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第85話 亡命政府と光の単発ガチャ

 革命の起きたその日から、王国に留まり帝国民となった人々は日が暮れたのち空を見上げる。そこにはオーロラのように輝く闇の女神ディスフィアの呪印があった。夜空いっぱいに広がるその紋様は、ゆらゆらと淡く揺らめき、まるで天そのものが巨大な魔法陣になったかのようにも見える。王都の屋根の上、城壁の上、街路の酒場の窓からも、その光ははっきりと確認できた。


 忌々しいはずのモノだったが、その呪印のおかげで国の安全が守られていることは、徐々に広く知れ渡り、平穏な暮らしの日々に感謝する者も出てきていた。マフィアや盗賊は消え、凶悪犯罪も激減した。誰もが無闇に殺意を抱けない世界は、皮肉にも平和をもたらしていたのである。


 また、ほぼすべての国民が獣人となり、その姿が見慣れてくると、逆に利点も感じる者も出始めた。獣人は概ね人間より「身体が丈夫」だった。病弱な人は健康に、健康な人は頑強になるのだ。身体能力や感覚も優れている。一度受け入れてしまえば意外とどうとでもなるモノで、街には活気が溢れ市場では尻尾を揺らしながら商売する獣人たちの声が響き、子供たちは獣耳をぴこぴこ動かしながら雪遊びに夢中になっている。かつての王国とは、どこか違う自由な空気が街に流れ始めていた。


 そして、皇帝アズマの善政はそれまで停滞・腐敗していた王国の患部を根本から断ち切る。当たり前のように思っていた理不尽が、実はそうではない事実も明かされた。大貴族や官僚や聖職者の不正は残らず処断され、国民は喝采を贈るのだった。町並みも変わっていく……スラムや貧乏長屋は解体され、立派な公営住宅に変わる。かつて暗い路地裏だった場所に新しい街灯が立ち、子供たちの笑い声が響く。帝国統治のもとで、貧しい人々でも希望を持って生きていける世界になりつつあった。 


***


 その一方で隣国リミュエール王国では、亡命したアストラリア王を中心に「臨時亡命政府」が樹立された。闇の呪印で獣人化したのを嫌って国境を越えた貴族や官僚・軍人が集い、リミュエール王の援助で王宮内でも執務室を与えられたのだった。慣れない異国の宮殿。だが壁にはアストラリア王国の紋章旗が掲げられ、部屋の空気だけは故国の威厳を保とうとしている。


 故国の奪回に燃える彼らに残された手札はそう多くなかった。大規模な軍事行動は、周辺国の軍事侵攻が早々に壊滅したことで不可能だと明らかだったからだ。帝国軍の強さは、すでに誰もが理解していた。 今日も作戦会議が行われる。執務室に集うアストラリアの残されし精鋭を見渡し、王が口を開く。


「全員揃ったな。これからの故国奪回・王土復活のために、引き続き諸君には尽力してもらいたい。よろしく頼むぞ」


 王の声は落ち着いていたが、その瞳の奥には決して消えない闘志が宿っている。


「もちろんです陛下。亡命から一週間……やっと全員が解呪されました。これからが本番です!」


「アズマの討伐は我ら王国騎士にお任せを。すぐにでも取って返して首を刎ねてやりますよ!」


 拳を握る騎士団長アイオワ。彼の背後では副団長たちも力強く頷く。


「ふぅー……あきれた男だ。まだ頭の中はハスキーか? 下手に動けばまたまた獣化されてしまうんだぞ」


 冷静に水を差したのはセリア聖堂騎士団長だった。


「アイオワ団長……やる気はわかりますが、勢いや根性じゃ勝てませんから。準備が大事です」


 一番最後に回されたが、ミランダも狐獣人から人間に解呪されていた。ミランダは魔法ホワイトボードに現状の問題を書き込んでいく。すらすらと書かれていく文字を、全員が真剣な顔で見つめていた。


「まずは王国全土を覆う闇の呪印です。これがある限りアズマ一行に下手に殺意を抱いたら、再びわんこ生活です」


「そうだったな……あの屈辱はもうたくさんだ」


 アイオワは思わず顔をしかめる。思い出すのはポメラニアンだった収容所生活に、バカ呼ばわりされた犬ぞりの日々だ。


「呪印がどうやって発動しているのか? それも全く見当がつきません。なので、王国に戻るには『呪い除け』の術式をしっかり施すか、アイテムを装備するか、何か対策が必要かと思います」


「その手配はどうなっている?」


「リミュエール王が宝物庫より魔除けのアイテムを貸し出しして下さいます。しかし個数には限りがあるでしょう」


 会議室に沈黙が落ちた。


「ならばやはり少数精鋭で潜入……アズマとダークエルフを打ち取るしかない!」


 再びアイオワが拳を叩きつける。ミランダが恐る恐る発言する。


「アイオワ団長……そこでです。勇者召喚を行いますか? どんな勇者が現れるか分からない賭けですが」


「勇者が戦力になるかは未知数。貴重な魔導光貨です。温存すれば向こう数年の活動資金にも、領地奪回の傭兵雇用資金にもなりましょう」


 宰相の現実的な提案に重臣たちは顔を見合わせた。


「悩むところだ……諸君の意見を聞きたい」


「陛下……私は勇者召喚には賛成です。光の女神は必ずや素晴らしい使徒を我らにもたらしてくれるはず」


 セリアの声は、静かだが確信に満ちていた。


「どうかな? 光の女神の加護も大して役に立ってないように見えるぜ」


「黙れバカ犬。我らが信仰を疑えば、それこそ闇の女神の思う壺だ。我らの揺るぎなき決意を形にするべき」


 セリアの言葉に勇気づけられたのか、やがてその場にいた大多数が賛成する。部屋の空気が少しずつ決意へと傾いていく。


「決まりだな……宰相……リミュエール王に伝えてくれ。近日勇者召喚を行いたい。光の聖女と宮廷魔導師をお借りしたいと」


「ははっ、直ちに!」


***


 数日後、リミュエール王宮内の大聖堂でいよいよ勇者召喚の儀式が行われる。高い天井から差し込む光が、荘厳な石造りの聖堂を照らしていた。両王国の国王や重臣、VIPが見守る中で、床に描かれた巨大な魔法陣に「魔導光貨」から大量の魔法エネルギー(マナ)が注がれていく。


 魔導光貨は一枚一枚が淡く輝き、魔力を放出していく。12個の魔導光貨から注入されたマナが魔法陣全てに行き渡り、その輝きがさらに増大していく。魔法陣の正面に跪く光の聖女ディアリー。聖堂の空気は緊張に包まれていた。誰もが固唾を飲んで見守っている。


「それではガチャを回します。えいっ!!」


 がちゃーん! ぴぴぴぴぴぴぴぴ……。


 魔法陣の光が急激に回転を始めた。まるで巨大なルーレットのように、光の粒がぐるぐると巡る。


 ぴぴぴ……ぴぴ……ぴ……ぴこーん!


 電子音にも似た効果音と共に光が止まった。そこから立ち込める真っ白な霧。その中から現れる人影。 ついに、異世界からの勇者が召喚されたのだった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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