第15話 郊外の巨大な廃屋と、血騒ぐDIYの予感
「自分の家、か。……響きがいいな」
俺は宿屋を出て、バベルの街角にある『商業ギルド(不動産斡旋所)』の扉を叩いた。
カウンターの奥にいた恰幅の良い商人に、俺は物件の希望条件を伝える。
「街の中心から離れた郊外で、とにかく敷地が広い場所を探してる。あと、建物の改装や増築を勝手にやっても文句を言われない、買い取りの物件がいい」
「郊外の広い買い取り物件、ですか。……お客さん、冒険者の方ですよね? それなら街中の便利な場所の方が――」
「いや、静かな方が好きなんだ。予算ならある」
俺が亜空間から白金貨をチラリと見せると、商人の目の色が変わった。彼は慌てて奥から分厚い台帳を引っ張り出してくる。
「そ、それでしたら……一つだけ、条件にピッタリの物件がございます。ただ、その……少々『訳あり』でして」
「訳あり?」
「はい。バベルの東の郊外にある、元はとある富豪が建てた巨大なお屋敷なのですが……持ち主が夜逃げして以来、10年以上も放置されているんです。外観はボロボロの廃屋ですし、庭は魔物の森のように荒れ放題。何より、夜な夜な『幽霊が出る』という噂がありまして……」
修繕費が莫大にかかる上に呪われている。だから、敷地面積に対して破格の『金貨50枚』で売りに出されているが、誰も寄り付かないのだという。
「……なるほど。とりあえず、内見していいか?」
◆
商人に案内されてやってきたのは、バベルの東門から少し歩いた静かな郊外だった。
周囲に他の家はなく、鬱蒼と茂った木々の奥に、その『お屋敷』はあった。
「こ、こちらになります……。どうです? やはり不気味でしょう……?」
商人が怯えたように背中を丸めるのも無理はない。
三階建ての巨大な洋館だが、外壁は黒ずみ、窓ガラスは割れ、建物の半分が不気味なツタに覆い尽くされている。広大な前庭は完全にジャングル化しており、人間の背丈ほどある雑草(というか毒草)が生い茂っていた。
「夜になると、この割れた窓から青白い人魂がフワフワと……ヒィッ!」
だが、俺の感想は全く違った。
「……基礎の石組みはしっかりしてるな。柱の腐りもない。このツタも、剥がせば断熱材の代わりに……いや、いっそ庭の木を伐採してウッドデッキを組むか?」
「え? お、お客さん……?」
無人島で『木の上にツルを縛っただけの寝床』から始まり、15年間ひたすら拠点を拡張し続けてきた俺の目には、この廃屋は「最高のキャンバス」にしか見えなかった。
壁がある。屋根がある。これだけで、サバイバル生活からすれば天国のようなスタート地点なのだ。
おまけに、俺には『状態異常完全無効』があるから毒草も幽霊の呪いも全く効かないし、何より【時空間魔法】の中に、ダンジョンで回収した山のような建築素材(魔物の骨や謎のレア鉱石)が眠っている。
俺の中で、15年で培われた『DIY魂』がふつふつと煮え滾り始めていた。
「気に入った。買うよ」
「は、はい!? いや、ですから幽霊が……!」
「いいから。ほら、金貨50枚だ」
俺は白金貨を両替して作った金貨の袋を商人に押し付け、権利書を受け取った。
「ま、毎度あり……! そ、それでは私はこれで! 呪われても知りませんからねーっ!」
商人は全速力で街の方向へ逃げ帰っていった。
静寂に包まれた広大な敷地に、俺一人だけが残される。
「さて、と」
俺は腕まくりをして(神話級の万能服なので自動で袖がまくり上がる)、ボロボロのお屋敷を見上げた。
「まずは、庭の草むしりと、屋敷の掃除からだな。15年間、無人島で狂ったようにやり続けた拠点作り……骨の髄まで染み込んだ俺のDIYスキルを見せてやるか」
俺はまるで新しいおもちゃを与えられた子供のようにワクワクしながら、自分の新しい「城」へと足を踏み入れるのだった。




