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第29話 白銀の狙撃手と、完璧な連携(シナジー)

迷宮都市バベルの近郊。切り立った岩肌が連なる広大な『大渓谷』に、俺たちは足を踏み入れていた。


「キシャアアアアアッ!!」


見上げれば、渓谷の上空を我が物顔で旋回する十数頭の巨大な影。


今回の討伐対象である、Bランクの飛行魔物『ブラッド・ワイバーン(飛竜)』の群れだ。


「あれだけ高い位置を飛ばれると、やっぱり私やセツナちゃんの剣じゃ届きませんね……」


「そうだな。これまでは、奴らが獲物を狙って低空に降りてくるのを待つか、俺が岩を蹴って空中に跳躍して無理やり叩き落とすしかなかった。……だが、今日からは違う」


俺が視線を送ると、白銀の髪を風に揺らしたシルヴィアが、美しい長弓を構えて静かに微笑んだ。


「ええ、任せて。――それじゃあ、挨拶代わりの一撃からいくわよ」


シルヴィアが弓の弦を引き絞る。


矢はつがえられていない。だが、彼女の指先から膨大な魔力が収束し、輝く『光の矢』が形成された。


『――穿て』


涼やかな声と共に放たれた光の矢は、文字通り一筋の閃光となって遥か上空へと駆け上がり……旋回していたワイバーンの『右翼の関節』だけを、精密機械のように正確に射抜いた。


「ギャァァァァッ!?」


翼を破壊されたワイバーンが、バランスを崩して渓谷の底へと錐揉み回転しながら墜落してくる。


「レイア、セツナ!」


「はいっ!!」

「承知しました!」


墜落して地面に叩きつけられたワイバーンに、待ってましたとばかりにレイアとセツナが襲いかかる。


炎を纏ったレイアの長剣が飛竜の強靭な首を両断し、セツナの双剣が残された心臓を的確に貫いた。


「……すげえ。完璧な誘導と部位破壊だ」


ただ殺すのではなく、確実に前衛の射程圏内へと『落とす』技術。


その後もシルヴィアは、空を舞うワイバーンたちの急所を次々と射抜き、地上にいるレイアとセツナがそれを瞬殺していくという、無駄の削ぎ落とされた完璧な連携シナジーが展開されていった。


「グルルルルッ……! グァァァァァッ!!」


仲間を次々とやられたことで、残る五頭のワイバーンが完全に激昂した。


奴らは一斉にこちらへ向かって急降下しながら、その大きく裂けた口から真っ赤な『火球ブレス』を吐き出してきた。


「あら、一気に来たわね。クロウ、前衛の壁をお願いできる?」


「ああ。任せろ」


俺は前に出ると、迫り来る五発の巨大な火球に対し、腰の剣を抜いて――ただの一振りで、火球をまとめて『両断』し、霧散させた。


「……っ!? さすがね、魔法のブレスを剣風だけで切り裂くなんて……本当に規格外なんだから」


俺が壁となって防いだその一瞬の隙に、シルヴィアは弓をアイテムボックスにしまい、代わりに美しい杖を天へと掲げていた。


彼女の足元に、巨大で複雑な魔法陣が展開される。


「――『氷結界・絶対零度のコキュートス・ランス』」


シルヴィアが杖を振り下ろした瞬間。


急降下してきていた五頭のワイバーンたちの頭上に、無数の巨大な氷の槍が出現し、豪雨のように降り注いだ。


「キィィィィィ――ッ!?」


回避する間もなく氷の槍に串刺しにされ、さらには周囲の空気ごと凍りつかされたワイバーンたちは、美しい氷の彫刻となって地面に激突し、粉々に砕け散った。


「ふう……終了ね。どう? 私の『後衛』のテストは」


涼しい顔で白銀の髪を払うシルヴィア。


俺は思わず、満足げな笑みをこぼした。


「ああ、文句のつけようがない。的確な状況判断に、前衛を活かす狙撃、そして広域殲滅魔法。お前が後ろにいてくれるだけで、俺たちの戦略の幅は何倍にも広がる。……100点満点中、200点の合格だ」


「ふふっ、光栄だわ」


俺の言葉に、レイアとセツナも「シルヴィアさん、すごいです!」「はい、最高の後方支援でした!」と目を輝かせて駆け寄った。


「さて、討伐部位の回収も終わったし……ちょっと休憩にしようか。今日はテストに付き合ってもらった歓迎も兼ねて、俺のおごりだ」


俺は【時空間魔法】のインベントリを展開し、渓谷の開けた場所に、綺麗なテーブルと四脚の椅子を取り出した。


さらにそこへ、淹れたての温かい最高級の紅茶が注がれたティーカップと、先日買った『冷蔵庫の魔道具』でキンキンに冷やしておいた『季節のフルーツをふんだんに使った特製タルト』を並べていく。


「えっ……? テーブルセットに、温かい紅茶!? しかもこのタルト、まるでお店の厨房から今持ってきたみたいに……」


「ああ、朝から焼いて、家の冷蔵庫でキンキンに冷やしてから、俺の時空間魔法アイテムボックスにしまっておいたんだ。あの中は『時間が止まってる』からな。いつでも最高の状態だ」


「じ、時間停止機能付きのアイテムボックス……!? そ、そんな神話級の魔法を、お茶会のために使っているの……?」


Sランクエルフであるシルヴィアでさえ、俺の規格外すぎる魔法の無駄遣いに目を丸くして震えている。


そんな彼女に、レイアがタルトを頬張りながら得意げに笑った。


「ふふん、クロウさんはすごいんですよ! もちろん、お料理の腕も世界一です!」


「ええ、ご主人様のケーキ、ほっぺたが落ちてしまいそうです……!」


「……もう、本当に驚かされてばかりね」


シルヴィアは呆れたようにため息をついた後、差し出されたフルーツタルトを一口食べ――そのあまりの美味しさに、氷の彫刻のような表情をふにゃりと崩した。


「美味しい……っ! 何これ、王都の宮廷菓子職人よりずっと美味しいわ!」


「それは良かった。これから、うちのパーティに入れば毎日食えるぞ?」


「……ええ。ふふっ、胃袋まで掴まれちゃったみたいね。喜んで加入させてもらうわ、クロウ」


こうして、俺たちのパーティにSランクエルフという最強の『遠距離・後衛職』が加わり、どんなダンジョンでも踏破できる完璧な陣容が完成したのだった。


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