第41話 豪快なギルド長と、龍を追う流浪の剣客
数千の大規模スタンピードは、伝説級の武具を手にした俺たちと、龍の国から来た流浪のコンビ(カガミとリン)の手によって、ものの数時間で完全な鎮圧に至った。
一切の被害を出さず、むしろ討伐部位(素材)が山のように積み上がる結果となり、俺たちはガルドの冒険者ギルドへと事後報告に向かった。
「ガァーッハッハッハッ!! 数千のスタンピードをたった六人で、しかも無傷で殲滅しただと!? おいおい、バベルのギルド長からは『とんでもねえバケモノ共がそっちに向かった』と手紙が来てたが……ここまで規格外だとはな!!」
ギルドの長室。
身の丈ほどもある巨大な鋼鉄のハンマーを背負い、樽のジョッキでエールを煽りながら豪快に笑うのは、ガルドのギルド長であるドワーフの男、バルドだった。
彼自身も、かつては最前線で暴れ回っていた元Sランクの冒険者らしい。人使いが荒く酒癖も悪いと有名だが、実力者は何よりも厚遇するという情に厚い男だ。
「いやぁ、あんたらの働きで国が救われた! バベルの細っこいギルド長は、お前らみたいな連中を扱いきれずに胃を痛めてたらしいが、俺は強い奴は大歓迎だぜ!!」
「それはどうも。で、報告は終わったが……報酬とは別に、俺たちに話ってなんだ?」
俺が尋ねると、バルドはジョッキをドンッと机に置き、ニヤリと笑って引き出しから数枚の羊皮紙を取り出した。
「お前ら、Aランクだろ? 今回の国を救った特大の功績……これなら、文句なしに王都での『Sランク昇格試験』の推薦状が出せる。どうだ、受けてみる気はねえか?」
「Sランクの……昇格試験」
レイアが驚いたように息を呑む。
冒険者にとってSランクとは、まさに生ける伝説。一握りの天才と、死線を潜り抜けた絶対的な強者のみが到達できる頂点だ。
「シルヴィアはすでにSランクだが……クロウ、お前とレイア、それからそっちの侍のおっさん(カガミ)には、推薦状を書いて王都のギルド本部へ口利きしてやれるぜ」
「私とクロウさんが、Sランクに……っ!」
レイアが顔を紅潮させ、俺の方を見つめる。
俺にとっても、冒険者としての最高位に就くことは、この世界で自由に、そして安全に生きるための最強の『権力』になる。断る理由はない。
「わかった、俺とレイアはその推薦を受けよう」
「よし! で、そっちの刀使いのおっさんはどうする? あんたの太刀筋、俺の現役時代でもゾッとするほどのキレだったが」
バルドが視線を向けると、壁際で静かに目を閉じていたカガミが、ゆっくりと首を横に振った。
「バルド殿の厚意、痛み入る。……だが、拙者たちは辞退させていただこう。我らはあくまで修行の旅の途中。名誉に縛られて足が止まるのは、本意ではないのでな」
「そうか、そりゃあ残念だ。ま、そういう枯れた強者ってのも嫌いじゃねえ。……よし! 難しい話はここまでだ! 国を救った英雄たちに、ギルドの酒を全部振る舞ってやる! 宴だァ!!」
バルドの号令と共に、ギルド併設の巨大な酒場が、ドワーフたちによる大宴会会場へと早変わりした。
◆
「ん〜っ! 師匠、このお肉すっごく美味しいよ! はい、あーん!」
「こらリン、拙者は自分で食える。……はむ」
賑やかな喧騒の中。
特大のジョッキ片手にシルヴィアと飲み比べをしているバルドや、甘酒ジュースで乾杯するセツナとレイアを横目に、俺はカガミと向かい合ってドワーフの秘蔵酒をちびちびと酌み交わしていた。
「しかし、Sランクの推薦を蹴るとはな。修行の旅ってのは、そんなに急ぎの用なのか?」
俺がそう尋ねると、カガミは杯を見つめたまま、ふっと鋭い、しかしどこか重い眼差しになった。
「……探しているものがあるのだ。クロウ殿、お主は『おとぎ話』を信じるか?」
「ものによるな。神話級の武器や防具が実在する以上、大抵のことは驚かないつもりだ」
俺の答えに、カガミは満足そうに口角を上げた。
「龍の国の古い伝承にあるのだ。はるか昔、世界を焼き尽くそうとした『厄災』……邪悪なる古の龍が、この大陸のどこかに封印されている、と」
「厄災の龍……」
「拙者たちの旅は、強さを求めるための修行であると同時に、その『影』を追う旅でもある。……まあ、半分は眉唾物の御伽噺だがな」
カガミはそう言って空気を和らげるように笑い、杯を一気に飲み干した。
俺もそれ以上は深く追及せず、ただ杯を合わせた。だが、あの鋭い太刀筋を持つ男が、確かな意志を持って追っているのだ。その『厄災』の存在は、決してただの御伽噺ではないのだろう。
「クロウ殿の剣技、見事であった。王都での昇格試験、良き結果となることを祈っているぞ」
「あんたたちもな。またどこかで会ったら、今度は手合わせでも頼むよ」
翌朝。
俺たちは、再び当てのない修行の旅へと向かうカガミとリンを、街の入り口で見送った。
「ばいばーい、クロウさんたち! 王都での試験、頑張ってねー!」と大きく手を振る猫系少女と、静かに頭を下げる初老の侍。
異国から来た流浪の剣客との出会いは、俺たちに良い刺激と、世界に眠る『厄災』という新たな謎を残していった。
「さて……」
俺はドワーフの国境を見据え、仲間たちを振り返った。
「俺たちの次の目的地も決まったな。アルカディアの王都へ向かい、Sランク昇格試験を受けるぞ」
最高の武器と、最高の仲間たち。
俺たちの旅は、バベルを超え、再度この大陸の中心である王都へとその舞台を移そうとしていた。




