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第12話 不器用なAランクと、大人の対応。そしてギルド長の胃痛

「レイアちゃんよぉ。俺のパーティーへの誘いは『ソロで活動するから』って断ったくせに、なんでこんなポッと出の男なんかと一緒に歩いてるんだ? ええ?」


派手で分厚い鎧を着込んだ大柄な男――ガランが、俺の肩をドンッ!と威圧的に小突いてきた。


周りの冒険者たちが「おい、Aランクの重騎士ガランだぞ」「またレイアに絡んでるのか」とヒソヒソ囁き合っている。なるほど、ただのチンピラかと思ったら、彼もレイアと同じAランクのトップ冒険者らしい。


俺は少し面倒に思いながら、ガランに【鑑定】を使ってみた。


【名前】ガラン

【年齢】22歳

【職業】重騎士(冒険者ランクA)

【称号】不器用な剛腕、恋は盲目

【状態】嫉妬、混乱


(……なるほどね。『恋は盲目』か)


ガランの目は俺を睨みつけているが、その奥にある感情は悪意や殺意ではなく、純粋な「焦り」と「嫉妬」だった。好きな女の子が、自分を振って(ソロを理由に断って)見ず知らずの男と一緒に歩いているのがショックで、頭に血が上ってしまったのだろう。


中身が40歳のおっさんである俺からすれば、まるで「好きな子をいじめてしまう小学生」を見ているようで、なんだか少し可哀想にすら思えてきた。


「ちょ、ちょっとガラン! クロウさんに馴れ馴れしく触らないで!」


レイアが慌てて俺を庇うように前に出た。だが、それがさらにガランの導火線に火をつけてしまったらしい。


「レイアちゃんが……男を、庇う……!? ふざけんな、お前! どこの馬の骨か知らねえが、表に出ろ! 俺が直々に実力を確かめて――」


ガランが逆上し、俺の胸倉を掴もうと太い腕を伸ばしてきた。Aランクの剛腕、まともに喰らえば普通の冒険者ならミンチになる速度とパワーだ。


だが、ドラゴンやアビスリッチと殴り合ってきた俺からすれば、止まって見えるほど遅い。


「はいはい、落ち着けって」


ヒュッ、と。


俺はガランの腕を最小限の動きで躱すと、すれ違いざまに彼のみぞおちを指先で『トンッ』と軽く突いた。


もちろん、魔力も力も込めていない。ただ、ハイヒューマンの頑丈な指で「人間の急所」を正確にノックしただけだ。


「――っ、カハッ!?」


それだけで、大柄なガランの体はビクンと跳ね、肺の空気を強制的に吐き出されて膝から崩れ落ちた。


周囲の冒険者たちが「えっ? ガランが転んだ?」と目を丸くしている。俺が手を出したことすら、誰にも見えなかったようだ。


「ゴホッ、ゲホッ……! な、なんだ、今……?」


涙目で顔を上げるガランに、俺はしゃがみ込んで小声で語りかけた。


「いいか、ガラン。好きな女に振り向いてほしいなら、その子の連れを威嚇するのは完全に逆効果だぞ。ただの『余裕のない面倒な男』になるだけだ。もっと堂々と、優しくしてやれ。な?」


「なっ……!? す、好きな女って、俺は別に、そんなんじゃ……!!」


図星を突かれたガランの顔が、みるみるうちに茹でダコのように真っ赤に染まった。


彼は「うわあああっ!」と謎の叫び声を上げると、ふらつく足取りでギルドから猛ダッシュで逃げ出してしまった。取り巻きの男たちも慌てて彼を追いかけていく。


「……あいつ、本当に何がしたかったんでしょうか。ごめんなさいクロウさん、変な奴に絡ませてしまって」


ため息をつくレイアに、俺は「気にするな」と笑って返した。


(あれはあれで、素直でいい奴そうだけどな。次会ったらもう少し手加減してやろう)


――その頃。ギルド長室。


ギルド長バルガスは、誰もいなくなった静かな部屋で、テーブルに置かれた『マグマ・ジャイアントの魔石』と『ヒュドラの牙』を見つめながら、胃薬を水で流し込んでいた。


「……信じられねえ。かすり傷ひとつない、完全な一撃で絶命させた証拠だ。これを、あの優男が一人で……」


バルガスは過去に一度だけ、国軍の総力を挙げた討伐隊として深層の入り口(第100階層)に足を踏み入れたことがある。結果は惨敗。多くの仲間を失い、彼自身も顔に一生消えない傷を負った。


そのさらに下。人類が誰も知らない次元の化け物たちを、あの男は「散歩のついで」のように狩り尽くしてきたのだ。


「魔力も殺気も感じなかったわけだ。あの男は、強すぎて『自然(世界)』そのものと同化しちまってる」


歩く災害。いや、歩く神話そのものだ。


もしあの男が街で暴れれば、バベルなど半日も持たずに地図から消え去るだろう。


「……頼むから、大人しく平和に過ごしてくれよ、Cランクの新人バケモノくん……」


バルガスはズキズキと痛む胃を押さえながら、ただひたすらに神へ祈るのだった。


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