第16話 規格外の除草作業と時空間掃除機。そして国宝級のDIY
「まずは庭の草むしりからだな。15年間、無人島で嫌というほど鍛え抜いたサバイバル技術だ。久々に腕が鳴るぜ」
広大な庭を埋め尽くす、人間の背丈ほどもある雑草と毒草のジャングル。普通なら何人もの庭師を雇って数日かかる作業だが、俺は腰の漆黒の剣を少しだけ抜き、スッと魔力を流し込んだ。
「シッ!」
横薙ぎの一閃。
剣から放たれた極薄の『魔力の刃』が、庭全体の雑草を根元数ミリの高さで綺麗に水平に刈り取っていく。ついでに草陰に潜んでいた毒虫や害獣も衝撃波でチリとなって消え去り、ものの数秒で、見事な更地(芝生予定地)が完成してしまった。
「よし。次は家の中の掃除だ」
ギィィィ……と錆びついた音を立てて玄関扉を開ける。
屋敷の中は惨憺たる有様だった。床は長年のホコリと泥にまみれ、壁や天井には分厚いクモの巣がカーテンのように垂れ下がっている。
俺が足を踏み入れると、ヒュ〜ドロドロ……と、お約束のように空気が冷たくなり、半透明の青白い悪霊が複数体現れた。
『ウゥゥゥ……出テ行ケェェェ……呪ワレヨォォォ……』
悪霊たちが俺を取り囲み、精神を蝕む呪いの怨念を放ってくる。
だが、俺の『状態異常完全無効』スキルの前では、ちょっと肌寒いそよ風程度の影響しかなかった。
「あー、はいはい。ちょうどいいところに出てきてくれた。その辺のホコリ、まとめて空中に浮かせてくれないか?」
『ハ……? 貴様、我ラノ呪イガ効カヌノカ……!?』
「いいから。ほら、大掃除の時間だ」
俺は空間に真っ黒な『亜空間の穴』を開いた。
「時空間魔法・吸引モード」
俺が「強力な掃除機」をイメージして魔力を流し込むと、ポータルから凄まじいダイソン並みの吸引力が発生した。
床のホコリ、割れたガラス、腐った木材、クモの巣――そして「えっ? なにこれ吸引力すごっ……ぎゃあああ吸われるぅぅぅ!?」とパニックになって逃げ惑う悪霊ごと、屋敷中のあらゆるゴミが亜空間のブラックホールへと一瞬で吸い込まれていく。
「よしよし、一階はピカピカになったな。悪霊くんたちは後でダンジョンにでも捨ててくるか」
あっという間に屋敷全体の大掃除(除霊込み)を終えた俺は、空っぽになった広いリビングの真ん中に立った。
家が綺麗になれば、次は家具だ。
俺は亜空間から、ダンジョンの深層で拾った素材をドサドサと取り出した。
建材として使うのは、切ったばかりなのに瑞々しい香りを放つ巨大な『世界樹の倒木』や、鋼鉄より硬くしなやかな『ヒュドラの肋骨』、そして熱を帯びた『マグマ・ジャイアントの魔石』だ。
「よし。まずはベッドとテーブルから作るか」
15年のサバイバルで骨の髄まで染み付いた、我流の『超速クラフト』技術。設計図は全て頭の中にある。
俺は自作の剣をノコギリやカンナ代わりに使い、異常なスピードで神話級の素材を加工していく。釘など一本も使わない。木材と骨の継ぎ目を複雑に加工し、パズルのように組み合わせる「木組み」の技術は、俺にとってはもはやただの手癖だ。
「冬に備えて、床下には魔石を仕込んでおこう」
床板を剥がし、マグマ・ジャイアントの魔石を等間隔に配置する。これで魔力を流せば、家全体がポカポカになる「永久魔力床暖房」の完成だ。
数時間後。
廃屋だったはずの洋館のリビングには、世界樹の香りが漂う最高級のダイニングテーブルと、魔石を組み込んだ床暖房システム、そして王族の寝室に置かれていてもおかしくない、超絶技巧が施された巨大な天蓋付きベッドが完成していた。
「ふぅ……。やっぱり、自分の手で拠点を拡張していくのは最高だな」
俺は完成した世界樹のテーブルを撫でながら、自分の確かな『資産』が形になっていく喜びに深く浸っていた。
もし街の凄腕の職人たちがこれを見れば、「神話級の素材を、ただの日曜大工(DIY)で家具にするなんて!」と泡を吹いて卒倒するだろうが、そんなことは知ったことではない。
「完璧だ。今日からここが俺の城だ」
俺は満足げに頷き、早速ふかふかの(世界樹とヒュドラ製)ベッドへとダイブした。




