第38話 深層の端材と、火山の絶景観光
ガルド一の天才鍛冶師、ドランに俺たちの新しい武器と防具の製作を依頼した直後。
俺は作業台に並べた深層素材を指差し、ドランに向かって切り出した。
「ところでドラン、これだけの武具を特急で打ってもらうんだ。代金(報酬)はどうする?」
「代金だと? 冗談じゃねえ、こんな神話級の素材を叩けるなら、こっちが全財産払いてえくらいだ!」
ドランは血走った目で深層竜の骨を撫で回しながら、興奮しきった様子で首を横に振った。
だが、タダ働きをさせるわけにはいかない。俺は少し考えてから、ニヤリと笑った。
「そうもいかないさ。なら……全員分の武具を作って『余った深層素材』、全部あんたにやるよ。それが今回の報酬ってことでどうだ?」
「は、はぁぁぁっ!?」
俺の提案に、ドランの目玉が飛び出んばかりに見開かれた。
「お、お前……正気か!? バベルの深層で採れる『冥界の黒鋼』の端材なんて、爪の先ほどの欠片でも城が建つ価値があるんだぞ!? それを、余った分全部俺にくれるってのか!?」
「ああ。あんたみたいな腕のいい職人に持っていてほしいからな。好きに使ってくれ」
「おおおお……っ! ありがてえ! 俺の工房の……いや、ドラン家の永遠の家宝にするぜ!! よーし、ますます気合いが入ってきたぞ!!」
ドランが感涙しながらハンマーを天に掲げるのを見届け、俺たちは大満足で鍛冶工房を後にした。
◆
「クロウさんってば、本当に太っ腹ですね」
「ふふっ。でも、あんなに喜んでもらえたなら安いものかもしれないわね」
工房を出た後、俺たちはドワーフの国『ガルド』の中心街をのんびりと歩いていた。
火山の地熱を利用した街の至る所から白い蒸気が吹き上がり、活気ある声が響いている。
「わぁっ! ご主人様、あそこの屋台、すごくいい匂いがします!」
セツナが尻尾をピンと立てて駆け寄った先には、『溶岩石の鉄板焼き』と書かれた屋台があった。
分厚い猪肉を、特製のピリ辛味噌ダレに絡めて焼いたご当地グルメだ。俺たちは人数分を買い込み、食べ歩きを楽しむことにした。
「んんっ! お肉が柔らかくて、このピリッとしたタレが絶品です!」
「ふふ、これならお酒のおつまみにも合いそうね」
レイアとシルヴィアも、熱々の肉を頬張って幸せそうな顔をしている。
最高の素材を惜しげもなく使い、最高の仲間たちと美味い飯を食う。前のブラックな職場では考えられなかった、これ以上ないほど贅沢で自由な時間だ。
「せっかく観光に来たんだ。ガルドの冒険者ギルドにも顔を出してみるか。何か面白そうなご当地の依頼があるかもしれない」
「賛成です! ちょっと身体も動かしたかったですし!」
俺たちは肉の串を片手に、街の冒険者ギルドへと足を運んだ。
ガルドのギルドでも、Aランクの俺とレイア、そしてSランクのシルヴィアのギルドカードを提示すると、受付嬢が「ひっ!?」と短い悲鳴を上げて直立不動になるというお約束のやり取りがあったものの、無事に依頼の掲示板を確認することができた。
「ええと……あ、これなんてどうかしら?」
シルヴィアが指差したのは、討伐ではなく採取の依頼書だった。
『火山の中腹に生える【陽炎茸】の採取。※絶景スポットですが、低ランクの火トカゲ(ファイア・リザード)が出没するため注意』
「火山の絶景スポットでのキノコ狩りか。食後の軽いハイキングにはちょうどいいな。行くか」
俺たちはさっそく依頼を受注し、街から少し離れた火山の中腹へと向かった。
道中、案の定何匹かの火トカゲが群れをなして襲いかかってきたが――。
シルヴィアが長弓の素振り(風圧)だけで数匹を吹き飛ばし、レイアが剣の峰打ちで気絶させ、セツナがひょいひょいと躱しながらキノコを摘み取っていくという、戦闘と呼ぶにはあまりにも一方的なピクニック状態だった。
「ご主人様! 陽炎茸、たくさん採れましたよ!」
「ああ、ご苦労さん。……それにしても、ここからの景色はすげえな」
採取を終えた俺たちが見下ろした先には、火山の雄大な傾斜と、煙を上げるドワーフの街並みが夕日に照らされて黄金色に輝く、息を呑むような絶景が広がっていた。
「……綺麗ですね」
レイアが風に髪を揺らしながら、俺の隣でそっと微笑む。
観光と軽い運動を兼ねた依頼をこなし、俺たちは大満足でガルドの街へと帰還した。
◆
「はぁぁ〜……。軽く汗をかいた後の温泉、最高ですね……っ」
「ええ、本当に極楽だわ」
その日の夜。
依頼の報酬を受け取った俺たちは、昨日と同じ老舗の温泉宿『火龍の湯』へと戻り、再び極上の火山温泉に浸かって心身をほぐしていた。
風呂上がりには、今日採取した『陽炎茸』を宿の女将に天ぷらにしてもらい、とろみのある甘いドワーフの美酒と共に味わう。
「明日には、俺たちの新しい武器が完成するな」
「はいっ! ドランさんがどんな武器を打ってくれるのか、すごく楽しみです!」
美味しい酒と料理に囲まれ、仲間たちの楽しそうな笑顔を眺めながら。
俺は明日手にするであろう『最高の武具』に思いを馳せ、ゆるやかに更けていくドワーフの国の夜を満喫するのだった。




