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第13話 15年ぶりの文明の味と、ふかふかのベッド

ガランが逃げ去り、騒動が落ち着いたギルドの酒場フロア。

俺は隣で呆然としているレイアに向き直り、パンッと軽く手を叩いた。


「よし、面倒事は片付いたな。レイア、道案内とギルド長への口利き、本当に助かった。お礼に美味い飯でも奢らせてくれ」


「え? あ、いえ! 命を救っていただいたのは私の方ですし、奢るだなんて……」


「いいからいいから。金なら腐るほど手に入ったし、何より俺は『人間が作ったまともな飯』に飢えてるんだよ。どこかおすすめの店、あるか?」


俺が笑いかけると、レイアは少しだけ瞳を揺らし、やがてふわりと柔らかい笑みを浮かべた。


「……わかりました。お言葉に甘えます。それなら、冒険者御用達のいい酒場を知っていますよ」


レイアに案内されたのは、ギルドから少し歩いた裏路地にある、レンガ造りの落ち着いたレストランだった。


「ここは腕のいいドワーフの料理長がいて、味はバベルでもトップクラスです。……お待たせしました、来ましたよ」


運ばれてきたのは、熱々に熱された鉄鍋スキレットに乗ったままの、厚切り肉と野菜の香草焼き。そして、湯気を立てるふかふかの白パンと、エール(麦酒)だ。


フライパン一つで完結するような、豪快でシンプルな鉄鍋料理。だが、ジュージューと肉の脂が弾ける音と、香辛料の複雑な匂いが、俺の鼻腔を強烈に刺激する。


(ああ……これだ。俺が求めていたのは、こういう飯なんだ)


仙桃を食べてから空腹は感じなくなっていたが、「美味しいものを食べたい」という欲求まで消えたわけではない。


俺はたまらず肉を切り分け、口に放り込んだ。


「――っ、うまっ……!!」


塩。胡椒。ハーブ。そして肉の旨味。


無人島で魔物の肉を丸焼きにして食っていただけの15年間からすれば、あまりにも暴力的で、涙が出るほど繊細な『文明の味』だった。


「ふふっ、そんなに美味しいですか? よかった」


レイアが嬉しそうに俺の顔を見つめている。


俺たちはエールで乾杯し、ダンジョンでの出来事や街のシステムについて語り合いながら、最高の食事を楽しんだ。


「じゃあ、俺はこの『月白亭』って宿屋に行ってみるよ。紹介してくれてサンキューな」


「はい。最高級の宿なので、セキュリティもベッドの質も完璧なはずです。……あの、クロウさん」


食事を終え、店の前で別れる間際。レイアが少しだけ名残惜しそうに俺の服の袖を摘んだ。


「今日は本当に、ありがとうございました。もし……もし、この街で何か困ったことがあったら、いつでも私を頼ってくださいね。Aランクの権限で、大抵のことは融通を利かせますから!」


「ああ、頼りにしてるよ。気をつけて帰れよ、レイア」


俺が軽く手を振ると、レイアはパッと顔を輝かせてから、弾むような足取りで夜の街へと消えていった。


本当に、礼儀正しくていい子だ。ガランが惚れるのもよくわかる。


「さて、と」


俺はレイアに教えてもらった高級宿『月白亭』へ向かい、白金貨の力であっさりと最上級のスイートルームを確保した。

部屋の真ん中には、天蓋付きの巨大で真っ白なベッド。


サバイバル生活の「ツルで縛った木の寝床」とは雲泥の差だ。


「……最高だな、異世界」


神話級の万能服アビス・クロークをパジャマ代わりのゆったりとした服に変化させ、俺はそのふかふかのベッドへとダイブした。


疲労耐性があるから寝なくても平気だが、この柔らかさに沈み込む幸福感は何物にも代えがたい。


15年ぶりの、完全な安全圏での睡眠。俺は泥のように、深い眠りへと落ちていった。


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