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第17話 常識を知るためのパーティ結成と、昇級試験の護衛依頼

マイホーム(元・呪いの廃屋)のDIYもあらかた片付き、快適な生活基盤が整った数日後。


俺はバベルの街の中心にある、冒険者ギルドへと足を運んでいた。


金はまぁまぁあるが、ずっと広い家に引きこもっていても暇なだけだ。外の世界の『常識』を知るためにも、少しは冒険者らしい依頼クエストをこなしてみようと思ったのだ。


だが、ギルド長室に呼ばれた俺は、バルガスから深いため息をつかれていた。


「お前な……深層のバケモノを狩るような奴が、その辺の薬草採取やゴブリン討伐をやってどうする。力の加減ができずに地形ごと吹き飛ばす気か?」


「いや、俺だってそこまで馬鹿じゃない。ちゃんと手加減くらいできるぞ」


「その『手加減の基準』が一般人とズレてんだよ。お前にはこの世界の常識が圧倒的に欠けてる」


バルガスは頭を抱え、隣に控えていた赤髪の魔法剣士――レイアに視線を向けた。


「というわけでレイア。お前の命の恩人とはいえ面倒な役回りを押し付けるが……しばらくこいつとパーティを組んで、冒険者の『常識』ってやつを叩き込んでやってくれ」


「面倒だなんて、とんでもない! クロウさんとパーティを組めるなんて光栄です。私でよければ、精一杯サポートさせていただきます!」


レイアはパァッと顔を輝かせ、嬉しそうに俺の顔を見た。


こうして俺たちはパーティを組み、ギルドの依頼をこなし始めた。俺一人なら一瞬で森を更地にしてしまいかねないが、常識人であるレイアのストッパー(助言)のおかげで、あくまで「優秀なCランク冒険者」の枠に収まる程度の活躍に留めることができた。


……とはいえ。


「クロウさん、あのオーガの群れを……指先の魔力弾だけで全滅させるのは、やっぱり少しやりすぎです!」


「いや、これでも剣を抜かないようにかなり手加減したんだが……」


「あと、採取依頼の『月光草』ですが、空間収納アイテムボックスから数百本も出さないでください! 市場の相場が崩れます!」


「マジか。つい癖で集めすぎちまった」


レイアに怒られ(呆れられ)つつも、俺の圧倒的な殲滅力と【時空間魔法】による大量輸送のおかげで、依頼の達成スピードは常軌を逸していた。


気づけば数週間であっという間にギルドポイントが貯まり、俺のランクは『Bランク』への昇級ラインに達してしまった。


「……お前ら、いくらなんでも早すぎるだろ」


再びギルド長室に呼ばれた俺たちに、バルガスは胃薬を水で流し込みながら言った。だが、その顔はどこか真剣だ。


「まあいい。どうせなら上のランクに上げておいた方が、面倒な輩に絡まれることもさらに減る。クロウ、お前のBランクへの昇級試験として、ある『指名依頼』を任せたい」


バルガスが視線を向けると、部屋の奥のソファーから一人の初老の男が立ち上がった。


仕立ての良い上質な服を着た、恰幅の良い、だが目の奥に鋭い知性を宿した男だ。


「紹介しよう。隣町の『王都』をはじめ、大陸中で手広く商会を展開している『黄金の天秤商会』の会長、ロレンツォ氏だ」


「お初にお目にかかります、クロウ殿。ロレンツォと申します。今回はバベルのダンジョンで産出される『高品質な素材』を直接この目で確かめ、買い付けるために足を運んだのですよ」


ロレンツォ会長は、商人特有の愛想の良い笑みを浮かべながら俺に頭を下げた。


俺も前世のサラリーマン時代の癖で、自然と「こちらこそ、よろしくお願いします」と綺麗な名刺交換の角度でお辞儀を返す。

これだけ手広くチェーン展開している商会のトップがわざわざ現場バベルまで足を運ぶとは、かなりのやり手商人に違いない。


「今回の依頼は、ロレンツォ氏が王都へ帰還するまでの『馬車の護衛』だ。道中には強力な魔物も出るし、何より最近は質の悪い『盗賊団』が出没しているらしくてな」


バルガスの言葉に、ロレンツォ会長が険しい顔で頷いた。


「ええ。単なる金目当ての賊ならまだいいのですが……この世界には、合法非合法問わず『奴隷制度』が存在します。王都にも大規模な奴隷商の元締めがいるのですが、中には良心的な者もいれば、平気で裏の商売をする悪辣な輩もいましてね。最近の賊は、襲った旅人や冒険者を拉致し、そういった裏の奴隷商に売り飛ばす悪行を働いているのです」


「なるほど。人間を拐って売り飛ばす、か」


俺は眉をひそめた。ファンタジー世界とはいえ、なかなか生々しくてダークな裏事情だ。


「すでに私の商会が雇い入れているベテランの傭兵や冒険者たちも数名、護衛として同行します。ですが、Aランクのレイア殿と、バルガス殿が直々に『規格外』と太鼓判を押すクロウ殿にも加わっていただければ、これほど心強いことはありません」


「お前なら欠伸しながらでもこなせるだろうが、今回は対人戦闘における『護衛としての立ち回り』を見せてもらうぞ。人を相手にするのと魔物を狩るのは訳が違うからな」


バルガスにそう釘を刺され、俺は「了解した」と頷いた。


ロレンツォ会長も良い人そうだし、今後も素材の売買などで付き合いができれば、俺のアイテムボックスに眠る『深層のヤバい素材』を適正価格で捌く太いパイプになるかもしれない。大人同士のコネクションは大事だ。



翌朝。バベルの正門前。


俺とレイアが集合場所へ向かうと、そこにはロレンツォ会長の乗る立派な大型馬車と、荷物を積んだ数台の馬車、そして護衛として雇われた十数人の屈強な傭兵たちが集まっていた。


「おうおう。Aランクの『孤高の天才』お嬢ちゃんが来てくれるとは聞いてたが……そっちの優男はなんだ? 見ない顔だな」


顔に古傷のある傭兵のリーダー格が、俺の真新しいCランクのギルドカードと、汚れ一つない万能服アビス・クロークを見て鼻で笑った。


「Cランクの新人か。まあ、足手まといにだけはなるなよ。危なくなったら俺たちの後ろに隠れてな」


絵に描いたようなテンプレの絡み方だ。だが、ガランの時と違って悪意はなく、純粋な「仕事上の警戒」だとわかる。俺は「ああ、よろしく頼む」と、流しておいた。


「それでは皆の者、王都へ向けて出発する!」


ロレンツォ会長の号令とともに、巨大な商隊キャラバンがゆっくりとバベルの街を出発した。


これが、俺にとって初めての「人間同士の殺し合い(対人戦)」の幕開けになるとは、この時の俺はまだ深く考えていなかった。


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