第42話 王都再訪と、Sランク昇格の推薦状
ドワーフの国『ガルド』での防衛戦から数日。
タロウ(Sランク地竜)が引く魔改造キャンピングカーは、アルカディア王国の中心――巨大な城壁に囲まれた『王都』の門前へと辿り着いた。
「と、止まれぇぇっ!! き、巨大な地竜だ!! 衛兵、槍を構えろ!!」
「弓兵部隊、急げ! なぜこんな王都の目の前に災害級の魔物が……っ!」
当然のことながら、王都の正門前は大パニックに陥った。
タロウを王都に連れてくるのはこれが初めてだ。入国審査待ちの商人たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、数十人の衛兵たちが顔を真っ青にしてこちらを取り囲む。
「タロウ、止まれ。……少し待っていてくれ」
「ガウッ」
俺はタロウをその場に待機させ、馬車からゆっくりと降りた。
両手を軽く上げて敵意がないことを示し、武器を構える衛兵の隊長らしき男へと冷静に声をかける。
「落ち着いてくれ。この地竜は俺の従魔だ。決して人は襲わない」
「じゅ、従魔だと……!? 暴君地竜が人に従うわけが……」
「証明ならここにある。バベルのギルド長から発行された従魔登録証と……念のため、これも見ておいてほしい」
俺は懐から正式なギルドの書類と、以前ここへ来た時にアルバート伯爵から受け取っていた『大貴族の家紋証』を提示した。
書類の魔法印と、王都でも絶大な権力を持つ伯爵家の紋章を見た衛兵隊長は、驚愕に目を見開き、慌てて槍を下ろした。
「ほ、本物の伯爵家の紋章……。大変失礼いたしました! すぐに通路を開けます!!」
「ありがとう。騒がせて悪かったな」
俺は静かに頷き、馬車へと戻る。
手続きを終え、専用のゲートから王都へと足を踏み入れると、窓の外の景色を見ていたレイアが、どこか懐かしそうに目を細めた。
「王都……久しぶりですね。前にロレンツォ会長の護衛依頼でここへ来た時は、クロウと二人だけでした」
「ああ、そうだったな。あの時はまだ馬車の旅で、道中も色々あった」
俺が当時を思い返していると、シルヴィアがふふっと優しく微笑んだ。
「ええ。そして、ここの王都のギルドで、私があなたたち二人に声をかけたのよね。……なんだか、ずっと昔のことのように感じるわ」
「わぁ……! じゃあ、ここはシルヴィアさんと出会った思い出の場所なんですね! 私は初めて来たので、すごくワクワクします!」
セツナが狼の耳をピコピコと動かしながら、巨大な石造りの街並みを興味津々で見渡している。
馬車での長旅から、こうして再び王都の地を踏むことになるとは。俺たちはタロウを王都の従魔専用の厩舎に預け(彼が退屈しないよう大量のオーク肉を与えてから)、冒険者ギルドの『王都本部』へと足を運んだ。
◆
王都本部は、大理石が敷き詰められた城のような造りだった。
俺たちは受付へと向かい、ベテランらしき受付嬢に声をかける。
「すまない。バベルとガルドのギルド長から、Sランク昇格試験の推薦状を預かっている。手続きをお願いできるか」
俺がそう言って、バルドたちから預かった推薦状と実績証明書の束を提出する。
受付嬢は「推薦状、ですか……?」と怪訝そうな顔をしたが、羊皮紙の封を切り、そこに記された『ワイバーンの群れの無傷殲滅』や『ガルドのスタンピードの完全鎮圧』といった実績、そして推薦人の署名を見た瞬間、息を呑んで硬直した。
「バベルとガルド、両ギルドマスターからの特級推薦……っ! 少々お待ちください、すぐに上の者を呼んでまいります!!」
受付嬢が血相を変えて奥へと駆け込んでいく。
しばらく待っていると、ギルドの奥の扉が開き、重厚な足音と共に一人の男が現れた。
「――騒がしいな。お前たちか、バルドのジジイが『規格外の連中を送り込む』と手紙をよこしてきたのは」
豪奢なギルドの制服を羽織った、顔に無数の傷跡を持つ片眼の男。
彼が姿を見せただけで、周囲の空気がビリッと張り詰める。
この大陸の冒険者の頂点に立つ『王都ギルド本部』のマスターだ。
「俺はギルドマスターのガウェインだ。なるほど……確かに良い面構えをしてやがる。それにその武器、ただの業物じゃなさそうだな」
「お褒めにあずかり光栄だ。俺がクロウ、こっちがレイアだ。手紙の通り、Sランクの昇格試験を受けに来た」
俺が静かに、だが決して気圧されることなく答えると、ガウェインは鋭い隻眼で俺たちを値踏みするように見つめた。
「ああ。バルドのジジイとバベルからの特級推薦だ。お前ら二人のSランク試験への挑戦は受理する。……だが、そっちの獣人の娘はどうするつもりだ?」
ガウェインの隻眼が、俺の後ろに控えるセツナを捉えた。
「資料によれば、特例でCランクになったばかりのようだが……今回のスタンピード討伐の報告書には、きっちりとその娘の戦果も記されている。Cランクの器じゃねえな」
「その件についても、ギルドに要求があった」
俺は一歩前に出て、冷静に告げた。
「セツナの戦闘力とこれまでの功績は、すでにAランクに到達している。彼女だけをCランクに据え置いておくのは、ギルドの評価基準としても不自然だろう。俺たちのSランク試験の受理と併せて、彼女のAランクへの特例昇格も認めてほしい」
俺の言葉に、セツナが「ご、ご主人様……っ」と驚いたように耳を立てた。
ガウェインはセツナの腰にある『伝説級:血竜の暗殺短剣』と、強者特有のブレのない立ち姿をじっくりと観察し――やがて、獰猛な笑みを浮かべて鼻を鳴らした。
「ハッ……Cランクが聞いて呆れるぜ。あんなヤバい魔力を放つ双剣を帯びたCランクがいてたまるか。いいだろう、二人のギルドマスターからの推薦と、この俺の目利きだ。セツナのAランク昇格は、この場で俺の権限をもって即座に認めてやる」
「本当ですか……!? ありがとうございます、ご主人様! ギルドマスターさんも!」
セツナがパァッと顔を輝かせ、尻尾をちぎれんばかりに振って喜ぶ。
レイアとシルヴィアも、「良かったわね、セツナちゃん」「ええ、当然の評価ですよ」と優しく微笑み合った。
「だが、安心するのはまだ早いぞ」
ガウェインは再び俺とレイアに向き直り、その隻眼に鋭い光を宿した。
「Sランクってのは『国家の戦略兵器』と同義だ。ただ魔物が狩れるだけの単細胞にくれてやる称号じゃねえ。……試験は三日後だ。それまでに、お前らのその力が『S』を名乗るに相応しいか、俺自身が試す舞台を用意してやる」
王都のギルドマスターからの、直接の宣告。
俺は小さく息を吐き、冷静に状況を整理してから、ガウェインの目を真っ直ぐに見返した。
「……なるほど。単なる戦闘力だけでなく、国家の戦力としての適性を見るということだな。わかった、どのような試験でも受けよう。詳細が決まったら教えてくれ」
決して驕らず、だが引くこともない俺の返答に、ガウェインは「ハッ、肝も据わってやがる」と面白そうに笑った。
こうして、かつて出会いと始まりを経験したアルカディア王都を再び舞台に。
仲間たち全員が最高の評価を得るための、最高位『Sランク』を懸けた試験が幕を開けようとしていた。




