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第87話 討伐契約と勇者のステータス

 勇者召喚の儀式から三日が過ぎた。


 召喚された勇者、大平翔太は生粋のアスリート・世界最高峰のプロ野球選手だ。少年野球の時代から目標に向かって真っすぐ駆け抜けてきた。そんな彼は、まさか自分が異世界ファンタジーに巻き込まれるとは思ってもいなかった。ファンタジー世界も異世界ものも全く門外漢。だが持ち前の順応力と負けん気の強さは、異世界に来ても健在だった。戸惑いはあっても立ち止まる性格ではない。持ち前のバイタリティーで素早くこの世界に溶け込むのだった。


 とにかく早く地球に帰還しなくてはならなかった。所属するドヤーズのキャンプにも参加しないといけないし、万が一WBCに欠場となればチームにもファンにも申し訳が立たない。苛立ちながらも、大平は黙々とトレーニングを続けていた。王宮の庭の一角には、彼のために即席の練習場が用意されている。地面には石礫が散らばり、木の杭や藁束が並ぶ簡素なものだ。それでも大平は、汗を流しながら一つ一つの動作を確かめるように体を動かしていた。


***


 朝練を終えた大平に、ディアリーが声を掛ける。朝の光が王宮の庭を照らし、冷たい空気の中に大平の吐く白い息がゆっくりと溶けていく。


「大平様お疲れさまです。練習に精が出ますね」


「えーと、聖女さん。おはようございます。トレーニング機器もないし、トレーナーもいないんで、ストレスばかりですよ」


 肩で息をしながらも、その顔にはまだ余裕がある。さすがは世界トップクラスのアスリートだ。


「それは……本当に申し訳ございません。ステータスを拝見しても?」


「ええ、いいですよ」 (異世界すげぇ)


 そうだった……大平は異世界に来て初めて「ステータスウィンドウ」を見た。そこに表されているのは自分自身のレベルや能力値、そして数々の称号などだった。ディアリーは大平に手をかざし、彼のステータスを開示する。光の粒子のような魔法の文字が空中に浮かび上がり、数値が次々と表示されていく。その内容を見たディアリーの目が大きく見開かれた。そこには、この世界に召喚されたばかりにも関わらず、恐ろしいほどハイレベルな数値が並んでいた。


「すごいです……召喚三日だというのにもうレベルアップしてますわ。一体何をされたのです?」


 大平は頬をポリポリ掻きながら、あっけらかんと説明する。


「アイオワさんが用意してくれたモンスターに石礫を投げて倒したり、シャルル王子が放つ魔法弾を聖剣とやらで打ち返したりしてるだけなんですけどね」


 まるでキャッチボールの話でもするような軽い口調だった。


「そ……そうなんですか」 (勇者補正もあるのかしら?)


 ディアリーは内心で首をかしげる。普通の人間なら命がけの訓練のはずだ。


「意外とこの世界の魔法トレーニングが効果的でして。出来れば暫く鍛えてみたいところですが……とにかく早く帰らないといけないんです」


「わかってますわ。WBCでしたっけ? その開幕に間に合うよう作戦を決行するようです。それまでは無理はしないで下さいね」


「ありがとう聖女さん」


「回復の魔法を掛けます。じっとして、大平様」


「はい」 (これが一番凄いんだよな。疲れが吹き飛ぶし、手術した肘の調子がすこぶるいい)


 ディアリーの掌から柔らかな光が広がり、大平の体を包み込む。温かな感覚が筋肉の奥まで染み込み、さっきまでの疲労が嘘のように消えていく。


「はい! 回復終了です。いかがですか?」


「おおぉー、凄い。疲労が吹き飛びました。食事が終わったら特訓行ってきますよ」


「夕方また回復いたしますので」


「ありがとう聖女さん。……えーと、ブロッサムさんでしたっけ」


「(ドキドキ)はいっ……私の事はディアリーってお呼びください。勇者様の体調管理など任されておりますので」


 大平は子供っぽい顔ではにかむと、ディアリーに握手をして別れていく。その後ろ姿を見送る光の聖女。役目柄から勇者大平の側に仕える彼女だったが、地球でも世界中のファンを魅了するその笑顔に、メロメロになりつつあるのだった。


***


 その後、アストラリア王国臨時政府は勇者・大平翔太と魔王討伐契約を結ぶ。その内容は特異なモノとなった。本来なら金銭などを対価とするのだったが、異世界の通貨と地球の通貨では価値レートが良く分からないのも原因だった。何よりここにはマネージャーもエージェントもいない。大平は自分で考えて行動するしかなかった。


 会議室では王や重臣たちが真剣な表情で条件を詰めていく。だが大平の頭の中では、まったく別の計算が進んでいた。何を要求するのか?そこは稀代の天才アスリートである。彼は頭もよかった。異世界の事を素直に素早く柔軟に吸収した結果……報酬に選んだのは「回復薬」だった。


 異世界の魔法薬……その効果は素晴らしかった。聖女ディアリーの回復魔法は別格だったが、高純度の回復薬や治癒薬は地球の医療常識を超える効果を持つモノもある。大平は地球帰還後にその回復薬があれば、選手生命を伸ばすことも可能だと冷静に判断する。どんな大けがや不治の病からも、息があればほぼ蘇生可能な「エリクサー」をはじめ、ハイポーションからローポーションまで、小収納魔法ポーチに収まるだけの回復薬を報酬に、契約は成立した。


「エリクサーの一個だけでも、貴族であろうとなかなか入手困難な秘薬。地球には同じものは無いと聞く。勇者大平どの、頼みましたぞ」


 王の言葉には、王国の未来を託す重みが込められていた。


「契約成立ですね。僕もなかなかの好条件に満足してます。とにかく早く帰らないといけないんです。早急に討伐に行きましょう!」


 大平の声はいつもの試合前のように前向きだった。勇者の後ろに控えたアイオワが彼の肩をポンと叩く。


「大平よ。あんたを中心に勇者パーティーを組むぜ。既に人選は済ませてある。紹介しよう……まずは前衛アタッカーは俺だ」


 光り輝く聖盾を構え、聖鎧を纏ったセリアが続く。


「私は前衛のディフェンダーだ。この聖盾はあらゆる攻撃を跳ね返す」


 リミュエール王国の王子にして高位の魔導師であるシャルルが続く。


「後衛の魔法担当は私が。よろしくお願いします」


 そして光の聖女が潤んだ瞳で大平を見つめる。


「わたしが後衛で回復役を務めさせていただきます♡」


 最後に、ここまでずっと闇の勇者アズマを追ってきたエージェントが大平の前に跪く。


「アストラリア王国・元諜報騎士団のミランダです。このパーティの斥候役を務めます。よろしくお願いいたします」


 五人の視線が一斉に勇者へと向けられる。闇の女神の呪いに対抗する護符アミュレットは六つ。この六人が光の王国奪回の最後の切り札だった。


(うーん……魔王って僕と同じ日本人って聞いたけど……どんな奴なんだろ?)


 プロ野球選手としてこの世界で何が出来るのか?でも、早く帰らないとなぁ……イマイチ悩みは尽きない世界のスーパースターだった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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