表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/41

第19話 完璧な報連相と、聡明な大人たちからの対価

「――以上です。賊は三十二名、一人残らず排除しました。馬車および積荷、ならびにアルバート伯爵とご息女に被害はありません」


血の匂いが立ち込める街道。


俺は剣についた血糊を布で綺麗に拭き取りながら、雇い主であるロレンツォ会長の馬車へ戻り、淡々と事後報告(クリアリングの完了)を済ませた。


「お見事です、クロウ殿……。しかし、まさかあれほどの数を一瞬で、しかも無傷で制圧されるとは」


ロレンツォ会長は驚愕に目を見張っていたが、すぐに優秀な商人としての冷静な顔を取り戻した。


「それにしても、貴方のような規格外の御仁が、私のような一介の商人に『事前の許可』を取り、事後にこうして的確な『報告』をしてくださるとは。……冒険者というよりは、どこか優秀な王宮騎士か、一流の商会員のようですね」


「俺は今、会長に雇われている身ですから。筋を通すのは当然のことです」


俺がサラリと返すと、ロレンツォ会長は「ハハハ!」と愉快そうに笑い声を上げた。武力だけでなく、俺が『社会のルールを弁えた人間』であることを正確に理解し、信頼を深めてくれたようだ。


そこへ、先ほど助け出したアルバート伯爵が、娘のシャルロッテを連れて足早に歩み寄ってきた。


「おお、ロレンツォ会長! まさか貴方の商隊が通りかかってくれるとは、なんという僥倖! そしてそこの御仁……クロウ殿と言ったか。我が一族の命を救ってくれたこと、伯爵家当主として心より感謝申し上げる!」


アルバート伯爵が深く頭を下げる。


だが、俺はここで「いやいや、大したことないですよ」としゃしゃり出るような真似はしない。今の俺の上司はロレンツォ会長なのだから、ここで俺が貴族に恩を売れば、雇い主の顔を潰すことになる。


「お怪我がなくて何よりです、アルバート伯爵。ですが、我々はロレンツォ会長に雇用されている身。救助の許可を出したのも会長ですので、お礼でしたらまずは会長へお願いいたします」


俺が一歩下がり、ロレンツォ会長を立てるように手で促すと、伯爵はハッと息を呑み、そしてロレンツォ会長と顔を見合わせてニヤリと笑った。


「……なるほど。これは一本取られたな。ロレンツォ殿、貴方はとんでもない逸材を囲っているようだ。武に優れるだけでなく、これほど見事に『雇い主の顔を立てる』立ち回りができる冒険者など、王都のSランクにもそうはおるまい」


「ええ。私も今、彼に出会えた幸運に震えているところですよ。伯爵、王都へ着いた暁には、商会の関税の件で少しお話を……」


「ハッハッハ! 命の恩人の頼みだ、前向きに検討させてもらおう!」


聡明な大人たち同士の、極めてスムーズで利益的なやり取り。


話のわかるトップ同士の交渉は早くて助かる。俺が裏方に徹したことで、結果的に「商会と貴族の太いパイプ」という最高のお土産ができたわけだ。


「だが、クロウ殿。雇い主を立てる貴方の姿勢は素晴らしいが、命を救われた私から貴方個人への礼がないのは、貴族の矜持に関わる」


伯爵はそう言うと、懐からずっしりと重い皮袋と、美しい細工が施された銀のメダルを取り出し、俺に手渡した。


「これは我がアルバート家の『家紋章』だ。王都でこれを見せれば、大抵の施設で貴族同等のVIP待遇を受けられる。そしてこれは、ほんの気持ちだが白金貨5枚(約5000万円)だ。どうか受け取ってくれ」


「おお、伯爵にそこまでされては、雇い主である私も黙ってはいられませんな。クロウ殿、今回の護衛報酬は当初の十倍としましょう。さらに、我が『黄金の天秤商会』の全店舗で生涯使える最上級の優待証ブラックカードをお渡しします」


「……お気遣い、感謝します」


あっという間に、王都での最強の身分証と莫大なボーナスが手に入ってしまった。やはり、優秀なトップは対価の支払いが早くて太っ腹だ。


「あの……クロウ様」


大人たちのやり取りが落ち着いたのを見計らって、伯爵の娘――シャルロッテが、もじもじとドレスの裾を握りしめながら上目遣いで俺を見ていた。


「この度は、本当にありがとうございました。わたくし、シャルロッテと申します。……あの、王都に着くまで、どうかクロウ様のお近くで、色々とお話を伺ってもよろしいでしょうか?」


頬を赤く染め、憧れの英雄を見るようなキラキラとした瞳。

だが、俺が何か答える前に、隣で黙っていたレイアがスッと俺とシャルロッテの間に割り込んだ。


「ご挨拶痛み入ります、シャルロッテお嬢様。ですが、クロウさんはロレンツォ会長の『専属護衛』として気を張っております。あまりお近づきになられると、万が一の際に危険かと」


「え……? でも、クロウ様はあんなに強いですし……」


「強いからこそ、です。それに、クロウさんのサポートは、パーティを組んでいるこの私が責任を持って行いますので」


レイアが、普段の『男避けの強気』とは違う、どこかむくれたような表情でシャルロッテを牽制している。


金髪の少女も負けじと「でも、命の恩人ですからお礼くらい……!」と食い下がり、なんだか少しだけ火花が散っているように見えた。


「おいおい、クロウの兄貴。モテモテじゃねえか」


「羨ましいぜ、Cランクのルーキーさんよぉ」


遠巻きに見ていた傭兵たちが、ニヤニヤしながら冷やかしてくる。


「からかうな。俺はただ、仕事クエストを片付けただけだ」


俺は肩をすくめると、小さく息を吐いて馬車に乗り込んだ。


かくして、商人のトップと有力貴族という『最強の味方』と莫大な報酬を得たまま、俺たちの商隊はいよいよ巨大な城壁に囲まれた大都市――『王都』へと到着するのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ