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第90話 隠し扉を探せ!

 翌日の早朝、太陽が昇る時間に王都郊外のアズマ邸にやってくる勇者一行。地下への潜入ミッションだが、日の光が大地を照らす時間帯を敢えて選んでいる。光の女神の加護を祈りながら邸宅の裏口へ……まるで空き巣狙いのようだ。朝露に濡れた庭草が靴の先に触れ、冷たい感触が伝わってくる。王都から少し離れたこの場所は静まり返っており、遠くで鳥の鳴き声が聞こえるだけだった。


 辺りに人影はなく、警備の様子もない。斥候役のミランダが素早くドアのカギ穴をピッキングし、魔導師のシャルルが魔法でコントロールされている内部鍵ストッパーを外す。解錠まで約一分……プロの仕事だ。


「開きました。私が先導します。油断なきよう」


 ミランダは小声で告げると、ゆっくりと扉を押し開いた。


「うーん……普通の家みたいだけど、本当に魔王のダンジョンに通じてるのかい?」


 聖女ディアリーが素早く魔法探知を飛ばす。しかし反応はない。


「この家に人影は無いみたいです」


 室内には静かな空気が流れていた。家具の配置も整っており、誰かが昨日まで住んでいたかのような整然さだ。シャルルも邸宅内に魔法の痕跡がないか探りながら付いて行く。かつて、冒険者アズマがダークエルフのイリスと暮らすために買った家は、諜報騎士団が接収して調査して以来、何も変わった様子はなかった。家財はほぼそのまま残されていたが、既に生活の痕跡は見当たらなかった。


 埃もほとんどなく、妙に整いすぎているのが逆に不気味だった。一行は目を皿のようにして、地下通路を探す。床下や壁に空間は無いか……探知魔法をあちこちに放つが反応は無い。成果のない時間が過ぎ、アイオワが不機嫌になっていく。


「おいおいミランダ。見当外れじゃないのか?」


 一方でセリアは何か異様な雰囲気を感じている。


「いや……待て……ここは何かある。私の勘がそう叫んでいる」


 騎士として幾多の戦場を潜ってきた彼女の直感が、かすかな違和感を告げていた。そうしているうち、勇者大平が何かを見つける。


「みなさん……怪しいモノを見つけました」


 一同が居間の奥にある本棚の前に集まる。


「これを見てください。この本だけやけに目立ってませんか?」


 そう……大平が見つけたのは本棚にある一冊の百科事典。よくあるサスペンスドラマで隠し扉のスイッチに使うような感じに配置されている。そして本を棚から抜こうにも取れない。大平がビンゴとばかり百科事典を棚に押し込むと、ゴゴゴゴゴゴ……という音と共に大きな本棚が回転して地下への通路が現れる。LED電灯が現れた通路を照らす。地球人レベルで言うと『ベタな隠し通路』だった。


「もおー、何でこんなあからさまに怪しい仕掛けが分からなかったんですか!?」


 大平の問いに、それぞれが顔を見合わせる勇者パーティーの面々。


「そうは言われましても……全く魔力探知に引っ掛からないし……」


「すげぇーなアズマ。こんな仕掛けを魔法なしで作れるなんて」


「地球ではこういう仕掛けが当たり前なんですか!? どうみても普通の本棚にしか見えませんでしたよ」


 異世界人たちの素直な感心に、膝から崩れ落ちる大平翔太。


「カルチャーショックが……。でも、やはり魔王は地球人だってよくわかりましたよ!」


 すぐに顔を上げて立ち上がる。鋼のメンタルだった。


「気を取り直して先に進みましょう。ここからが本番なんですよね?」


「そうですね、勇者様。全員に光の加護を更に上書きして掛けておきます」


 ディアリーが光の女神に祈ると全員を淡い光が包む。光の加護結界だった。闇の呪いが二、三発来ようと耐えられる……その光が全員の勇気を奮い立たせるのだった。


***


 ミランダを先頭に地下通路を下りていく。緩いスロープの先には下りる階段と、謎の扉があった。扉の横には▽マークの付いたボタンがひとつ……エレベーターだった。金属の扉は静かに佇み、まるで来客を待っているかのようだった。


「やったーラッキー! エレベーターあるんだ。これで一気に魔王の所に行けますね」


 喜んでボタンを押そうとする大平を、全員が飛びついて引き留める。


「大平どの! これは罠に違いない!」


「そうですよ! どう考えても罠です!」


「この扉も何も無さそうですけど……絶対罠ですよ」


「そうですか? 普通に直通のエレベーターだと思うけど」


「うーん……仮に下にたどり着いても、そこが侵入者を絶対殺す仕掛けの可能性もあるぞ」


「ここは定石通り階段です! 向こうの階段からちゃんと攻略しましょう」


「勇者様はダンジョンは素人……ここは我々にお任せください」


 仲間たちに押し切られ、しぶしぶ従う大平。一行はエレベーターを避けて階段から地下一階に降りていく。第一階層に降りてマッピング魔法を放つシャルル王子。手にした石板まるでタブレットだに周囲の地図が浮かび上がる。石板の地図をずらしながら確認すると、第二階層に下りる階段の位置が分かった。その方向に隊列を組んで進んでいく。


 地下迷宮は第一階層から下へ進むにつれて徐々に広がっていく。この地下迷宮は、いわゆる「秘密基地」なのか、正確にはダンジョンではない。モンスターは出てこなかった。あちこちの小部屋はかつての居住区や、今は何かの倉庫らしく、とにかく人気がない。静まり返った通路に足音だけが響き、どこか人工的な空気が漂っていた。やがて、二階層に進む階段がある広い部屋にたどり着く。ミランダが身構える。


「誰かいます。この階層のボス……守護者かもしれません」


 一同に緊張が走る。大平も背中に背負った聖バットを引き抜き戦闘に備える。天井に明かりが灯ると、部屋の真ん中には一人の女性が立っていた。歳の頃なら三十代から四十代の妙齢の美女……美しい黒髪に透き通るような白い肌……真っ赤なルージュがひと際目立つ。まるで夜そのものが人の形を取ったかのようだった。不死の王にして魔王アズマの軍事面を支える重鎮……ノワールだ。 


「お久しぶりね、ミランダ」


「え? 誰なの?」


 勇者パーティーの面々は顔を見合わせる。だがミランダだけは、その声にどこか聞き覚えを感じていた。


「この姿では初めましてかしら。『わ』ですよ……『あ』さん」


「まさか! その姿は……イノカワ団長の呪縛が解けたから?」


 ミランダの瞳が大きく見開かれた。過去に見た“あの存在”と、目の前の美女の気配が重なったからだ。


「おっしゃる通り。今はマスターアズマの下で働かせていただいてますの」


「みんな気を付けて! 恐ろしい邪気を感じる。相当な高位アンデッドよ」


 ディアリーが警告する。その言葉と同時に、空気の温度がわずかに下がった気がした。聖女の感覚が告げている――この存在は、並のアンデッドではない。


「まあまあ武器をお納めください。あなた方の侵入は既に察知済。ですが危害を加えるつもりはありません」


「てめえーどういうことだ?」 アイオワが牙をむくような声で問い詰める。


「皆様をお迎えに。皇帝アズマは勇者様との話し合いを御所望です」


 その言葉に、パーティーの空気が一瞬だけ凍りつく。魔王自らが会談を望んでいる――予想外すぎる展開だった。


「信じられない。こいつは魔王軍幹部。ここで倒した方がいい」


 シャルルが低い声で言う。指先には既に魔力が集まり始めていた。しかし、当の勇者は妙に落ち着いていた。むしろ興味深そうにノワールを見ている。


「えーと、僕が勇者なんだけど彼はなんて言ってるのかな?」


「アズマは『え? 嘘だろ? マジかよ! サイン欲しい!』って言ってました」 


「ハハハ!そうなんだ…話が早そうだ…すぐ案内してよ」


 大平は深く考える様子もなく頷く。むしろ、どこか嬉しそうですらあった。


「かしこまりました。ではあちらのエレベーターへ」 


「おい! 戦わずに付いて行くのかよ?」


 ノワールは静かに振り向き、通路の奥を指し示す。アイオワの忠告も無視してエレベーターに向かう大平。一同はしぶしぶそれに従うのだった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。


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