第77話 地下大金庫の陥落
王都中心部……その地下では、残された壁一枚をぶち抜いて「地下大金庫」への侵入という快挙が為されようとしていた。地上では誰も知らない。いや、知っているのは僕らだけだ。聖教会の権威と財力の象徴、その心臓部に今まさに穴が穿たれようとしていることを。湿った土の匂いと汗の匂いが混じる地下空間。誰も弱音を吐かなかったのは、これが歴史を動かす革命の一歩だと理解していたからだ。
狙いをつけてから約二週間の間、とにかく魔法を使わず掘り進めた坑道。サラトガ伯爵のチートアイテム……地球の日用生活品をお取り寄せできるアイテムボックスで、様々な工具やグッズが手に入っていた。このアイテム……実は地味に進化しているらしい。というのもお取り寄せできるアイテムの質や内容が大幅にアップしているのだ。
転生の神様はそこいらの判定がガバガバなのか、今現在ではコー○ンPRO(職人さん専用ホームセンター)にある専門工具や資材までも手に入る。高性能のバッテリーや電動工具・計測機器・強靭で軽い素材など、こうして驚くほど工事は捗ったのだった。文明レベルの暴力。神秘を誇る世界に、現代日本の合理性が牙を剥く。
魔法で加工された石の壁に現代日本のスーパー工具が襲い掛かる。火花が散り、振動が坑道を震わせる。暫くして切れ目が穿たれたその壁に、うちの若き拳法家トラ子が必殺の体当たりをぶちかます。彼女は一度深呼吸し、地面を踏み締めた。
「鉄山靠!!」 バコォーン!!! ガラガラガラ。爆ぜる衝撃。粉塵が舞い上がる。
身長2Mにして全身が猛獣に匹敵する筋力、そして幼いころから学んだ暗黒拳(この世界の暗殺拳法みたいなの)を習得した彼女。その一撃で分厚い壁も崩れ落ちる。まさかこんな場所から侵入者が来ようとは予測してなかったのだろう。思ったより壁は薄かった。 崩れた先から、冷たい空気が流れ込んでくる。聖域の匂いだ。
その代わり金庫内には強力な魔法結界が張られている。金庫内に許可なく侵入する者を焼き殺す魔法の「熱線装置」だ。真っ暗な金庫内のあちこちから赤い光が明滅し、熱光線魔法が放たれる。まるで意思を持つかのような殺意の雨。しかし、その情報は既にノワールによって把握済だった。トラ子は全身を耐熱強化魔法でコーティングしている。焼ける空気の中で、彼女は笑った。
「えいっ! とうぅ! うりゃ!」
三十畳はあろうかという金庫内を素早く移動して装置ごと魔法陣をぶち壊していく。焦げた鉄の匂いが立ち込める。後に続くアシュレイとユリシアによって金庫内に明かりが灯る。人類の英知LED電灯だった。白い光が闇を裂き、聖教会の懐が露わになる。金庫の中はリアルな黄金金貨や宝石類、重要そうな証書で埋め尽くされていた。積み上がる富は、信仰という名で集められたものだ。アシュレイが金庫内を精査していく。冷静そのものの目だ。
「魔導光貨はどこかしら? ん? あれね!」
金庫の奥に積まれた宝箱を発見する。一見すると千両箱のよう見える。その時何かに気付いたユリシアが小声で警告を発する。彼女の視線は床と四隅を素早く走っていた。
「お待ちになって! 罠がありますわ」
「え? どこにあるの?」
「その宝箱……下手に動かすと、最悪のガードマンが動き出す仕掛けと見ました」
空気が一瞬張り詰める。アシュレイも目を凝らす……すると金庫室内の四隅に石の彫像が立っている。一見は美術品のように見えるが、その姿は禍々しいオーラを放っている。
「なるほど……ガーゴイルね。金庫内の財貨を持ち出そうとした瞬間に動き出して、犯人をこの室内で殲滅する罠よ」
「アシュレイ、どうしましょう?」
「トラ子ちゃんアレで彫像を処理してくれる?」
作戦は単純明快。力でねじ伏せられる前に、動けなくすればいい。
「オッケー! まかせて!」
トラ子はスケルトンから渡された工具箱から、超強力粘着テープと塗装用スプレーを取り出し、まだ動かない彫像をがんじがらめにグルグル巻き。そして念入りに眼鼻や口にスプレーをして瞬間接着剤も流し込む。 神聖な守護者の末路がホームセンター用品で止めを刺されるとは、誰が想像しただろう。
「じゃあみんな……作業開始!!」
アシュレイの静かな号令で金庫内の財宝が次々と運び出される。無駄のない動き。坑道には滑車が吊るされ、ロープが張られている。厚手のエコバックに入れられた金貨が簡易のベルトコンベアーで次々と運び出される。金貨が触れ合う乾いた音が、夜の地下に心地よく響いた。
そして、魔導光貨の入った宝箱をトラ子がひとつ持ち上げた瞬間……部屋の四隅で石の彫像だったガーゴイルが生きた守護者に変化して動き出す。
(ウギャアァー)←声にならない叫び
キラーマシーンとして戦うはずだった大金庫の守護者は声も出せず、身体も動かせずその場で芋虫のように転がるだけだった。合掌。金庫破りチームは、誰にも気付かれることなく夜明けまでに聖教会中央銀行の大金庫を文字通り空っぽにして去って行った。
***
その頃、地上では鞍馬天狗が大暴れしていた。夜風を裂き、闇の中を駆ける影。僕とイリスは極流死の機動力を駆使して、王都の各地で騒ぎを起こしていた。しかし捕まらないのだ。追う側の焦燥が伝わってくる。ノワールが操る不死の手下たちが街のあちこちで目を光らせ、騎士団や警護の兵士の動向を見張り、先手を打って僕らを誘導する。街の商業区や倉庫街には隠れる場所もあり、この鬼ごっこは僕らの圧勝だった。まるで盤上遊戯だ。
金庫が破られ財宝が運び出される頃……王都の繁華街でも新たな事件が起きる。多くの人々で賑わうその街に、裏路地やマンホール、または屋根の上から次々とスケルトンが現れる。フラッシュモブ作戦だ。光の聖王国では見られない不死の怪物に国民はパニックに陥った。悲鳴を上げて逃げ出す人々。しかし、湧き出てきた骸骨たちは特に害をなすことは無かった。大通りを歌い踊りながら闊歩するだけだ。滑稽で不気味な光景。だが、怪物が現れたからには、騎士団は出動しないわけにはいかない。王国騎士団と聖堂騎士団の精鋭部隊が駆け付けたときには、既に骸骨たちは姿を消していた。 すべては時間稼ぎ。完璧な陽動だった。
翌朝、銀行の大金庫には一枚の紙が残されていた。 『雲切仁左衛門参上』 漢字でそう墨書された半紙は挑発か、宣戦布告か? 取り返しのつかない被害だった。勇者召喚の為に全力で取り組んできたアストラリア王国にかつてない衝撃が走る。
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