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洞窟を快適にしていただけなのに、なぜか魔王のダンジョン扱いされています 〜クモ女子高生の巣作り生活〜  作者: 湿度管理係


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第24話:極彩色の檻に愛を込めて

「むふ~ん」


誰もいないサロンに、私のご機嫌な鼻歌だけがふわふわと漂っている。指先では、パステルカラーの糸をくるり、くるり。飴細工みたいに形を変えては戻し、また変えて、にんまりと一人遊び。


視線の先には、コアから投影された「魔宮見取り図」。半透明の光の板に、私の夢がぎっしり詰まっている。


「いい感じ……。うん、かなり“それっぽく”なってきたわね」


第四階層。そこに広がるのは、もはや迷宮というより――私の理想郷。

名付けて、『ドリーム・ホテル』計画進行中。


そもそも、このダンジョンコア、ちょっとおかしい。

魔力の貯まり方が、常識の枠を軽々と飛び越えてくるのだ。毎分一定じゃないのがまた面白いところで、冒険者さんたちが楽しめば楽しむほど、ぐんぐん増える。


「お肉おいしい!」

「ネット楽しい!」


はい、チャリンチャリン。幸福が通貨になってる世界、最高か。


「いやこれ……女子高生(自称)が持っていい資産じゃないでしょ……」


思わず遠い目になる。子供のうちから、もとい、生まれたてからこんなに大金を持たされたら、ろくな大人にならない未来しか見えない。ダンジョン主だけど。


普通はこの魔力、強力な罠とか防衛設備に回すらしい。でも私は戦闘? なにそれおいしいの? なので、使い道がない。結果、貯まる一方。


だから私は決めた。ちゃんと計画的に使おう、と。


「毎月のリフォーム予算は……全体の30%!」


ぱん、と手を打つ。実に堅実。残りはコアの奥底に厳重保管。いざという時、勇者とか来たら即ワープで逃げる資金。命あってのダンジョン経営である。


ピップには「お客様満足度の向上よ」と笑顔でごまかしているけど、本音はもう少しシンプル。

――快適に住みたい。

それだけ。



工事は豪快だった。三階層の奥に確保した大空間。

元々は、いかにも“出そう”な雰囲気満載の、湿った岩肌と毒々しい沼のエリアだったらしい。


「いらないわね、これ」


べり。

岩肌を剥がす。ぺりぺり。毒の沼も、ぺたんと剥がして撤去。

迷宮素材のいいところはここだ。物理法則に多少ケンカ売ってる。気に入らなければ、書き換えればいい。


「はい、更地」


数秒後、そこには何もない平地が広がっていた。

そこへ私は、脳内の“前世ストック”を解凍する。


ふかふかのベッド。

広いバスルーム。

無駄に広いソファ。

意味もなく大きい窓(※外は迷宮なので風景はない)。


それでもいいの。雰囲気が大事。


「配置は……この動線で、ここに照明。あ、間接光は絶対いる」


糸を編み、魔力を流し、構造を固定する。壁紙は淡い色で。触感はシルク以上、蜘蛛糸未満(※最高級)。天井は少し高めに。圧迫感は敵。床は弾力を持たせる。長時間歩いても疲れない仕様。


気が付けば、完全に“こだわりオタクの顔”になっていた。


「ここにコンセント的な魔力供給口……あ、配置ずらす。ベッド横にないと不便」


誰に見せるでもないのに、細部に全力投球。むしろ見せないからこそ、全力投球。

そして完成したのが――


「……最高じゃない?」


思わずうっとり。広々としたスイートルーム。これ、普通に住める。

夜になると、私はここに忍び込んで、ふかふかの特製羽毛(糸)布団にダイブするのが日課になっていた。


「ふふ……ふふふ……」


完全に悪代官の笑いである。



「1階、2階、3階、そして……宿泊!」


ついに完成した導線を見て、笑いが止まらない。

探索して、遊んで、癒やされて、泊まる。完璧な流れ。完璧な体験設計。


「うっふっふっふ……!」

「……おい、マオ」


背後から、低い声。振り返ると、ピップがロビーの中央で固まっていた。見上げる先は、完成したばかりの大空間。天井まで吹き抜けの開放感。光る糸のシャンデリアがゆらゆら揺れている。


「やりすぎではないか?」

「ええ? どこが?」


私はきょとんとする。


「全部だ」


即答だった。


「まず、この空間。ダンジョンの一部とは思えん。そして何だ、この箱は」


ピップが指さしたのは、ロビーの中央に設置された装置。


「よくぞ聞いてくれました! これはね――全自動・魔法エレベーター! どーん」

「糸の張力と浮遊魔法のハイブリッド! ボタン一つで上下移動! 階段なんてもう古い!」

「古いとか新しいとかの問題ではない……」


ピップの声が遠い。


「で、さらにこれ! お湯が出ます!」

「……どうやってだ」

「魔力加熱式。一定温度キープ。誰でもいつでも快適シャワー!」


沈黙。ピップはしばらく天井を見上げ、そしてゆっくりと額を押さえた。


「この世界の人間はな……湯を使うだけでも一苦労なんだぞ……」

「だからこそ価値があるのよ!」


びしっと脚を立てる。


「疲れた体に温かいお湯。清潔な寝床。安心できる空間。これが“おもてなし”!」

「おまえの常識、時々恐怖なんだが……」


ピップは深いため息をついた。でも、いいのだ。

この違和感こそが、武器になる。迷宮なのに快適。危険なのに癒やし。そのギャップが、きっとまた誰かを驚かせる。


「ふっふふ……」


私はもう一度、見取り図を引き寄せる。

まだまだ、やりたいことは山ほどある。次はレストラン? それとも温泉? 夢は膨らむ。


糸みたいに、どこまでも、どこまでも。

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