第97話 因縁の対決!勝者と敗者
そこはリミュエール王宮の大庭園を再現した空間だった。本来なら次代の王と王妃になるはずだった二人が、互いのプライドを賭けて命を燃やそうとしていた。整えられた芝生、色とりどりの花壇、そして中央に広がる噴水――かつては祝福の場であったはずの庭園が、今は殺意に満ちた戦場へと変わっている。その対照的な光景に、盤上で見守る僕らも息を呑んだ。
ユリシアとシャルル王子は互いに杖を構えて攻撃魔法の詠唱に入る。
(ユリシアの魔法は爆発一辺倒だ。手の内はお見通しなんだよ)
シャルルの視線には余裕があった。幼少期から幾度となく見てきた魔法――そう思っているのだろう。だが、その油断がどれほど致命的か、彼はまだ知らない。彼は多重詠唱を展開して攻防一体のバランス型魔法を展開するつもりだった。そこに、超高速詠唱で攻撃力を一点集中して放ってきたユリシアの爆発魔法が炸裂する。
「え? ええー?」
――ちゅどーん!! 大爆発が起きる。瞬殺だった。爆炎が庭園の花々を飲み込み、衝撃波が空気を震わせる。爆発の豪炎と爆風で黒焦げになったシャルルが、庭園の端っこまで吹き飛ばされる。
「ホーッホッホッホッ。口ほどにもありませんわ」
勝ち誇るお嬢様。その声音には、かつての鬱屈とした感情が晴れたかのような爽快さすら混じっていた。ひゅるるる~と宙を舞った王子は庭園のバラ畑に頭から突っ込んだ。花びらが舞い、どこか滑稽な光景すら演出している。王子は暫く蠢いていたが、やがてもそもそと這い出てくる。
「相変わらず痛いなぁ」
服はボロボロになりながら、ぴんぴんしている。焦げ跡だらけの姿とは裏腹に、その声には余裕すらあった。王子は幼少の頃からユリシアの相手をしていて、なかなかにタフなのだった。
(ええぇー、タフ過ぎない?)
盤上の誰もが同じ感想を抱く。僕も思わず口を半開きにしてしまう。戦闘の成り行きを見守っていた者たちから疑問符が沸き起こる。王子は顔や身体に塗れている煤を払いながら歩き出すと、瞬時に身体中の傷も、ボロボロの服も修復するのだった。その光景は、もはや人の域を超えている。
***
僕は素直な疑問をディスフィア様にぶつけてみる。
「あの頑丈さ、おかしくないですか?」
《うーむ……あの回復力は最早【再生者】と呼ぶに相応しいのう》
女神の声音には、どこか楽しげな響きがあった。
「ということは……やっつけてもすぐにピンピンになるって感じですか?」
《まあそういうことじゃな。あの王子……もの凄い攻撃魔法耐性じゃな》
「ユリシアさんは勝てるんですか?」 僕の胸に、不安がじわりと広がる。
だが――今度は庭園の遥か向こうからシャルルが攻撃魔法を放つ。
「今度はこっちから本気で行くよ」
その言葉と同時に、空気が凍り付いた。練り上げられた魔法は氷の槍だ。頭上に電柱サイズの氷の槍が発現する。それは冷気を放ちながらなお成長していく。気が付けばその大きさはちょっとしたタワーくらいになっている。空が白く染まり、温度が急激に低下する。常識を超えた魔力は王族ゆえか……ユリシア目掛けて放たれる。
一方のユリシアは全く動じることなく、扇子で口元を覆いながら余裕の表情だ。その瞳には、明確な「格下を見る視線」が宿っていた。強大な氷柱がユリシアに届く手前数メートルでみるみるうちに融解していく。その場所には彼女の作った炎の魔法があった。僅かサッカーボール大の炎の球体だったが、周囲の空気が歪むほどの熱量を放っている。その威力に唖然とするシャルル。
「ホーッホッホッホッ。全く成長してませんわね。得意の魔法にどしどし魔力を注ぎ込んで巨大化・威力増大を図る……誰でも考えれば出来ることですわ」
「なんなんだ……あのサイズであの威力だなんて」 シャルルの声には、初めて明確な焦りが滲む。
「私は精進しましたの。魔力無効の呪印を緩和された後にね。魔法の神髄は『精緻』にありましてよ」
ユリシアが再び杖を振るう。その動きは優雅でありながら、一切の無駄がない。すると彼女の周りから手のひらサイズの小さな小鳥のような魔法体が無数現れ、一斉に空を舞う。光を反射してきらめくそれは、一見すると幻想的ですらあった。魔法感知能力の高い者はそれが何かすぐに理解する。小型自動誘導爆弾魔法だ。ユリシアの合図で一斉に360度全方向からシャルル王子を襲う。
「うわぁー!!」
ちゅどーん! ちゅどーん!! ちゅどーん!!!
小気味良く響く連続爆発音。逃げ場のない包囲網、途切れることのない飽和攻撃。極大魔法も手の内が判れば同様の大魔力で相殺したり防ぐことも可能だろう。しかしユリシアのドローン魔法は自動追尾・自動爆破・放つ爆発属性もバラバラ……とにかく始末に困る上に、省エネで放たれるため、終わりが見えない。
やがてシャルル王子の防御魔法にも限界がやってくる。
「うぎゃああー、うおぉー……手が……足が……ぶっ飛んだぁ~! わかった、僕が悪かった! ユリシア~降参だ! 許して―!!!」
悲鳴というより懇願。その声に、かつての王子の威厳は微塵も残っていなかった。ユリシアは王子の降伏の合図を受け入れてドローンを回収する。完膚なきまでにボコボコにされたシャルルは、地面に大の字で転がっていた。焦げた芝の匂いが辺りに漂う。かろうじて唱えられる回復魔法で、吹き飛んだ左手と右足を引き寄せて修復していく。
「はぁはぁはぁ……この痛み……久しぶりだよ♡ 目が覚めた……やっぱり僕にはユリシアしかいない。復縁しよう! もっともっと虐めてほしい」
シャルルの性癖適性が【M】から【どM】に進化した瞬間だった。場の時間が一瞬で止まる。色んな意味で。
「残念ですわ。もっと早くその言葉を聞きたかった。私……貴方が大好きでしたのよ。でも今はもう、身も心も良一郎様のモノなのです♡」
その言葉には、過去への決別と現在への確かな誇りが込められていた。
「そうなのか……僕の性癖を理解している君を手放したんだ……仕方ない」
「国外追放していただいて感謝申し上げますわ。ごきげんよう、さようなら」
***
ユリシアの言葉の後……勝者が決定する。勝ったユリシアは全回復・体力魔力満タンで盤上へ帰還。しかし敗者のシャルル王子は許されなかった。現恋人の姿である光の女神アストリアが冷酷な審判を下す。
《シャルル王子……不甲斐ない戦いでがっかりしました》
その声には一切の情がなかった。
「ごめんよディアリー。精一杯戦ったんだが」
《役立たずは不要。消えなさい》
「え? そんな……」
王子の言葉が終わらないうちに、その身体は真っ白な塩の柱になる。音もなく崩れ、風にさらわれていく。その最期はあまりにも呆気なく、残酷だった。
勇者・大平が女神に抗議する。
「アストリア様! 精一杯頑張った彼を殺したんですか! ゲームなんでしょう? 止めてください!」
だが女神は微動だにしない。
《イマイチ君たちのやる気が伝わらないからね。当然じゃない、このくらい。そうそう大平くん。君も含めて一勝もできずに負けたら、私の恩寵もなしにするからね。仲間を復活させたいとか元の世界に帰りたいとかあれば……勝って頂戴ね♡》
その冷酷さは、もはや神の理ではなく、ただの遊戯者のそれだった。盤上に立つ僕らは、その事実に静かに戦慄するのだった。
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