第25話:あるじ様は気にしてない(嘘)
「ふ~んふんふ~ん♪」
第四階層のスイートルーム。そのさらに奥まった場所に、私のプライベート・ルーム――通称「私の自習室」がある。
私は今、コアの端末を足先でいじりながら、にんまりと不敵な笑みを浮かべていた。
迷宮の運営は順調そのもの。でもね、組織が大きくなると出てくるのよ。「面倒な身内」っていうのが。
「黒様~! 会いたかった!」
私の……スタッフであり、ダンジョンの守護者でもあるクロ丸に抱きついてきたのは、数日前に「ちょっとした気まぐれ」で生成された、一歳年下の――ならぬ、一段階格下の子蜘蛛、『リリ』。
設定上は私の妹分(デバッグ担当)なんだけど、これがまあ、私の天敵。
「リリ、ずっと黒様に会いたかったのにぃ。黒様、どうしてリリを呼んでくれなかったの?」
「……。あるじ、いそがしい。……ぼく、おてつだい、してた」
クロ丸が困ったように、けれど優しくリリの小さな頭を撫でる。
リリはひとりっ子……というか単独個体でクロ丸お兄様が欲しかったらしく、昔から私の……クロ丸にべったりだ。
ちなみに、本物のあるじである私(お姉様)はいらないらしい。ふんっ。
「ねぇ、黒様ぁ。あっちで、こっそり魔力の分配しましょうよ。リリ、黒様に報告したいこと、いーっぱいあるのよ」
そう言って、私のスタッフ(クロ丸)をぐいぐい引っ張っていく。
引き離された私は、サロンの端っこでぽつんとひとりぼっち。
我慢、我慢。私は大人。私は前世・女子高生(自称)。
年下のわがまま個体に怒ったりするなんて大人げない。どうせ今日一日のデバッグ作業なんだから、貸してあげるわよ。わ・た・し・の右腕をね!
「……あるじ。……こっち、おいで」
クロ丸が振り返って私を呼んだ。
うわ~ん、クロ丸ぅ!
しかし敵は巧みに「二人掛けのふかふか糸ソファー」を選び、しっかりクロ丸の隣を確保した。話題はリリの自慢話一色だ。
どこどこの通路を綺麗にしただの、何々の不純物を食べただの、私の編んだカーテンの綻びを直しただの。
実直なクロ丸は、無言でそれを聞いてあげている。
その後もリリの自慢話は続く。私の存在をまるっと無視して。
「あぁ、マオさん。いたの」
「……いたわよ、ずっと目の前に」
最初にリリを生成した頃は、私も年下の妹分ということで仲良くしようとしたのだ。
しかし奴は一目見た時から私を「自分と黒様の仲を裂く邪魔者」と認識し、敵視してきたので、そのうち私も仲良くすることは諦めた。
いやぁ、散々無視されたり、私の描いた看板の隅にこっそり落書き(リリ参上!的な)されたりしたもんなぁ。せめて売られたケンカは買わないようにしているけど、視線だけで火花を飛ばし合うのは止められない。
無口で強くて、実はとってもマメなクロ丸は、リリ以外のスタッフ蜘蛛たちにも、もちろん人気だ。
徐々にクロ丸の周りに子蜘蛛たちが集まってくると、リリの機嫌が急降下した。
「ちょっと! 私が黒様と話してるのよ! 割り込んでこないでよ!」
リリが、クロ丸の脚にしがみつきながらキーキー鳴いた。
子蜘蛛たちは、貴重な「クロ丸先輩の戦闘講義」を聞きたくて集まっているだけなのだが、リリは独占できないのがどうしても我慢できないらしい。
「リリの黒様って……。クロ丸にはマオ様という、れっきとした主がいるでしょう。クロ丸はマオ様の忠実な配下」
……あ、子蜘蛛スタッフB君。それは禁句。
一番言われたくない「主従の絆(マオ優先)」を突きつけられ、リリは悔しさにプルプル震えて、ギンッとなぜか私を睨みつけてきた。
いやいや、言ったの私じゃないし。
「あんたたち、絶対許さない! 運営に言いつけてやるんだから!」
……あ、それ私のことね。
リリは泣きながら第四階層を飛び出した。
「……ぼく、リリ、はなしてくる。……みんな、じしゅう」
クロ丸がリリの後を追うと、残された子蜘蛛たちが一斉にカチカチと鳴き出した。
『なんなのよ、あの子。わがままもいい加減にしてほしいわ』
『マオ様が優しいと思ってつけあがってるのよ』
『気に入らないことがあると、すぐに「運営に抗議する!」って言えばいいと思ってるんだから!』
せっかくの先輩との交流チャンスを奪われて、不満大爆発だ。
私はそっとトランプ(糸製)を広げながら、苦笑いする。
「まぁ、たまにしか顔を合わせんし。私は気にしてないよ。リリは、ちょっと寂しがり屋なだけでしょう」
無難に答えておく。ここで悪口に乗ったら、後々バグ報告とかで嫌がらせされそうだから。
これだから、ダンジョンの身内付き合いは疲れる。
「むふ~ん……。とりあえず、リリには後で特製のおやつ(魔力強化)でもあげて、機嫌を取っておきましょうかね……」
あるじ様は、今日も人間関係……もとい「蜘蛛関係」で大変なのだ。
突然新キャラでるし子蜘蛛話せるんだ~って思った?
奇遇だね私もだよ☆彡




