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第98話 黄金の騎行と猛虎の意地

 神々の遊戯はまだ続く。次は光陣営の番だった。盤上には先ほどの死闘の余韻が色濃く残っている。勝敗が決してもなお、失われた命の重みは消えない。そんな空気の中で、次に動く者に視線が集まった。


 一時は悲嘆に暮れていたセリアだったが、彼女は既に立ち直っていた。涙の跡は消え、代わりに鋼のような決意がその瞳に宿っている。女神アストリアの言葉を肯定的に受け取れば、勝てば仲間を復活させる恩寵もあるのだ。彼女が最愛の人を取り返すには、それに賭けるしかなかった。


 アイオワはセリアより三歳年下だった。同じ騎士階級の生まれで、子供の頃からよく稽古をしていた。幼いアイオワはセリアには全く勝てず、いつも年上のお姉さんに遊ばれていた。木剣を振り回しても、軽くあしらわれて地面に転がされる。悔しさで涙を浮かべる少年に、彼女は笑いながら手を差し伸べた――そんな日々が脳裏に蘇る。


 やがて少年が思春期を迎えたころ『俺が勝ったら結婚してくれ』などと言い始め、顔を合わせるたびに勝負を挑んできた。お互いの進路が違い、顔を合わせなくなっても、年に一回は勝負を挑んでくる。成長した彼は遂に憧れの人を打ち負かす。彼女もその執念を認めて結ばれた仲だった。


「大平殿……私が行こう。相手は誰でもいい。とにかく戦いたい気分なんだ。アイツの為にも」


 その声には静かな怒りと、押し殺した悲しみが混ざっていた。


「セリアさん……アイオワさんを蘇生するためですか?」


 大平の問いに、ほんの一瞬だけ彼女の表情が揺れる。


「それは……ついでだ。私は女神アストリア様の使徒、そして信者を護る聖堂騎士団長。ここで働かなくてどうする?」


 言い切るその姿に、もはや迷いはなかった。


《よく言ったわ……セリア・エンタープライズ。貴女のその覚悟に期待してるわ》


 女神の声が重なり、場の空気が引き締まる。


「わかりました。ではセリアさんをあの軍師へ」


 大平の指示と同時に、盤上の緊張がさらに高まる。


 セリアがアズマ陣営のアシュレイに向かう。


「あいつは補助魔術師だ。一人では分が悪かろう。もう一人一緒に掛かって来い。まとめて相手してやる」


 その挑発は、騎士としての誇りから来るものだった。


「舐められたものね。アズマくんどうする?」


 アシュレイが肩をすくめながら問いかける。


《いいではないか。向こうがそう言うなら遠慮はいらん。良一郎……トラ子をつけてやれ》


「いいんですか? トラ子さん……いけますか?」


 僕が視線を向けると、トラ子は元気よく拳を握った。


「まかせて~良ちゃん。トラ子がアイツぶっ飛ばしてくるよ」


 その無邪気さが逆に頼もしい。


「わかりました。こちらは申し出を受けます」


 それを同意としたのか、盤上からアシュレイとトラ子の二人の姿が掻き消える。セリアも戦いのステージへ。今度のフィールドはアストラリア王国の騎士団練兵場だった。広大な馬場にぽつりとセリア……そしてアシュレイとトラ子が立っていた。乾いた土の匂いと、過去の訓練の記憶が漂う場所。


 セリアがふと背後に気配を感じると、そこには彼女の愛馬オルフェが佇んでいた。金色の暴君と呼ばれる、セリアにしか乗りこなせないウォーホースだ。その瞳には主を待ち続けた忠誠が宿っている。


「なるほど。この戦場では極力戦力の均衡化が図られてるってわけか」


 セリアは軽く手綱を撫でながら呟く。


「確かに……騎乗した騎士の強さは別格だもんね」


「えーと、いいんじゃないかな」


《君たち、フィールドにある物は何を使っても構わないわ》


《アシュレイもトラ子も馬が使いたければ厩舎に何頭でもおるぞ》


「わかりました。ですが必要ないので」


「トラ子も大丈夫でーす」


 両者の準備が整う。


***


 カァーン!  第三ラウンドのゴングが響く。セリアが愛馬オルフェに騎乗する。彼女の動きに呼応するように、馬もまた力強く地を蹴る。彼女の武器はブロードソード(聖剣として魔法付与されている)だったが、馬上で神聖魔法を唱えると、剣はその姿を馬上槍に変化させていく。右手に槍を左手に聖盾を装備し、ゆっくりと近づく。その姿はまさに戦場を駆ける黄金の騎士だった。


「二人には恨みはないが、闇の使徒は全て殲滅する。それが聖堂騎士として私の任務だ」


「私は光の王国公認のSランクパーティーの一員だったの。でもメンバーに裏切られてすべてを失った。命さえもゴミのように奪われそうになって……それを救ってくれたのがアズマくんとディスフィア様だった。闇だから悪と決めつけるのは本当に愚かだと思うわ」


「トラ子も獣人だからって忌み嫌われてたけど……良ちゃんは『可愛い』って言ってくれたんだ。だから戦うんだ。遠慮なく行くよ!」


 それぞれの言葉に、譲れない理由が宿る。両者の間に戦意の火花が散る。セリアが合図するとカッと蹄を鳴らしてオルフェが疾走する。地面を蹴る音が雷鳴のように響き、距離が一気に縮まる。


「行くわよトラ子ちゃん」


 アシュレイが補助魔法を多重詠唱していく。淡い光と闇が絡み合い、トラ子の身体能力が一気に跳ね上がる。二人の筋力・速度・魔法抵抗・物理抵抗・攻撃力など様々な能力値が向上していく。迎え撃つ気満々だ。トラ子はただでさえハイスペックな運動能力を爆上げされている。身長2メートルの虎獣人が舞う。


 ガキィーン!! トラ子の必殺の蹴りはセリアの聖盾に阻まれる。衝撃が空気を震わせる。くるりと空中で回転し、人馬が走り去った後に華麗に着地する。


「めちゃめちゃ硬いんだけどー」


「彼女の鎧や盾は聖堂騎士団特製なのよ。本来は外に向かって放たれる光魔法を内に込めた鉄壁の防御装備なの」


「それじゃあー、トラ子も武器使っちゃおう」


 武闘着の帯に刺していたヌンチャクを抜き、両手に持つトラ子。重さを感じさせない軽やかな動きで振り回す。


 セリアは聖槍から光の矢を放ちアシュレイを牽制しながら、再度トラ子に襲い掛かる。愛馬のオルフェも光の加護があるのか、鬣は金色に輝き、踏み込みの一歩ごとに地面が抉れる。


「行くぞ! 聖光走破突!!!」


「超神技的足捌!!」


 二人が交差する瞬間……トラ子の身体が視界から消える。突きを潜り抜けヌンチャクの一撃を見舞う。

 がぁーん!! セリアの後頭部を直撃するが聖兜はヌンチャクのダメージを通さない。


「やるなトラ子。だが……あらゆる攻撃は私の装備を通さない。私が難攻不落の要塞と呼ばれる所以だ」


「くっそー、攻撃は当たるのにぃー」


「トラ子ちゃん! 加勢するわ」


「待って! アシュレイ。バフだけで十分だよ。私にもプライドがあるもん」


 その言葉には、獣人としての誇りが滲んでいた。


「もうー……わかったわ。じゃあヌンチャクも強化するから!」


 トラ子の武器に闇の力が宿る。


「行くぞ!」 輪乗りから一転して再びトラ子に襲い掛かる。


「来い! アチョー!!」


 二人の間合いがまだ遠い段階でセリアの光の槍が、鋭く細くなり伸びていく。如意棒のように伸びた槍先は、逃げ場を与えない。


「聖光伸刺突!!!」


 ドスッ!  槍がトラ子の腹を貫く。


「グハッ……」 呼吸が一瞬止まる。


「光の奥義だ。悪く思うなよ。死ね……獣人!」 冷酷な宣告。しかし――


「猛虎硬爬山!!」


 トラ子が突進してくるオルフェに必殺の奥義技を炸裂させる。渾身の頭突き・ヌンチャク込みの突き・そして体当たりだ。人馬がぶっ飛ぶ。土煙が舞い上がり、視界が遮られる。セリアも激しく落馬するが聖装備は彼女にダメージを与えない。


「獣人だからって何? 私は獣人だって幸せに暮らせる世界のために戦うんだ!」


「そうか……私も犬になってわかった。人は外見じゃない……魂だってな。敬意をもって倒そう」


 互いの信念がぶつかり合う。再び対峙する二人だった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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