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第21話 王都の洗礼と、Sランクエルフの仲裁。そして圧倒的なお迎え

王都の冒険者ギルド本部は、迷宮都市バベルのギルドとは全く異なる空気を持っていた。


大理石が敷き詰められた床、シャンデリアが輝く吹き抜けのロビー。まるで高級ホテルのような内装の中で、身なりの良い冒険者たちが優雅に(しかしどこか値踏みするような目で)歓談している。


「なんか、冒険者っていうより貴族の社交場みたいだな」


「王都のギルドは、実力よりも『どこの貴族のパトロンがついているか』を気にする見栄っ張りが多いですからね。あまり好きになれません」


レイアが少しうんざりしたように小声で教えてくれた。


俺たちは受付カウンターへ向かい、バベルのギルド長・バルガスから預かっていた『Bランクへの昇格推薦状』と、ロレンツォ会長の『指名依頼達成証明書』を提出した。


書類に目を通した受付嬢の目が、驚愕に見開かれる。


「こ、これは……あのバベルのバルガス様からの、特例のBランク昇格推薦状!? しかも黄金の天秤商会の指名依頼を完全達成……!? 少々お待ちください、すぐに手続きを……!」


受付嬢が慌てて奥へ引っ込もうとした、その時だった。


「おいおい、ちょっと待ちな」


嫌味な声と共に、派手な装飾の剣を下げた男が、数人の取り巻きを連れてカウンターに割り込んできた。胸元にはBランクの認識票タグが光っている。


「田舎の迷宮都市から来たCランクが、いきなりBランクに特例昇格だと? しかもあのロレンツォ会長の依頼を達成? ……ふん、どうせバベルのギルド長に裏金でも掴ませて推薦状を書かせたんだろ」


男は俺の汚れ一つない万能服アビス・クロークを鼻で笑うように見下ろした。


「王都のBランクってのはな、血の滲むような努力と貴族への貢献で手に入れる名誉なんだ。お前みたいなぽっと出の田舎者が、金で買えるような安いもんじゃねえんだよ」


絵に描いたような難癖だ。


前世のサラリーマン時代、こういう『自分のポジションを脅かされそうで焦っている中堅の先輩』は嫌というほど見てきた。まともに相手をするだけ時間の無駄だ。


「そうか。まあ、審査を通すのはギルドだから、文句があるならギルドの上層部に言ってくれ」


俺が一切の感情を交えずにスルーを決め込むと、逆に無視されたと感じたのか、男は顔を真っ赤にして俺の肩を掴もうと手を伸ばしてきた。


だが――その手が俺に届くより早く、ギルド内の空気が一瞬にして『凍りついた』。


「……見苦しいわね。実力も確かめずに吠えるのは、自分が三流だと触れ回っているのと同じよ」


凛とした声と共に、周囲の気温が物理的に急激に下がる。

ロビーの奥から歩み出てきたのは、白銀の髪を長く伸ばした、氷の彫刻のように美しいエルフの女性だった。


特徴的な長く尖った耳。腰には美しい装飾が施された細身のレイピアを佩き、彼女の足元からはパキパキと薄氷が張るような『氷魔法』の冷気が漏れ出している。


その胸元には、王都に数人しかいない『Sランク』の輝きが放たれていた。


「シ、シルヴィア様……っ!?」


難癖をつけていた男が、弾かれたように後ずさり、顔面を蒼白にさせた。


王都のSランク冒険者、『氷雪の戦姫』シルヴィア。


長命なエルフでありながら冒険者の頂点に立つ彼女は、男を一瞥すらせず、真っ直ぐに俺と――その隣にいるレイアの前に立った。


「久しぶりね、レイア。Aランクのあなたが後ろに控えているなんて……なるほど、バベルのバルガスが推薦状を書くわけだわ」


「シルヴィアさん。お久しぶりです」


レイアが少し緊張した面持ちで一礼する。どうやら顔見知りらしい。


シルヴィアは涼やかな瞳を俺に向けた。魔力で相手の底を測るような、鋭い視線だ。だが、やがて彼女は小さく息を吐き、興味深そうに微笑んだ。


「……恐ろしいわね。私にも、あなたの底が全く見えない。どうやら王都にとんでもない規格外がやってきたみたいね。私はシルヴィア。よろしく、新人ルーキーさん」


「俺はクロウだ。助け舟、感謝するよ」


Sランクのトップ冒険者が、ポッと出の俺にわざわざ自己紹介をし、対等以上の口調で話しかけた。


それを見た難癖男と周囲の冒険者たちは、「シルヴィア様が認める実力者……!?」と完全に言葉を失い、あからさまに距離を取り始めていた。


話のわかる知的なトップは嫌いじゃない。俺がシルヴィアと少し言葉を交わそうとした、ちょうどその時。


「――クロウ様はいらっしゃいますか!!」


ギルドの重厚な扉が勢いよく開かれ、王家の紋章をさらに豪華にしたような意匠の外套を羽織った初老の紳士が、数名の近衛騎士を引き連れてロビーに踏み込んできた。


その胸元に輝く紋章を見た瞬間、ギルド内の冒険者たちが今度こそ悲鳴のような息を呑んだ。


「あ、あの紋章……王都の重鎮、アルバート伯爵家の筆頭執事じゃないか!?」


「なんであんな大貴族の側近が、ギルドなんかに直接……!」


周囲のざわめきなど一切意に介さず、筆頭執事はロビーを見渡し、俺の姿を見つけると一直線に歩み寄ってきた。


そして、Sランクのエルフ・シルヴィアすら驚くほどの『最上級の臣下の礼』を、俺の目の前でとったのだ。


「クロウ様! お迎えに上がりました。我が主であるアルバート伯爵とシャルロッテお嬢様が、貴方様を『我が家系における最重要の国賓』として屋敷へとお招きするため、首を長くしてお待ちでございます。外に専用の馬車をご用意しておりますゆえ、どうか、どうかご同行を!」


ギルド内が、水を打ったように静まり返った。


先ほどまで俺を「田舎者」と見下していた男は、あまりの事態に腰を抜かして床にへたり込んでいる。


Sランクのシルヴィアでさえ、「……アルバート伯爵家の最重要国賓?」と、長く美しい耳をピクリと震わせ、目を丸くして俺を見ていた。


「……仕事が早すぎるだろ、あの親子」


俺はやれやれと首を振りながら、ギルドのカウンターに置かれた真新しい『Bランク』のギルドカードを亜空間にヒョイと収納した。


「すまない、シルヴィア。せっかく声をかけてもらったが、ちょっと『逃げられないお迎え』が来ちまったみたいだ。また今度な」


「え、ええ。……ええ、また今度。王都での滞在、楽しんで」


シルヴィアと、完全に固まっている王都の冒険者たちを残し、俺はレイアと共に、アルバート伯爵家の用意した超豪華な迎えの馬車へと乗り込むのだった。


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