第20話 王都へのVIP入場と、貴族からの熱烈なラブコール
バベルの街を出発してから十日後。
俺たちの乗る商隊の馬車は、見上げるほど巨大な白い城壁に囲まれた大都市――『王都』の正門へと到着していた。
「すげえな……バベルよりさらにデカいぞ」
馬車の窓から外を覗き込むと、門の前には入城審査を待つ商人や旅人たちの馬車が、長蛇の列を作っていた。普通に並べば半日はかかりそうな人の数だ。
だが、俺たちの乗る馬車が列の最後尾につこうとしたその時、アルバート伯爵の乗る豪華な馬車がスッと列を抜け、門のすぐ脇にある『貴族・王族専用レーン』へと進み出た。
「門兵よ、大儀である! 私はアルバート伯爵。そして後ろに続く商隊は、私の命の恩人であり、客人である! 全て顔パスで通すがよい!」
伯爵が窓から身を乗り出して家紋章を掲げると、厳つい門兵たちは一斉に直立不動で敬礼し、重厚な鉄格子が音を立てて跳ね上がった。
荷物の検めも、身分証の提示も一切なし。王都の厳しい入城審査を、俺たちは文字通り「VIP待遇」でフリーパスしてしまったのだ。
「権力ってすげえな……」
「クロウさんが伯爵の命を救ったからですけどね」
隣に座るレイアが、呆れたような、それでいてどこか誇らしげな笑みを浮かべていた。
王都の中は、迷宮都市バベルの荒々しい活気とはまた違う、洗練された華やかさに満ちていた。石畳は美しく整備され、立ち並ぶ建物も芸術品のように意匠が凝らされている。
やがて商隊は、王都の広場にある巨大な『冒険者ギルド王都本部』の前で停車した。
ここで護衛任務は完了。解散となる。
「クロウ殿、レイア殿。そして傭兵の皆さんも、長旅の護衛、本当にご苦労様でした。おかげで最高の旅になりましたよ」
ロレンツォ会長が馬車を降り、俺に依頼達成のサインが書かれた書類と、約束通り『黄金の天秤商会のブラックカード』を手渡してくれた。追加の報酬もすでにギルドの口座に振り込まれる手筈になっているらしい。
「こちらこそ、お世話になりました。会長、また何かあればよろしくお願いします」
「ええ、必ず。バベルの素材の件も、近いうちに改めてご相談させてください」
ロレンツォ会長と固い握手を交わし、商隊を見送る。
さて、これで晴れて自由の身だ。ギルドに入ってBランクへの昇格手続きでもしようか……と振り返った瞬間だった。
「待ってくれ、クロウ殿!」
アルバート伯爵が、娘のシャルロッテを伴って猛ダッシュで駆け寄ってきた。
「任務が終わったのなら、どうか! どうか我がアルバート家の屋敷に滞在してはもらえないだろうか!? 命の恩人を安い宿に泊まらせるなど、私の気が狂いそうだ! なんなら屋敷の離れを一つ、貴方専用に改装しても構わん!」
「お父様のおっしゃる通りですわ! わたくし、王都の美味しいお店や綺麗な場所をたくさん案内できますの! どうか、わたくしたちの屋敷へ……!」
伯爵は俺の両手をガッチリと握りしめ、シャルロッテは潤んだ瞳で上目遣いをしてくる。親娘揃って、凄まじい熱量と圧だ。
とはいえ、到着してすぐに貴族の屋敷に厄介になるのは、色々と気を遣いそうで面倒だ。それに、レイアと一緒にBランクへの昇格手続きや、王都のギルドの勝手も知っておきたい。
「お気持ちは大変ありがたいのですが、伯爵。俺たちはこれからギルドで昇格手続きなどの野暮用がありまして。時間がどれくらいかかるかわからないので、今回はお気遣いなく……」
俺がやんわりと断りを入れると、伯爵は「むむっ……」と唸り、何かを閃いたようにポンと手を打った。
「なるほど、ギルドでの手続きが! ならば仕方ない! だが、貴方たちを逃すわけにはいかん! 手続きが終わる頃合いを見計らって、我が家からギルドへ使いの者を――いや、迎えの馬車を寄越そう! だから、絶対に! 絶対に待っていてくれよ!」
「あ、いや、迎えなんてそんな大袈裟な……」
「クロウ様、お待ちしておりますわね! 絶対ですわよ!」
俺が制止する間もなく、伯爵とシャルロッテは嵐のように用件だけを捲し立てると、満足げな顔で自分たちの馬車へと乗り込み、王都の貴族街の方向へ去ってしまった。
「……なんか、外堀を完全に埋められた気がする」
「……あのお嬢様、本当に押しが強いですね」
遠ざかる豪華な馬車を見送りながら、俺とレイアは揃って深いため息をついた。レイアの声音には、少しだけジトッとしたものが混ざっていた気がする。
「まあいい、とりあえず手続きだ。行くぞ、レイア」
俺は気を取り直し、王都の冒険者ギルド本部の重厚な扉を押し開けたのだった。




