない。……明日は一日がかりで、家具作りと部屋の模様替えだ。お前たち、手伝ってくれよ?」


俺の【DIY魂】の再燃宣言に、仲間たちは「はいっ!」と元気よく返事をした。


◆ ◇ ◆


翌朝。 俺たちは朝食を手早く済ませ、さっそく作業に取り掛かった。 材料は【時空間魔法】(アイテムボックス)の中に山ほど眠っている。


「よし、まずはレオナの部屋だ。お前の体格と筋力だと、普通のベッドじゃ寝返りを打っただけで枠がぶっ壊れるからな」


「フハハ! 確かに、帝都の宿屋でも何度かベッドの底を抜いてしまったことがある! 頼むぞ、旦那様!」


俺は『深海沈没木』の極太の丸太を容赦なく切り出し、釘を一本も使わずに複雑な木組みで巨大なベッドフレームを組み上げていく。


さらに、マットレスの下には、衝撃を吸収する『大型スライムの核』を加工した特製サスペンションを仕込んだ。


「これなら、お前が上で暴れても絶対に壊れない。マットレスも、深層で狩った魔獣の極厚の毛皮を重ねてあるから寝心地は抜群だぞ」


「おおおっ……!! すげえ、跳ねてもビクともしねえ! 最高だクロウ!」


完成したベッドにダイブしたレオナが、子供のようにはしゃいでいる。


「次はわらわじゃ! わらわの寝床もとびきり豪華にするのじゃぞ!」


タマモが俺の服の裾を引っ張る。


「お前は子供の姿で寝るんだろう? なら、これでどうだ」


俺がタマモの部屋に用意したのは、ベッドではなく、部屋の半分を埋め尽くすほどの『超巨大なフカフカのクッション広場』だった。


最高級のシルクと魔獣の綿毛をふんだんに使い、どこにダイブしても埋もれるような柔らかさを実現している。


「わぁぁっ!! な、なんじゃこの極上の沈み心地は……! これなら、わらわの気高い三本の尻尾も痛まぬ! クロウ、お主は天才か!」


タマモはそのままクッションの海へとダイブし、幸せそうに丸くなってしまった。


「ふふっ、二人ともすごく嬉しそうですね」


レイアとセツナが、その様子を見て微笑んでいる。


「さて、ここからが本番だ。一階の空き部屋をぶち抜いて、伯爵たちを迎えるための『応接室』を作るぞ」


俺の言葉に、全員の表情が引き締まる。


俺はアイテムボックスから、光沢のある黒曜石や、美しい翠銀ミスリルの装飾金具、そして最高品質の木材を次々と取り出した。


シルヴィアが魔法で細かな木屑やホコリを吹き飛ばし、レイアとレオナが重い木材を運び、セツナが俺の指示通りにやすりがけを行う。


俺たちは完璧な連携で、巨大なアビス・ウッドの応接テーブル、来客用のゆったりとした高級ソファー、そして部屋を彩る飾り棚などを次々と錬成していった。


「よし、配置はこんなもんか。……完璧だな」


夕暮れ時。 俺が額の汗を拭って見渡した応接室は、王宮の客間と言われても遜色のない、重厚で洗練された空間へと変貌を遂げていた。


「すごいわ、クロウ。たった一日で、これほどの家具を一から作り上げてしまうなんて。帝国の家具職人が見たら、泣いて弟子入りを志願してくるわよ」


シルヴィアが感嘆の息を漏らす。


「これで、いつでも伯爵たちをお迎えできますね!」


「ああ。明日は、俺たちの旅で手に入れた各国の名物料理を仕込んで、最高のおもてなしをしてやろう」


15年間のサバイバルで鍛え上げた技術が、こうして誰かを迎え入れ、喜ばせるための『日常』に使われている。

俺は仲間たちの充実した笑顔を見回しながら、明日の来客の到着を、心待ちにするのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ