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第81話 神聖ディスラリア帝国の誕生

 深夜……闇の呪印が巻き起こした目に見えぬ嵐は、翌朝の光と共にアストラリア王国を恐怖のズンドコに陥れた。いや……恐怖のどん底だ。王国民のほぼすべてが獣人化しており、その姿を鏡で見て卒倒した者が絶えなかった。しかし、不思議と死者はいない。時間が経過するにつれて王国全土が獣人化した事実に、人々はだんだん落ち着いてくる。


 ちなみに獣人化を免れたのは、奴隷に落とされて光の女神の加護を疑っていた者や、教団に不満を持つ一部の人々だった。朝の市場では、八百屋の親父が立派な熊獣人になって野菜を握り潰し、悲鳴を上げる。パン屋の娘は兎耳を揺らして泣きながら店を開けた。互いに驚き、怯え、しかし触れ合えば体温は同じだと気づく。そして死者がいないという事実が、じわじわと人々の理性を呼び戻していった。恐怖は混乱へ、混乱は現実認識へと変わっていく。


 王宮内のほぼ全ては獣人化、もしくは本物の犬になっている。国王も王族も全てワンワン鳴くばかりだ。王国の支配者として君臨していた大貴族もほとんどが犬化しており、一夜にして政治・経済・軍事など全ての分野は空洞化していた。


 その頃だった。王都の民は信じられないものを目にする。王都の大通りに現れた謎の軍団……闇の勇者アズマと、彼の率いる不死の軍団だった。重い足音が石畳を震わせる。骸骨の軍勢が整然と進む様は悪夢そのものだが、不思議と略奪も暴行もない。ただ規律だけがある。その異様な静けさが、かえって人々の心を締めつけた。


 僕は幽霊馬の極流死ゴルシに跨り、処刑騎士の姿で隊列の真ん中を行進する。イリスも一緒だ。前後にはノワールが操るスケルトン1000人が剣と盾を構えて警護してくれている。上空にはアシュレイがテイムした飛竜数頭が舞い飛ぶ。僕の後ろにはサラトガ伯爵がトラ子と美人獣人メイド達に守られ、馬車に乗って続く。王都に湧き出たこの軍団を遮るものは何もなかった。


 国民はこの謎の軍団を家の窓やドアの隙間から見るばかりだった。カーテンの隙間から覗く子供の瞳。震える母親の手。けれど誰も石を投げない。昨日までの支配者が犬になり、目の前の侵略者が秩序を保っている。この逆転劇に、民衆の価値観は追いついていなかった。


***


 王宮まであと少しという所で、馬上の僕に鋭い一矢が襲い掛かる。魔法で強化され的を外さないその暗殺の弓矢は、正確に僕の兜にヒットする。 カァーン!  っと音はしたが、僕の受けたダメージはストローをぶつけられた程度でしかない。闇の呪印の下では「闇の女神の加護」は何倍にも強力になっているらしい。


 一瞬だけ空気が凍る。スケルトン兵の槍が一斉に向きを変え、飛竜が旋回する。だが僕は肩を竦めただけだ。痛くない。正直ちょっとカッコいい音だった。僕を暗殺しようとした男は直ちにスケルトン兵に捕らえられ、引っ立てられてきた。元諜報騎士団員の「か」と名乗った男は、犬の獣人に変えられていた。


「もうー止めてくんない? 暗殺とか物騒だからさぁー」


 できるだけ軽く言う。ここで血を流せば、全部が台無しだと分かっているから。


「クソッ! 貴様がアズマか? 殺してやる!」


 牙を剥くその目には、恐怖と王国への忠誠が混ざっていた。昨日まで守る側だった誇りが、彼を突き動かしているのだろう。イリスが冷たい目で「か」を見下ろし、おもむろに呪いを発動する。


「ガチョーン……ですぅ」


 イリスの声音は甘いのに、放たれる闇は容赦がない。その落差に、周囲の空気がひやりと冷える。イリスのガチョーンを受けた男はその場でコーギーに獣化された。きょとんとするコーギー。僕は馬から降りて、わんこ化した男を抱き上げる。


「よーし…よしよし」 


 もふもふだ。さっきまで殺意満々だったのに、急に癒し枠である。


「お手! お代わり! 伏せ!」


 次々に命令していく。コーギーは素直に従う。周囲のスケルトン兵が無言で見守る光景は、なかなかにシュールだ。


「くっくっくっ……屈したね。お腹を出して服従のポーズをしたら、人間に戻してあげる。どうする?」


 選択肢は与える。それが僕なりのルールだ。コーギーは「キュウーン」と鳴きながら、その場にゴロンとしてお腹を見せた。イリスが再びガチョーンをすると、コーギーは『ぽん』と再び獣人の姿になる。


「これに懲りたら二度と僕らに牙を剥くんじゃないよ。わかった?」


 視線を合わせる。恐怖だけで縛れば、いつか反発する。理解させる方が、あとあと楽だ。


「くぅー……どうもすいませんでしたっ!」


 その場で深々と土下座する暗殺者だった男。そのやり取りを見ていた多くの王国民が思った。 (こいつ……なんか違う) (え? 結構優しくない?) (血祭りにならんでよかったのう―) 恐怖一色だった空気に、ほんの少しだけ別の色が混じる。支配か、統治か。その分岐点は、案外こういう場面で決まる。


***


 やがて僕らはアストラリア王国の王宮へ到達する。僕らの侵入を阻む者はみんな即座に獣化されていく。


「人間に戻りたい人は後で出頭してねー。服従のポーズをした人から戻してあげるから」


 軽い口調だが、条件は明確だ。秩序は必要だが、絶対服従だけでは息苦しい。僕はその線を探っている。そう言いつつもあちこちの場面で、イリスのガチョーンが炸裂していく。


 僕はわんわん王国と化していた王宮を無血占領し、国王以下の血気盛んなわんこ達をスケルトン兵に捕らえさせて、王宮の一角にある厩舎などに監禁するのだった。厩舎に並ぶ豪華な犬たち。昨日まで玉座に座っていた者が、今は藁の上だ。歴史の皮肉に、思わず苦笑したくなる。


「闇の女神に帰依した人から元に戻しますからねー。じゃないと一生わんこのままですから、しっかり考えて下さい~。ちなみにごはんも地球産のドッグフードですー」


 地味に効く一言だ。プライドと胃袋は、案外連動している。


 その時、アイオワだったハスキー犬がもの凄い勢いで飛び掛かって来る。僕の手に噛みつくアイオワ(ハスキー犬)。


 ガブッ! ガブガブガブガブガブッ!!!


「痛いー痛い痛い。なんだよこのバカ犬は!?」


 歯形はつくが、致命傷には程遠い。加護のありがたみを実感する瞬間だ。


「ワンワンワン!(てめぇーがアズマか! 絶対ぶち殺してやる!)」


 その目は本気だ。騎士の誇りは、姿が変わっても消えていない。僕はハスキー犬と睨みあう。まさかこの犬が王国最強の一角であり騎士団長だとは思ってもいない。


「うーん……こいつめちゃ敵意満々だ。イリスお願い!」


 イリスは軽く頷くと、ハスキー犬へガチョーンを放つ。


「ギャン!」


 闇の波動でハスキー犬は可愛らしいポメラニアンに……。キャンキャン鳴くが全く怖くない。むしろ可愛さ倍増だ。アズマ一行の空気がほんの少し和んだのは内緒である。


 こうして王宮を占拠した僕らは、サラトガ伯爵が呼び集めた良心的官僚の皆さんの協力の下……アストラリア王国改め「神聖ディスラリア帝国」として革命政府を立ち上げるのだった。国民への最初の布告は「旧王国法の当面の順守と保護」、そして「全国民の身分差別・種族差別の撤廃」だった。


 王都の広場で読み上げられたその布告は、怒号も歓声もなく受け止められた。ただ静かに、人々は自分の耳と尻尾を触りながら考える。昨日まで当然だった差別が、今日から違法になる。世界は一夜で裏返った。


 遂に僕は異世界でてっぺん獲りました! まあディスフィア様の呪いがほぼ全てでしたけどね……てへ。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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