第71話 予期せぬ弾道・・そして決着
王都郊外の野外演習場。 朝靄の名残がまだ薄く漂う中、早朝から続いていた諜報騎士団との対決は、ほぼ決着がついたかのように思えた。団長のイノカワはハリアー戦闘機から脱出したものの、体勢不十分なまま地面に激突したようだ。鈍い衝撃音とともに舞い上がった土煙を、僕は確かに見ている。おそらく助かってはいないだろう。
僕は馬首を翻して、サラトガ伯爵らが捕らわれていた磔台へと向かう。敵の本陣だったその場所は、すでに僕の仲間たちが制圧していた。焦げた地面と崩れた柵が、ついさきほどまでの激戦を物語っている。 イノカワ一族の最終兵器だった「74式戦車」と「ハリアー戦闘機」を破壊した僕らに、さすがの諜報騎士団精鋭も腰砕けになったらしい。僕の仲間達によって、ある者は蹴散らされ、またある者は武器を捨てて降伏し、次々と拘束されていた。緊張で張り詰めていた空気が、わずかに緩み始めている。
サラトガ伯爵と獣人メイドたちが次々と解放される。拘束具が外れるたびに、安堵の息があちこちから漏れた。僕は途中でユリシアも拾って、みんなの元へ駆け寄った。
「みんな! 無事だったかい?」
度重なるミサイル攻撃で、僕の身体は泥や爆炎で薄汚れている。焦げた匂いが自分でも分かるほどだ。だが、そんな汚れも気にせず、イリスとトラ子が勢いよく抱きついてくる。
「ご主人様~! ご無事で何よりですぅー」
「良ちゃん! ありがとうー、パパも無事だよ」
「アズマくん……よくやってくれた。解放してくれたことに礼を言うよ。あと諜報騎士団は法務省としても目の上のたんこぶだった。奴らに握りつぶされた不正や犯罪も多数でな」
疲労の色を滲ませながらも、サラトガ伯爵ははっきりとそう言った。
「これでこの国も少しは良くなりますかね?」
「どうだろうか? 王国騎士団や教会も闇深いからな」
理想と現実の温度差が、ほんの少しだけ胸に刺さる。
「とりあえず今は逃げましょう。これだけ派手にやったら、正規軍とか来るんじゃないですか?」
「それがいいだろう。ぐずぐずしてたらヤバイのがやって来るぞ」
「よし! みんな撤収だぁー」
僕が掛け声をかけた、その時だった。 背後から、聞き覚えのある男の声が鋭く響く。
「貴様ら全員手を上げろ!」
振り向いた先に立っていたのは、無傷のイノカワだった。その手には64式小銃が握られている。土埃を払い落としながら、口元には薄い笑み。
「ハハッ……死んだと思ったか? 俺は土魔法の使い手だ。地面をクッションにするくらい造作もない」
僕とサラトガ伯爵が血相を変えて身をよじる。だがユリシアやトラ子たちは、小銃の威力を知らない。空気の重さがまるで違う。こちらだけが、冷たい汗をかいている。
「良ちゃん? アレなに? ぶん殴ってきていい?」
「ちょっと待ってトラ子ちゃん。あれは異世界の武器みたい。相当強いのかしら?」
アシュレイが、イノカワと僕の様子を見比べながら冷静に分析する。
「アシュレイか……久しぶりだな。王国の名門魔導師一族が闇落ちとはお前らしい」
「本当にお久しぶり。ここは見逃してあげる。その武器を仕舞って逃げたらね」
「ふざけるな! 王国を裏切ったお前もアズマと一緒に地獄へ送ってやる」
「アシュレイさん……イノカワとはどういう関係で?」
「彼は魔法学園時代の先輩……そして昔の恋人よ」
「ええぇー、そうなんですか?」
「おい! 昔の嫌な思い出をほじくり返すな。ううっ……思い出したくもない」
「ねぇーねぇー何があったんですか?」
アシュレイは頬を染めながら呟く。 「いい雰囲気になって一夜を共に……」
「例によって、力づくで犯したんですね?」
「やん♡ 皆まで言わないの」
「くっ……貴様が男だったせいで……俺は大人の美女が怖くなったんだ。未だに結婚できないのも……お前のせいだ。死ね!」
銃口がアシュレイに向けられ、引き金が引かれる。
「止めろ!」 僕は咄嗟にアシュレイを突き飛ばす。
ダァーン! 64式小銃から放たれた弾丸は僕へ……当たらなかった。
ドシュ!
「え? ぐはぁーなんで俺に?」
全然離れていたサラトガ伯爵の足を打ち抜く。乾いた破裂音と共に、伯爵が地面に崩れ落ち、のたうち回る。
「いやぁーパパ~死なないで~」
「くそっ! 外れたか! 今度こそアシュレイよ……死ね!」
ダァーン! イノカワの狙いすませた弾丸が、アシュレイを襲う……ことはなかった。
ドシュ!
「ええぇ? がはっ……」
撃たれた弾丸は僕の胸から闇の甲冑を貫通し、身体の中で弾けた。一瞬、何が起きたのか分からない。音も景色も遠のき、息が出来ない。口や傷口から血が噴き出す。
「ああぁーご主人様~死なないでぇ~」
「どうしてこの距離で……標的を外すんだ……ガクッ」
予期せぬ弾丸で僕は大量の血を吐きながら絶命した。僕が最後に見たのはイノカワの「信じられないものを見てしまった」という驚きの顔だった。吾妻良一郎死亡。享年17歳くらい。
「すまん……射撃の腕がイマイチで。まあ結果オーライだ」
***
演習場に衝撃が走った。絶命した僕を抱きながら、イリスが絶叫する。
「ああぁーご主人様~! 許せないイノカワ!」 イリスの紅い瞳が復讐に燃え上がる。
その時だった。イリスより早くイノカワに向かう一人の影。両手の指先から鋭い爪を長く伸ばしたノワールだった。黒い残像を引くような速度。瞬時に自分の目の前に現れたノワールを見て、イノカワは凍り付く。
「『わ』じゃないか!? アズマに殺されたんじゃなかったのか?」
「ええ……そうよ。一度は灰にされた……でも蘇ったのよ。マスター・アズマの血でね!」
ダァーン! ダァーン! ダァーン!
再び小銃が火を噴く。しかし不死の王に進化しているノワールは物理攻撃無効の頑丈さだ。銃弾は虚しく弾かれる……と思いきや、弾丸は少し離れた場所で拘束されていた部下「さ」「た」「な」にヒット!
「いたぁー!」「うぉおー」「ぎゃあー」 致命傷にならない絶妙の着弾だ。
「あっ……すまん……くそー、なんで当たらないんだ?」
「チートアイテムに頼ってばかりで、自己研鑽とかしてこなかったからですよ。マスターの敵討ちです」
冷酷な声でノワールが宣言し、吸魂の爪がイノカワの脳と心臓を同時に貫く。
「え??」
諜報騎士団長として絶大な権力を握った男は、自分の身体に何が起こったか分からないまま、その人生の幕を閉じた。その両手から、転生者の孫に伝えられた最後のチートアイテム、64式小銃がゴトンと地面に転がる。
「馬鹿な男……生きていたいならさっさと逃げればよかったのに」
「イノカワ先輩らしいわね。自分の力じゃない、受け継いだアイテムを嵩にずっとイキってた。それよりアズマくんは!?」
僕の死体を前に、イリスが蘇生の儀式を行おうとしていた。空気がぴりつく。ユリシアが心配そうに寄り添う。
「イリス!蘇生は大丈夫ですの? 血肉が足りないのでは?」
「はい……何か適当に……イノカワの死体を使います?」
「いやぁーそれだけは止めて。マスターがロリコンになっちゃうー」
それを聞いてトラ子が猛ダッシュで走り出す。
「飛竜の死骸がまだ新鮮なはずだからー。トラ子が取って来るー!」
「トラ子さんお願いします! ご主人様~すぐに蘇生しますから、しっかり生き返って下さいようー」
……返事がない、ただの屍のようだ。 そんなベタな小ネタを挟みながら、僕は蘇生された。
***
はっ! と気がつくと、僕はトラ子の爆乳の谷間に顔を埋めていた。
「えーん……怖い夢を見たんだ。イノカワの撃った銃弾が、全然狙われてない僕に当たるんだ」
「良ちゃん! よかったー生き返ったぁー」
「えーと……やっぱり死んでた?」
「よかったですぅー。最後に殺されちゃいましたが、無事に諜報騎士団をぶっ潰しましたようー」
「ハハハ……そうか……僕以外はみんな大丈夫だった?」
「どうにかね。けが人はイリスと私で治療したわ」
――こうして僕らはイノカワを倒し、全ての人質を解放したのだった。朝日はすでに高く昇り、戦いの跡を容赦なく照らしている。予期せぬ弾道がもたらした結末は、僕らに勝利と、そして一度の死を残したのだった。
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