第95話 古城の死闘と卑劣なる残影
闇の魔王軍に挑む光の勇者たち……悠久の時を越えて再び両者が相まみえる時が来た。盤上に立つ僕は、息を呑んでその光景を見上げていた。これはただの戦いじゃない――神に弄ばれる「再演」だ。そう理解しても、目を逸らすことはできなかった。高く空中にある特設闘技場に二人が降り立つ。そもそもこの場所は地下だったはず……しかし目に見えぬ開かれた謎の空間が広がるのだった。全て女神の力なのだろう。戦いのフィールドは、女神の説明によるとランダムに選ばれるらしい。
ノワールとアイオワが相対する場所は、古の城だった場所のようだった。城壁や建物もあちこちが壊れ、朽ち果てる寸前と言った風情だが、人気はなく思い切り能力を解放できそうに見える。 風が吹き抜けるたびに、瓦礫がわずかに音を立てる。その荒廃した景色は、これから起きる戦いの結末を暗示しているかのようだった。
ちなみに盤上に残された僕らには、なぜか二人の戦いが見える。女神たちの視線を、駒である僕らも共有しているらしい。逃げ場なし、目を背けることも許されない観戦席――なんとも趣味の悪い演出だ。古城の広間でノワールとアイオワが対面し、何やら会話をしている。僕らにはそれも聞こえるのだ。
「お前が魔王軍幹部・不死の王ノワールか?」
アイオワの声は低く、しかし一切の揺らぎがなかった。
「ふふふ……アイオワか。イノカワ同様に魂を喰らってあげるわ」
対するノワールは、まるで遊び相手を見つけた子供のように楽しげだった。
「やっぱりお前がイノカワを殺したのか?」
「ええ……彼の祖父の代からの恨みがあるのよ」
軽く言ってのけるその口調に、長い時間の積み重ねがにじむ。
「イノカワはいけすかねぇ奴だったが、王国を護るという一点においては仲間だった。奴の仇は取らせてもらうぜ」
その言葉には、騎士としての矜持が宿っていた。
「面白いわ。お前に出来るかしら?」
「舐めるなよ……アンデッド対策はしてある。粉々にして二度と復活できないようにしてやるぜ」
睨みあう二人。アイオワは剣を構え、ノワールはレイピアを抜く。空気が張り詰める。まるで時間そのものが一瞬止まったかのようだった。
――カァーン! どこからともなく響くゴングの音。開始の合図と同時に踏み込むアイオワ。人智を越えた化け物相手に恐れる風もない。ノワールはニヤリとほほ笑みながらバックステップで逃れ、そのまま影に溶けて姿を消す。空しく空を切るアイオワの大剣。その速さと剣圧で床から風が舞い上がる。
「ちっ! 逃げたか?」 周囲を見渡すその視線は鋭い。
「誰が逃げたって?」 次の瞬間、どこからか響く声。
アイオワの背後にある建物の影から湧き出るように現れるノワール。彼女は影と影の間を自由に行き来できるみたいだった。今度は逆に鋭い突っ込みで間合いを詰めて、レイピアでアイオワの急所を狙って突いて来る!反転してその突きを受け流す。そして直ちに反撃に転じる。
「喰らえ! 聖光十連撃!!」
アイオワの大剣が光り輝き繰り出される、凄まじい連続の突き技。光が弾ける。物理無効のノワールも、光の女神の魔法で強化された大剣ではダメージは免れない。細身のレイピアでは分が悪そうだった。互いが突きや斬撃を繰り出す度に魔力が光り、衝撃が響く。
「くっ……やるわね、小僧」 初めてノワールの声にわずかな苛立ちが混じる。
ダメージが蓄積されよろめくノワールだったが、トドメの一撃を喰らう前に再び影に姿を消す。
「ちっ! 逃したか! だが次は仕留める」
剣を再び上段に構え周囲を警戒するアイオワ騎士団長。放たれた殺気がセンサーとなり、その気に触れた相手を瞬時に両断する――そんな「ゾーン」を展開する。その姿はまさに歴戦の騎士。無駄が一切ない。
アイオワの正面……柱の陰から再びノワールが現れる。しかしその姿は先ほどまでのゴスロリJSとはうって変わって、妙齢の美女に変貌していた。身長もリーチも大人の女性になり体格の不利は消える。そして彼女はレイピアを捨て、その両手から真紅の爪を伸ばす。軽く50cmはあろうかというそれは、あの日諜報騎士団長イノカワの魂を喰らった凶刃だ。
「いくわよ!」 床を蹴って瞬時に肉薄するノワール。間合いを詰めて両手の爪で攻撃する。
(こいつの爪は触れるだけでヤバイ!)
スパッ!! ノワールが左手の爪で大剣を捌きながら、右手の爪でアイオワの頬を切り裂く。その瞬間、衝撃が走る。
「ウッ! なんだこれは!? 全身から力が抜ける感覚が……」
傷は浅い。それなのに、致命的な何かが削られていく。【エナジードレイン】だ。敵の生気のみならず「経験値」を奪う不死の王の特殊スキル。
***
それは異質な感覚だった。人間の成長を奪い去るかのような……ぞわりという嫌悪感が騎士団長の背筋を走った。ノワールの真紅の爪の間に、ピリリと紫の稲妻が走る。
「なんだ!? この感覚は?」
「ホホホホホ。今の一閃でレベルひとつ、経験値を頂いたわ」
勝ち誇る笑み。その余裕が不気味さを増幅させる。
「クソッ! こんなかすり傷でレベルダウンだって? やってられねぇな」
だがその言葉とは裏腹に、アイオワの呼吸はわずかに乱れていた。
ノワールは妖艶な笑みを浮かべながら攻撃を仕掛けてくる。その動きは舞台で歌い踊るプロダンサーのような優雅さだ。しかし見惚れる暇はない。一瞬の油断が命取りになる……そんなレベルの達人同士の戦いだった。攻防のたびに火花が散り、古城の石床に無数の傷が刻まれていく。
ノワールはアイオワの光の大剣に傷つけられ、アイオワはスリ傷程度の当たりからノワールに経験値を吸われる。一進一退の攻防が続く。
(いかん……このままでは押しきられる。レベルが落ちてる。このままだと決壊する)
騎士としての本能が警鐘を鳴らす。
「やるしかねぇ……!」
アイオワは今まで身に着けてきた中で最高の奥義を叩き込むつもりで、筋力と魔力を練り上げる。光の大剣が灼熱の赤い光を纏って鈍く輝く。ノワールもその気配を察した。
「決着をつけるのね? いいわよ……乗ってあげる」
逃げる気はない。むしろ迎え撃つ構えだ。不死の王も真紅の爪を構えて飛び込んでいく。二人の間合いが縮まり、刃と爪牙が交差する瞬間だった。アイオワの剣先が鈍る。ほんの一瞬――だが致命的な遅れ。 真紅の爪が刃を潜り抜けて片手の5本分……アイオワの身体を貫き、背中へ貫通する。
「ガフッ……」 声にならない。口から、傷口から血が溢れる。
その時、ノワールの姿を見て観戦する僕らも凍り付いた。誰もが同じ違和感に気づく。彼女は――金髪をなびかせた聖堂騎士団長セリアの顔に変化していた。なぜ? という疑問が頭に浮かぶ。だがアイオワの顔を見れば答えは明らかだった。驚きと諦め……男はその顔の女を愛していたのだ。卑劣極まりない一手だった。最も踏み込まれたくない心の奥を、無遠慮に抉る一撃。盤上で観戦していたセリアの顔が暗く沈む。拳が震えていた。
「バカ者が! 私を残して死ぬなんて許さんぞ! 嫁に貰ってくれるんじゃなかったのか!」
その叫びは、痛いほど真っ直ぐだった。その悲痛な叫びは届いているのか分からない。戦場ではアイオワの刃を間一髪で受け流したノワールが、そのまま貫いた傷からエナジードレインで弱体化させている。アイオワは大剣を手放して、素手で彼女の両手首を掴んで耐えていた。
「このまま愛しい女の顔で地獄に送ってあげる」
「……俺がセリアと恋仲なんて、よくわかったな。卑怯者め」
血を吐きながらも、その目はまだ死んでいない。
「ふふっ、イノカワが教えてくれたの。奴の記憶から頂いた情報よ」
「あのクソ野郎……死んでもまだ俺たちの足を引っ張るのか」
「そろそろ死になさい」
「……このまま素直にやられる俺だと思うなよ」
その言葉と同時に、アイオワの指にわずかに力がこもる。男の覚悟は、決まった。
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