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第88話 開眼!光の二刀流!

 聖大陸に春が訪れようとしていた。雪は解けて暖かな日差しが空を覆う。冬の名残を残した山道のあちこちから、雪解け水が小さな流れとなって音を立てている。凍りついていた大地もゆっくりと目を覚まし、草の芽が顔を出し始めていた。


 勇者大平は内心の焦りを隠しながら、魔王討伐パーティーを率いて国境の山道を越えていく。この世界と地球のカレンダーが同じなら、もうすでに日本ではNPBのチームとの練習試合も始まるころだ。慣れない革の装備を身につけながらも、その歩き方はどこか軽い。だが頭の中では、まるで試合前のように時間の計算が続いていた。


(僕が合流してないとなると、伊畑監督がパニックになってるかもなぁ)


 それは杞憂ではなく現実だった。突如姿を消した世界のスーパースターに、所属球団も日本代表チームもパニックになっていた。しかし、必ず帰って来ると腹を括った彼らは、報道陣を上手くまとめ「大平は山籠もり特訓をしている」として、世間の目をなんとかごまかしていた。


 世界中のメディアが騒ぎ立てる中、チーム関係者たちは苦しい言い訳を続けている。そんな光景を想像すると、大平の胸の奥にわずかな罪悪感がよぎった。山道を進む一行の中で、光の聖女ディアリーが歩調を合わせるようにそっと隣へ並んだ。彼女は不安そうな勇者に声を掛ける。


「勇者様……日本の事をお考えですの?」


「ええ……わかりますか? まあジタバタしても仕方ない事だけど、やっぱり心配なんですよ。僕のせいでチームに迷惑をかけてる筈だから」


 大平は苦笑しながら空を見上げる。澄み渡った青空は、どこか地球の空にも似ていた。


「申し訳ございません……本来ならもっと違う、この世界に適合した方をお呼びするはずでしたの」


「そうなんですか? じゃあなぜ僕が選ばれたのですか?」


 その会話にセリアが割り込む。


「大平どの……すべては魔王アズマのせいだ。奴が我々から『魔導光貨』を奪わなければこんなことにはならなかった」


 彼女の声には、騎士としての誇りを踏みにじられた怒りが滲んでいた。


「そういう事だ。国は呪われ……俺たちも国王陛下もわんこにされちまったんだぜ。あの屈辱の借りは返す」


 アイオワは肩をすくめながらも、拳をぎゅっと握りしめる。


「わんこですか……僕も家にデコパチっていう犬を飼ってるからなぁ。ふふふ……ちょっと見たかったかも」


 場の空気が少しだけ和らいだ。シャルル王子とディアリーがクスクス笑う。


「アイオワ騎士団長のわんこ姿か、僕も見たかったですね」


「ハスキーでしたのよ」(ダメ・・全裸を思い出しちゃう)


「止めてくれ。思い出したくない悪夢なんだ」


 セリアも大いに頷く。


「ああ……あれはもう二度とごめんだ」


 そんな他愛もない会話を交わしながらも、彼らの足取りは着実に国境へと近づいていた。そう話すうちに、いよいよ国境を越える地点までやってきた一行。先頭のミランダが小休止を提案し、全員で焚火を囲む。ミランダは背負った背嚢からそれぞれに変装用のブツを取り出して手渡すのだった。彼女の動きには無駄がなく、いかにも熟練の諜報員という雰囲気が漂っている。


「えーと……これは何ですか?」


 手渡されたのはケモ耳のカチューシャと、ケモ尻尾付きのベルトだった。ミランダが狐耳と狐尻尾を装着しながら指示を出して行く。


「王国は今や『神聖ディスラリア帝国』として獣人の国と化しています。圧倒的に人間が少ないんです。と言う訳で、ここでみんな獣人に変装してもらいます」


「そうなんですか……じゃあ仕方ないですね」


 大平はライオン耳とライオン尻尾を装着する。それぞれが獣人姿になり、王都へ買い出しに行く田舎の農民風情で歩き出す。鏡代わりに水たまりの水面を覗き込んだ大平は、思わず苦笑した。まさか自分がライオン耳を付けて山道を歩く日が来るとは思わなかった。


「どこかで乗合馬車に乗るか、荷馬車を調達しましょう。関所破りをしてますから暫くは慎重に行きます」


「斥候役のミランダさん。頼もしいですね」


「ええ。彼女は優秀な諜報員ですから。予定では数日以内に王都へ潜入いたしますわ」


「僕に魔王とやらを倒せるかなぁ……」


 ふと漏れたその言葉には、ほんのわずかな迷いが混じっていた。


***


 国境を越えて暫くして、一行の前に凶暴な魔獣グリフォンが現れて空から襲い掛かって来る。この魔獣は帝国の放った国境警備役のようだった。かすかにテイムの魔力を感じるシャルル。アイオワがすかさず剣を抜き、セリアが聖盾を構える。パーティーの全員が瞬時に規律ある行動を取る。結成からここまでの数日で彼らはかなり連携が取れて来ていた。


 巨大な翼が空気を叩き、鋭い影が地面を走る。獣と猛禽が合わさったようなその姿は、まさに伝説級の魔獣だった。


「僕に任せてください」


 大平翔太が鋭い視線でグリフォンを睨みつける。そしてその右手から光り輝く光球を創り出す。この世界で自動的に得たMPと、レベルアップによる新スキルで、彼は光の女神の神聖魔法を発現していたのだ。大きく振りかぶり、魔獣の身体に向けて光球を投げる。その輝くボールは凄まじい速さで飛び、グリフォンの胴に命中。その衝撃で魔獣は空中から地面に降り立つ。


 手負いにはなったが、まだその闘志は失われていないようだ。金切り声を上げながらパーティーに向かって突進してくる。鋭い爪で襲い掛かるつもりだ。


「魔獣め……これで終わりと思うなよ」


 大平は今度は背嚢に仕込んだ収納魔法から一本のバットを取り出す。それはリミュエール王国の名工が造り上げたミスリル製の金属バットだ。大平のスイングならドラゴンの頭も粉砕するであろう光の聖バットだった。 金属が陽光を反射し、鈍く輝く。


 大平が再び右手に光球を創り出す。そしてそのボールをトスバッティングの要領で聖バットでジャストミート。光球ボールは投球の速度と破壊力をさらに上回り、魔獣の頭を目掛けて飛んでいく。


 ズガァーン!!!


 凄まじい爆音とともに、Aランクの魔獣グリフォンの頭部は跡形もなく消え去っていた。絶命した魔獣の身体は、まだ自分に何が起きたのかわからないまま数歩走り……やがてバタリと倒れ込む。地面に響くその音が、戦いの終わりを告げていた。


 通常の冒険者パーティーならSランクのメンバーが総がかりでやっと倒せるほどの強者。召喚勇者・大平翔太の強さに、王国最強と呼ばれたアイオワとセリアもただただ感心するしかなかった。同じくディアリーとシャルルも目を見張るばかりだ。


「大平様! お見事です!」


「凄いです。僕も魔獣討伐には参加したことはありますが、魔法の発動より遥かに速くこんな攻撃ができるだなんて!」


 大いに盛り上がる勇者パーティー。  ぴこーん! 経験値が入り大平のレベルがまた上昇する。魔王・吾妻良一郎の運命は如何に? そして大平翔太はWBCに間に合うのか?王都に春の嵐が吹き荒れようとしていた。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。


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