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第30話 氷の美貌と、押し掛けエルフの温かな手料理

渓谷でのブラッド・ワイバーン討伐を終え、バベルの街へと帰還した俺たち。


道中、正式にパーティ加入が決まったシルヴィアと、これからの活動拠点についての話になった。


「なるほど、クロウたちは三人で一つの家に住んでいるのね。連携を深めるためにはいい判断だわ」


「ああ。少し前に、バベルの東の郊外にあるデカい『廃墟』を買い取ってな。俺が深層の素材を使って一から改築リフォームして、魔道具も一式揃えたから、結構快適なんだ」


俺がそう言うと、シルヴィアは氷の彫刻のような美しい顔に、ふわりと大人の余裕を感じさせる微笑みを浮かべた。


「ふふっ、三人の同居生活なんて、なんだか楽しそうね。……ねえクロウ、その家、まだ空き部屋はあるのかしら?」


「ん? ああ、二階の客室が一つ丸々空いてるが……」


「あら、奇遇ね。実は私、今泊まっている高級宿の契約がちょうど明日で切れるところだったのよ。パーティの連携を深めるためにも、私もそこへ引っ越した方が合理的だと思わない?」


有無を言わさぬ、しかしどこか甘えるような上目遣い。


Sランクエルフの美貌でそんな『大人の圧』をかけられては、断れる男などこの世にいないだろう。


「……ま、まあ、部屋は空いてるし、家賃もかからないから構わないが」


「決まりね! ふふっ、よろしくお願いするわ、ご主人様?」


「いや、俺は別に主人じゃないぞ」


シルヴィアが茶目っ気たっぷりにウインクをする。

そんなやり取りを見ながら、レイアが嬉しそうにパァッと顔を輝かせた。


「シルヴィアさんが一緒に住んでくれるなんて、すごく心強いです! 実は私、昔バベルに来たばかりの頃、ソロで無茶をしてた時にシルヴィアさんに少しだけ面倒を見てもらったことがあって……」


「あらレイア、あの時は本当に危なっかしかったわよ? 剣の腕は立つけど、野営の準備もろくにできなくて、ポーションの予備すら忘れてたじゃない」


「うぅ……あの時はすみませんでした……」


耳まで真っ赤にして俯くレイアの頭を、シルヴィアが「よしよし」と姉のように優しく撫でる。


どうやらこの氷の美貌を持つエルフは、見た目とは裏腹に、相当面倒見のいい性格らしい。


その日の夕方。


バベルの東の郊外にある我が家に到着したシルヴィアは、元が廃墟だったとは欠片も思えないほど頑丈に改築された外観と、一歩足を踏み入れた時の『異常な魔力濃度の木材(深層の魔樹)』で作られた内装のギャップに、美しく目を丸くしていた。


「な、何これ……! 外から見たらただの郊外の家かと思ったのに、柱も床も、信じられないくらい高密度の魔力を帯びた木材じゃない! エルフの里の神木よりすごいわよ……!?」


「まあ、ダンジョンの最下層で拾ってきた木だからな。とりあえず、二階の奥の部屋を使ってくれ。ベッドの枠は後で作る」


俺がそう案内すると、シルヴィアは荷物を置くのも早々に、一階のキッチンへと向かった。


「クロウ。今日は私をパーティに入れてくれたお礼に、夕飯は私が作らせてもらえないかしら?」


「え? いや、俺が作るつもりだったが……」


「いいの。私、こう見えて料理や家事にはちょっと自信があるのよ? レイアも、昔私が作った『森の恵みのポトフ』、好きだったでしょう?」


レイアが「は、はいっ! シルヴィアさんのご飯、すっごく美味しくて温かくて……忘れられません!」とブンブンと首を縦に振る。


そこまで言われては断れない。俺はエプロンをシルヴィアに手渡した。


数十分後。


キッチンからは、食欲をそそる野菜と肉の煮込まれた、優しくて温かな香りが漂ってきた。


「はい、お待たせ。エルフの伝統的な家庭料理よ」


シルヴィアが、先日俺が買ったばかりの『火精霊の魔力コンロ』と『清流の無限浄水器』を見事に使いこなし、大きな鍋をテーブルへと運んできた。


中には、大きく切られた野菜と、ホロホロに煮込まれた魔物肉が、黄金色のスープの中でキラキラと輝いている。


「わぁ……美味しそうです……!」


セツナが尻尾をパタパタと振りながら目を輝かせる。

さっそく一口食べてみると――野菜の甘みと肉の旨味が完璧に溶け合っており、冷え切った身体の芯まで染み渡るような、信じられないほど優しく、深い味わいだった。


俺の作る『サバイバル流の豪快な男飯』とは根本的に違う、丁寧で家庭的な『お母さんの味』だ。


「……すげえ。これ、店出せるぞ」


「ふふっ、お世辞でも嬉しいわ。一人暮らしが長かったから、家事全般は得意なの」


氷の彫刻のように美しく、近づき難いオーラを放っていたSランクエルフ。


だがエプロン姿で微笑む彼女は、誰よりも温かい心を持った『世話焼きのお姉さん(オカン)』だった。


「これからは、掃除も洗濯も、料理のローテーションも私に任せてちょうだい。……ふふっ、なんだか本当に、一つの『家族』みたいで素敵ね」


シルヴィアが嬉しそうに目を細める。


こうして郊外のマイホームには、最強の後衛にして最高のお母さんポジションであるエルフが、ごく自然な強引さで住み着くことになったのだった。


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