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第78話 王国の焦燥と闇の蠢動(しゅんどう)

 翌日の国王の執務室。朝早くから宰相と教団大司祭、そして王国騎士団長と聖堂騎士団長の面々が面会にやって来る。顔面蒼白の宰相と大司祭、そしてうなだれている二人の騎士団長。朝の政務に取り掛かろうとしていた国王には、彼らの姿から報告の内容が只事でないことが察せられた。重厚な扉が閉まる音が、やけに大きく響く。室内の空気は張り詰め、誰もが言葉を選びあぐねているのが分かった。


「どうした? こんな早くからどんな事件が起きたというのだ?」


 努めて平静を装った声。しかし王の指先は机を軽く叩き、無意識の焦りを示していた。宰相は沈痛な面持ちで報告する。喉を一度鳴らし、覚悟を決めたように顔を上げた。


「陛下に緊急の報告を申し上げます。聖教会中央銀行の大金庫から『魔導光貨』全てが何者かに奪われました」


 その言葉は、室内の温度を一瞬で奪った。大司祭も苦悶の表情で声を絞り出す。長年信仰と共に守ってきた財が失われた現実に、唇が震えていた。


「そればかりか、、教団が長年に渡って集め蓄えていた財貨も全て持ち去られたのでございます」


 報告を聞いた国王は天を仰いだ。信仰と威信、その両方が踏みにじられた衝撃が胸を貫く。


「何という事だ……光の女神は我らを見捨て給うたのか!? 銀行のセキュリティはどうなっていたのだ? 騎士団の警備体制は?」


 怒声の裏にあるのは恐怖だった。王国の根幹を揺るがす事態だ。王国騎士団長ショージ・アイオワが顔を上げて報告する。悔しさを噛み殺しながらも、その目は軍人としての冷静さを保っていた。


「現場を先ほど確認してきました。犯人は我らの思いもよらぬ方法で盗み去ったようです。セキュリティは全て稼働していました。しかしその能力を著しく矮小化されていたのです。もし破壊や消去なら誰か気付くはず。しかし、やつらは低下した魔法探知能力を掻い潜って地下通路を掘っていました」


 聖堂騎士団長セリア・エンタープライズが怒りに震えながら発言を続ける。拳が白くなるほど握られている。


「おそらくデバフの魔法です。何重ものセキュリティは敢えて殺さず、その能力だけを低下させる。姑息ではありますが、完全にしてやられました」


 その事実は、力でねじ伏せられた以上に屈辱だった。アイオワの副官として随伴していたミランダが末席から発言を申請する。若いが、その瞳には理知の光が宿っている。


「よろしいでしょうか? あの大金庫内には誰にも語られていない秘密の罠がもう一つありました。それは『収納魔法殺し』です。金庫内の空間で収納魔法を使えば、上下左右前後の壁から神の雷が発動し、使用者を瞬殺する正真正銘最後の罠とも言える暗殺魔法……しかし発動しませんでした。幾つかの痕跡から高度に発達した道具を使用したみたいなのです。アズマは……信じがたい事ですが、我々の魔法文明の理外にいる気がします」


 理外。その一言が重く沈む。


「そんな男が闇の女神と手を組んで牙を剥いているのか!? 何が目的なのだ?」


 王の問いは苛立ちと焦燥が混じっていた。


「奴はダークエルフと一緒にいても、誰にも邪魔されず大手を振って生きていける国にしたいと言ったとか」


 理想か、狂気か。受け取り方次第の言葉だった。


「それは一体?」


「邪教で世界を覆い尽くすということだ。許し難し……直ちに抹殺せねば」


「そうなのか……俺がアズマの首を取るしかないか」


 臣下たちの焦りや憤りに俯きながら国王が声を絞り出す。その背に、王としての孤独が滲んでいた。


「それより勇者召喚への影響はどうなのだ? 『魔導光貨』はどれほど残っている?」


 最後の希望に縋るような問い。


「天井分……根こそぎやられました。運否天賦の召喚の儀式が一回行えるかどうかでございます」


 一度きり。失敗は許されない。


「止む無しだな。儀式の準備を急がせろ。どんな人物が来ようと、脇を固める我らが有能ならば問題はない。一刻の猶予もない……明日には召喚の儀式を行う。必ずアズマを抹殺せよ」


 王の決断に、室内の空気が引き締まる。


「「ははっ! 必ずや!」」


***


 その頃、地下大迷宮基地では闇の呪印発動の為の準備が着々と行われていた。緊迫とは無縁の、妙に明るい熱気が渦巻いている。地下神殿では例によって闇の女神の巫女に選ばれた美女・美少女たちによる神事が行われている。


「いいわね? 行くわよ!」


 先導役のイリスが手を掲げると、場の空気が一気に高揚する。


「「はい!」」


「みんなで乾杯!  祝杯上げるよ!  いいじゃない うんうん 気持ちが大事~♪」


(途中略)


「「超超超 ええ感じ 超超超超ええ感じ 超超超 ええ感じ 超超超超ええ感じ」」


 ノリノリの巫女たちの熱気に押され神殿中央に闇の女神が降臨する。空間がゆらりと歪み、甘美で妖しい神気が満ちた。


《ウォォー やるぜ~ レボリューション♪》


「キャアー! ディスフィア様~いらっしゃいませ~!」


 黄色い歓声が飛ぶ。


《ホホホホホ……皆の者……超超超超ええ感じじゃのう~》


「ディスフィア様! いよいよレボリューション(革命)の時が来ましたようー」


《お前たち……よくぞ聖教会中央銀行の大金庫をぶち破ったのうー。褒めて遣わすぞ! ……って良一郎はどこじゃ?》


 その名に、巫女たちがきょろきょろと見回す。


「あれ? アズマくーん……どこへ行ったのかしら?」


「サラトガ伯爵もいませんわね。イリスは知ってますの?」


「何も聞いてないですけどぉ」


《トラ子よ。臭いで追跡するのじゃ。二人を探してまいれ》


「はい! 了解しましたぁ」


 トラ子が巫女の列から離れ神殿の外に探しに行く。真剣な顔つきで鼻を利かせ、各階層で働く仲間たち(アズマ一行が保護した奴隷や孤児たち)に聞き込み、やっと探し出す。


 すると……二人は大金庫から盗んできた大量の金貨を6畳ほどの小部屋に敷き詰め、海パン一丁でその上をゴロゴロと転げまわっているのだった。黄金色の光が乱反射し、実に無駄に豪華な光景である。


「ヒャハハハハ。わーい! 金貨だー金貨だぁーお金持ちだぁ!」


 子供のように目を輝かせる僕。


「ガハハハハ。やったなーアズマくん。そーら金貨のシャワーだぞー」


 サラトガ伯爵が両手で目一杯の金貨をすくい上げ、僕の頭から金貨を落とす。硬貨同士が当たるたびチャリーンと澄んだ音が響く。


「痛い痛い痛い。お返しです! そーれそーれ!」


 僕も負けじと両手で掴んだ金貨をサラトガ伯爵にばら撒く。 チャリーンチャリーン!! 二人して本気で遊んでいるのだから救いがない。


「痛い重い痛い重い。ダハハハハ。夢にまで見た『金貨のプール』だ!目いっぱい楽しもうぜ!」


「はいっ! ストロングな缶チューハイもう一本飲みますか?」


 僕はチューハイ片手に金貨の上をゴロゴロと転げながら、サラトガ伯爵に近づいて缶を手渡す。場違いな幸福感に浸った、その時だった・・猛獣のような唸り声が耳に入って来る。背筋がひやりと冷える。


「がるるるるるー」


「はっ! トラ子さん?」


「え? 娘よ……どうしてここに!?」 振り返った瞬間、修羅の気配。


「二人とも何してるの?」 低い声。笑っていない目。


「いや……あの……これは!」


「なんというか……男のロマンだろ……金貨にまみれてみたいって」 必死の弁明。しかし説得力は皆無。


「……馬鹿みたい。それよりディスフィア様がお呼びなんだけど」 現実が突き刺さる。


「なんだって! すぐに参上しますって言っておいてようー」


「急ごうアズマくん。こんなことで貴重な時間を無駄にしちゃいかんと言ったはずだろ」


「ひどいですよぅー。金貨遊びしようって言ったのは山本先輩じゃないですかぁー」


「とにかく早く着替えなさぁーい!」


 トラ子に急かされ、神殿に向かう。廊下を駆けながら、胸の奥で小さく鼓動が早まる。いよいよ闇の呪印の発動する時が来たのか。 たぶん・・急げえー!

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。


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