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第53話 帝都の別荘と、こだわり尽くしの模様替え

覇帝国ガレリアの女皇帝カテリーナから贈られたのは、帝都の北側、高台に位置する貴族街の一角にある広大な屋敷だった。


白亜の外壁に重厚な黒鉄の門扉。手入れの行き届いた広大な庭園には、季節外れの魔導桜が美しく咲き誇っている。


「……ここが、私たちの家。……帝都に、こんなに立派な拠点を持てるなんて」


レイアが感嘆の溜め息をつきながら、見上げるほど高い天井を見上げた。


エントランスを抜ければ、そこには贅を尽くした大理石の床と、クリスタルのシャンデリアが輝く大ホールが広がっている。


「ふむ、なかなか悪くないのじゃ! 霊山の祠よりは狭いが、このフカフカの絨毯は気に入ったぞ!」


タマモがさっそく靴を脱ぎ捨てて(人間のルールを教え込むのはまだ時間がかかりそうだ)、ホールを縦横無尽に走り回っている。尻尾が三本、嬉しそうにゆらゆらと揺れていた。


「さすがは皇帝陛下からの贈り物ね。……でも、少し『生活感』が足りないわ。高級すぎて、落ち着かないというか」


シルヴィアが周囲を見渡しながら、少しだけ肩をすくめた。


確かに、用意された調度品はどれも超一流だが、どこか展示会のような冷たさがある。


「ああ、同感だ。……よし、せっかくの俺たちの家だ。内装を少し自分たちらしく弄らせてもらおう。幸い、アイテムボックスにはバベルでのサバイバル中に揃えた『秘蔵の家具』が山ほど眠っているからな」


俺は不敵に笑うと、袖を捲り上げた。


15年の無人島生活、そしてバベルでの拠点作りで培った俺のDIY魂が、久しぶりに静かに燃え上がっていた。


「まずはリビングだ。この冷たい大理石のテーブルは一旦横に退けて……これを使おう」


俺がアイテムボックスから取り出したのは、バベルの深層でしか採れない『深海沈没木アビス・ウッド』を贅沢に使った、自作の巨大なローテーブルだ。


鈍い光沢を放つ黒い木肌は、鉄よりも頑丈でありながら、触れると温かみを感じる不思議な素材だ。


「わあ、バベルの家にあるのと同じ素材ですね! これを置くだけで、一気に私たちの場所って感じがします!」


レイアが嬉しそうに椅子を配置していく。椅子ももちろん、俺が深層の革を使って座り心地を追求した特注品だ。


さらに、窓辺にはシルヴィアが好む観葉植物のスペースを作り、セツナのために陽当たりの良い場所に柔らかなクッションを敷き詰めた『猫用……いや、獣人用リラックススペース』を設けた。


「あ、これ……すごく、落ち着きます……」


セツナがさっそくそのクッションの上に丸くなり、尻尾をパタパタとさせている。


「キッチンも少し改造が必要だな。タロウの馬車に積んである魔導コンロの予備を出して、火力を調整できるようにしよう。あとは……そうだな、帝国で手に入れたスパイス専用の棚も作らないと」


俺は【時空間魔法】を駆使して、瞬時に棚を壁に設置し、調理器具を使いやすい位置に配置していく。


プロの建築士が見れば卒倒するような速度で、無機質だった豪邸が、俺たちの旅の記憶と好みが詰まった『最高の家』へと塗り替えられていく。


「お主、本当に器用な男じゃのう。……ほう、この椅子はわらわのサイズにぴったりではないか!」


タマモが俺の作った小さなスツールに収まり、満足そうに鼻を鳴らした。


約半日をかけた模様替えが終わる頃には、屋敷は完璧に「俺たちの家」として完成していた。


「よし、配置は完了だ。……さて、新居の完成を祝して、今日は盛大なパーティーにしよう。帝都で買い込んだ最高級の食材を全部使うぞ!」


「やったぁぁ! パーティーじゃ! 肉じゃ! 肉を持ってまいれー!」


タマモの歓喜の叫びが、新しい家の高い天井に響き渡った。


屋敷の巨大なダイニングルームに、芳醇な香りが立ち込めていた。


今夜のメニューは、帝国で手に入れた最高級の『黒毛火牛』のステーキと、獣人の村で貰った黄金スパイスをふんだんに使った『帝国風ドライカレー炒め』、そしてシルヴィアが厳選したエルフ特製の果実酒だ。


「ご主人様、お肉の焼き加減、完璧です……!」


セツナがキラキラとした目で、大皿に盛られた分厚い肉を見つめている。


俺は修行中に覚えた「力のオンオフ」を、なんと調理にも応用していた。強火で一気に表面を焼き固め(100の火力)、余熱でじっくりと中まで火を通す(ゼロの脱力)。


その結果、外はカリッと、中はナイフを入れた瞬間に肉汁が溢れ出すほどの究極のステーキが完成したのだ。


「さあ、みんな、好きなだけ食べてくれ。新しい拠点に乾杯だ!」


「「「「乾杯!!」」」」


エールのジョッキや果実酒のグラスが小気味よく鳴り響く。


「……んんっ!! 美味しい! このお肉、修行の疲れが全部吹き飛んじゃうくらい甘いです!」


レイアが頬を赤らめ、幸せそうに肉を咀嚼する。


「このドライカレーも最高だわ。黄金スパイスの刺激と、ナッツの食感が絶妙に絡み合ってる。クロウ、あなた本当にその辺の宮廷料理人より腕がいいんじゃない?」


シルヴィアも、額に薄っすらと汗を浮かべながら、夢中でフォークを動かしている。


「ふはははっ! 美味い、美味いぞ! この『カレー』という魔法の粉、霊山の祠にも置いておくべきであったわ! むぐむぐ……これをおかわりじゃ!」


タマモは小さな口を全開にして、自分の体の半分ほどもある山盛りの料理を驚異的な速度で平らげていく。住民票(身分証)を横に置き、ドヤ顔で食べ歩きならぬ「食べまくり」を謳歌している。


「ガウッ!」


「ああ、タロウの分もあるぞ。特製の竜用の肉塊だ」


庭から窓越しに鼻を覗かせていたタロウに、俺は巨大な猪肉を放り投げた。タロウもご機嫌に喉を鳴らし、ガツガツとそれを咀嚼している。


美味しい料理と、信頼できる仲間たちの笑い声。


つい数日前まで、死力を尽くしてドラゴンと戦ったり、ジークさんに木刀でぶっ叩かれていたのが嘘のような、穏やかで満たされた時間。


「……バベルの無人島にいた時は、一人で泥まみれの魚を焼いて食ってただけだったのにな」


俺がふと漏らした独り言に、隣にいたレイアがそっと俺の手を握った。


「クロウさんが頑張って生き抜いてくれたから、私たちは今、こうして出会えているんです。……これからもずっと、こうして美味しいご飯を一緒に食べましょうね」


「……ああ。そうだな」


レイアの優しい言葉に、俺は心の底から温かいものが広がっていくのを感じた。


夜が深まるまで、俺たちの新居での宴は続いた。



翌朝。


柔らかな朝日が、広い寝室に差し込んできた。


最高の寝心地のベッドから起き上がった俺は、リビングで既にくつろいでいた仲間たちに声をかけた。


「さて。今日はこれから、帝都の『冒険者ギルド』に顔を出してみようと思う。せっかく名誉貴族の証も貰ったことだし、帝国側の手続きもしておかないといけないからな」


「賛成です! 帝国のギルドがどんな雰囲気か、私も気になっていました」


レイアが元気よく立ち上がる。


「武闘国家のギルドだもの。きっと王都とは比べ物にならないくらい、血気盛んな依頼が並んでいるんでしょうね。……高ランクの依頼があれば、修行の成果を試すのに丁度いいわ」


シルヴィアも、自身の竜弓の手入れをしながら不敵に笑う。


「わらわも行くのじゃ! 住民票を見せびらかして、美味しい屋台をまた巡るのじゃ!」


「タマモ、お前の目的はそればっかりだな……」


俺たちは身なりを整え、意気揚々と帝都のメインストリートへと繰り出した。


帝国での『名誉貴族』としての新しい生活。そして、さらに磨き抜かれた俺たちの実力を試す、次なる冒険。


帝都の冒険者ギルド――その門を潜る時、俺たちは再び、武者震いにも似た高揚感を感じていた。


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