第4話 難破船の遺留品と、彼らが求めた『伝説』の行方
「潮の香りがするな」
山を下り、ジャングルを抜けた俺の前に広がっていたのは、見渡す限りの青い海と白い砂浜だった。
15年ぶりの海だ。だが、感傷に浸るよりも先に、俺の視線は砂浜に乗り上げている巨大な人工物に釘付けになった。
「……船、だよな。しかもかなりデカい」
木造の帆船。いわゆるガレオン船というやつだ。
マストは無残に折れ、船体には巨大な爪痕のような大穴がいくつも空いている。俺は警戒しながら、自作の漆黒の剣を片手に船内へと足を踏み入れた。
船の中は、凄惨な有様だった。
魔物の襲撃を防ぐために作られたであろう痛々しいバリケード。その奥には、完全に白骨化した人々の遺体がいくつも転がっていた。
状況から察するに、運良く(あるいは運悪く)この絶海の孤島に漂着したものの、極悪な魔物たちに船を壊され、食料も尽きて全滅したのだろう。
「……あんたらも、苦労したんだな」
俺はそっと手を合わせ、15年という月日の残酷さを噛み締めた。
もし俺にあの『状態異常完全無効』や『不眠耐性』がなかったら、最初の数日で彼らと同じ運命を辿っていたはずだ。
船長室らしき立派な部屋に入ると、机の上にいくつかの遺留品が残されていた。
一番目を引いたのは、分厚い羊皮紙に描かれた一枚の『世界地図』だ。
「……よかった。外の世界にはちゃんと人が住んでる大陸があるんだな」
地図には文字がびっしり書き込まれているが、あいにく地球の言語ではないため読めない。だが、今俺がいるこの島にはドクロマークと共に大きく赤丸が引かれ、ふたつの「イラスト」が強調して描かれていた。
ひとつは、山の頂上に光る『紫色の果実』の絵。
「これ……どう見ても、俺がさっき山頂で食ったヤバい果実だよな……?」
嫌な予感がする。わざわざ古い地図に大々的に描くってことは、もしかしてとんでもない伝説の果物だったんじゃないか? 俺、ただの腹ごなしに丸かじりしちゃったぞ。
そしてもうひとつは、『古代遺跡』らしき建物の絵だ。
そこから光り輝く巻物が出現しているイラストが描かれており、横には「荷箱」と「砂時計にバツ印」がついたようなマークが添えられている。
(荷箱に、時間が止まるマーク……? 収納空間の時間が停止するってことか?)
後で知ることになるが、外の世界にもアイテムボックス(空間収納)のスキル持ちはそこそこいる。だが、「中の時間が完全に停止する」となると話は別だ。それは失われた『時空間魔法』の遺産として、国家の宝レベルで扱われる超希少スキルらしい。
彼らはその果実と遺跡の遺産を求めて、この絶対禁忌領域の島を目指した決死の探窟隊だったのだ。
「なるほどな。で、こいつがその遺跡を示すアイテムってわけか」
地図の上に置かれていたのは、手のひらサイズの羅針盤のようなマジックアイテムだった。
コンパスの針は北ではなく、島の奥深く――ジャングルの一部を、微かな光と共に指し示している。
「海を渡る前に、まずはその遺跡とやらを探索してみるか」
お宝が眠っているなら、貰っておいて損はない。時間停止の収納なんて、サバイバル生活からすれば喉から手が出るほど欲しい超便利機能だ。
俺は世界地図とコンパスを懐にしまい、針が指し示す方向へと再び歩き出した。




