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第89話 王都潜入!変わる街並み

 諜報騎士ミランダの手引きで、勇者一行は無事に王都への潜入を果たした。王都を囲う城壁を、抜け穴を使ってクリアする。諜報騎士団が万一の備えとして作っていた地下トンネルだった。湿った石の匂いが漂う細い通路を、灯りを最小限にして進んでいく。外の世界の空気が遠くなり、足音だけが反響していた。


 潜入した一行はミランダの確保している隠れ家に入り、一旦休憩するのだった。魔王アズマの足元に到着できたが、まだまだ油断はできない。それにどうやって奴の喉元に刃を届けるか……課題は尽きなかった。王都の一角にあるその隠れ家は、古びた倉庫を装った建物だった。外から見れば何の変哲もないが、中には簡素な寝具や保存食、武器の隠し場所まで用意されている。


 ミランダは荷解きもそこそこに隠れ家を出て行こうとする。


「皆さんはここで英気を養って下さい。必要なモノは揃ってます。後で新鮮な食材も買ってきますから」


 彼女はすでにフード付きの外套を羽織り、いつでも街へ出られる格好になっていた。


「ひとりで出るのか? 危険だぞ……俺も同行しよう」


「いえ……団長は目立つので駄目です。ここは私一人が一番安全ですから」


 確かにそうだった……アイオワもセリアも王都では誰もが知る有名人だ。聖女ディアリーとシャルル王子は土地勘がない。出かけようとするミランダを勇者大平が呼び止める。


「ミランダさん……僕が付いて行きます」


「え? 勇者様もいけません。もしも何かあったらお守りできないですし」


「大丈夫ですよ。僕は身バレしてないでしょ? それにこれから打倒する魔王の国をもっとこの目で見たいんです」


 その声には、純粋な好奇心と覚悟が混じっていた。パーティーの意見は割れたが、結局同行をしぶしぶ認めることになる。


「大平どの……ミランダの指示を必ず守って下さい。くれぐれをお気をつけて」


 ミランダと大平はアジトを出て、王都の賑わいに溶け込んでいく。通りを歩くと道行く人々の顔は明るかった。ミランダは目を伏せ黙々と歩いていく。大平は初めて見る獣人の街に目を見張るのだった。色とりどりの屋台、焼きたてのパンの香り、行き交う人々の笑い声。王都は想像していたよりずっと活気に満ちていた。


(みんなケモ耳……なんか可愛いぞ) (街は賑わっている……人々は大声で明るく話してる) (魔王の悪口とか言ってる人もいる……でも何も起きない……この空気は日本みたいだな)


 ミランダは大通りの商店の幾つかに顔を出し、店主に話かけたりチップを渡す。やがて二人は繁華街から外れて広場に面したベンチに座る。ミランダが近くの露店で軽食と飲み物を買ってきて、二人で食べているとはた目にはカップルに見えるのだろう。道行く人々が微笑ましそうに見ながら通り過ぎていく。焼きたての串肉と甘い果実水。異国の味だが、どこか親しみやすい。


「ミランダさん……なんか平和ですね」


「そうですね……私も拍子抜けしてます」


「この国を支配してる魔王って本当に悪い奴なんですか?」


 大平が素直な感想を質問でぶつけたとき、二人が座るベンチに一人の男が近づき、自然にミランダの隣に座る。男は手にした新聞を広げながら彼女に囁く。


「『あ』よ……久しぶりだな」


「『か』さん……ご無事でなによりです」


「勇者を連れて舞い戻ったのか?」


「ええ……いよいよアズマに引導を渡します。協力して下さい」


「今わかる情報は渡す……だが協力は出来ない」


「何故ですか? この国を取り戻したいとは思わないのですか!?」


 ミランダの声には焦りが混じった。


「俺は一度アズマを暗殺しようとして失敗……ヤツに屈服して生かされた。闇の女神に降った半端者だ。それにな……俺は迷ってる」


「一体何を迷ってるんですか?」


「この国を見ただろ? どう思う? 俺は以前の王国より今の統治の方がいいかも?なんて思ってしまうんだ」


「わかりませんよ。今だけの見せかけかもです」


「だがな……あのサラトガ伯爵が首相になって法整備してるんだ。税金や献金も軽くなった。借金も帳消しだし、信仰も発言も集会も自由だったりする。革命以降で誰も理不尽に惨たらしく死んだ者はいない」


 ミランダは何も言えなかった。男は情報の入った封筒を新聞の間から取り出すと、そっと彼女に手渡す。


「諜報騎士団のネットワークももう使わない方がいい。今はアズマに堂々と仕えてる奴もいるからな。気を付けろ……俺はただ見届けるだけだ」


「わかりました……ありがとうございます」


 男は何もなかったように席を立ち、大通りの雑踏に消えて行く。大平はそのやり取りをただ静かに見守るだけだった。


***


 隠れ家に戻ったふたり。買い込んだ食材で温かい食事を作り、英気を養う一行。ミランダは暗号で書かれた「か」からの情報を解析する。「か」はアズマに敗れた後も諜報騎士として活動していた。ただし、叛意を抱くとわんこ(コーギー)になるので、客観的な情報を綴るに留まっている。ランタンの灯りの下で、ミランダは紙に書かれた暗号を一つ一つ読み解いていく。部屋の中は静まり返り、時折薪がはぜる音だけが響いていた。


 アズマとその一行は帝国の中枢として馬車馬のように働いていた。帝国はここ一か月でようやく軌道に乗り、サラトガ首相の下に有能な大臣・官僚が揃って、いわゆる「善政」が敷かれていた。その骨子は「平和国家・日本」を彷彿させるものだった。基本的人権や自由・平等が謳われ、心配した闇の女神からの宗教的弾圧も無い。教会では光の女神像の隣に闇の女神像も安置され、国民はどちらも祈ってオッケーという感じだ。


 敬虔な光の女神信者であるミランダとセリア、ディアリーが頭を抱えていると、大平がにこにこしながら独り言を言う。


「ははははは……神社もお寺も教会もモスクもオッケーなんて、まるで日本だなぁー。アズマくん……どんな奴なんだ?」


「もうー勇者様……アズマは倒すべき悪なんです。この国を乗っ取っただけでも大罪人ですから!」


「うんうん……わかったよ。気を引き締めていくから」


 そう言いながらも、大平の表情にはどこか複雑な色が浮かんでいた。やがてミランダが解読を終えて作戦会議が開かれる。


「アズマの居場所がわかりました」


「おおぉ! 王宮内に突入するか!」


「いえ……王宮内は多数のスケルトン兵にテイムされた魔獣……ちょっと難しいです」


「ではどうする? 隙はあるか?」


「『か』さんの情報だと、アズマ一行は週末に王宮から姿を消すとのこと」


「え? どういうこと? 皇帝が不在になるってこと?」


「ええ……恐らくは地下へ。王宮からも行ける地下の秘密基地がある。そして闇の呪印もそこから発動しているみたいです」


「そうか……奴ら俺たちの知らぬ間に地下に根を伸ばしていたのか」


「そうです……見落としていました。ただ地下迷宮の入り口の一つは間違いなく『アズマの家』かと」


 それはかつてアズマ少年が冒険者ギルドから買い取った一戸建て。諜報騎士団で接収し、調査したが何も出なかった家だ。だが今になって思えば、あまりにも何も無さすぎたのかもしれない。


「アズマ一行の隠蔽能力を甘く見てました。必ずあそこに何かがあるはずです。明日は土曜日……アズマが地下に潜るタイミングで踏み込みましょう」


 勇者パーティーの作戦は決まった。彼らの前に謎の地下迷宮が姿を現そうとしていた。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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