表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/108

第71話 予期せぬ弾道・・そして決着

 王都郊外の野外演習場。 朝靄の名残がまだ薄く漂う中、早朝から続いていた諜報騎士団との対決は、ほぼ決着がついたかのように思えた。団長のイノカワはハリアー戦闘機から脱出したものの、体勢不十分なまま地面に激突したようだ。鈍い衝撃音とともに舞い上がった土煙を、僕は確かに見ている。おそらく助かってはいないだろう。


 僕は馬首を翻して、サラトガ伯爵らが捕らわれていた磔台へと向かう。敵の本陣だったその場所は、すでに僕の仲間たちが制圧していた。焦げた地面と崩れた柵が、ついさきほどまでの激戦を物語っている。 イノカワ一族の最終兵器だった「74式戦車」と「ハリアー戦闘機」を破壊した僕らに、さすがの諜報騎士団精鋭も腰砕けになったらしい。僕の仲間達によって、ある者は蹴散らされ、またある者は武器を捨てて降伏し、次々と拘束されていた。緊張で張り詰めていた空気が、わずかに緩み始めている。


 サラトガ伯爵と獣人メイドたちが次々と解放される。拘束具が外れるたびに、安堵の息があちこちから漏れた。僕は途中でユリシアも拾って、みんなの元へ駆け寄った。


「みんな! 無事だったかい?」


 度重なるミサイル攻撃で、僕の身体は泥や爆炎で薄汚れている。焦げた匂いが自分でも分かるほどだ。だが、そんな汚れも気にせず、イリスとトラ子が勢いよく抱きついてくる。


「ご主人様~! ご無事で何よりですぅー」


「良ちゃん! ありがとうー、パパも無事だよ」


「アズマくん……よくやってくれた。解放してくれたことに礼を言うよ。あと諜報騎士団は法務省としても目の上のたんこぶだった。奴らに握りつぶされた不正や犯罪も多数でな」


 疲労の色を滲ませながらも、サラトガ伯爵ははっきりとそう言った。


「これでこの国も少しは良くなりますかね?」


「どうだろうか? 王国騎士団や教会も闇深いからな」


 理想と現実の温度差が、ほんの少しだけ胸に刺さる。


「とりあえず今は逃げましょう。これだけ派手にやったら、正規軍とか来るんじゃないですか?」


「それがいいだろう。ぐずぐずしてたらヤバイのがやって来るぞ」


「よし! みんな撤収だぁー」


 僕が掛け声をかけた、その時だった。 背後から、聞き覚えのある男の声が鋭く響く。


「貴様ら全員手を上げろ!」


 振り向いた先に立っていたのは、無傷のイノカワだった。その手には64式小銃が握られている。土埃を払い落としながら、口元には薄い笑み。


「ハハッ……死んだと思ったか? 俺は土魔法の使い手だ。地面をクッションにするくらい造作もない」


 僕とサラトガ伯爵が血相を変えて身をよじる。だがユリシアやトラ子たちは、小銃の威力を知らない。空気の重さがまるで違う。こちらだけが、冷たい汗をかいている。


「良ちゃん? アレなに? ぶん殴ってきていい?」


「ちょっと待ってトラ子ちゃん。あれは異世界の武器みたい。相当強いのかしら?」


 アシュレイが、イノカワと僕の様子を見比べながら冷静に分析する。


「アシュレイか……久しぶりだな。王国の名門魔導師一族が闇落ちとはお前らしい」


「本当にお久しぶり。ここは見逃してあげる。その武器を仕舞って逃げたらね」


「ふざけるな! 王国を裏切ったお前もアズマと一緒に地獄へ送ってやる」


「アシュレイさん……イノカワとはどういう関係で?」


「彼は魔法学園時代の先輩……そして昔の恋人よ」


「ええぇー、そうなんですか?」


「おい! 昔の嫌な思い出をほじくり返すな。ううっ……思い出したくもない」


「ねぇーねぇー何があったんですか?」


 アシュレイは頬を染めながら呟く。 「いい雰囲気になって一夜を共に……」


「例によって、力づくで犯したんですね?」


「やん♡ 皆まで言わないの」


「くっ……貴様が男だったせいで……俺は大人の美女が怖くなったんだ。未だに結婚できないのも……お前のせいだ。死ね!」


 銃口がアシュレイに向けられ、引き金が引かれる。


「止めろ!」 僕は咄嗟にアシュレイを突き飛ばす。


 ダァーン! 64式小銃から放たれた弾丸は僕へ……当たらなかった。


 ドシュ!


「え? ぐはぁーなんで俺に?」


 全然離れていたサラトガ伯爵の足を打ち抜く。乾いた破裂音と共に、伯爵が地面に崩れ落ち、のたうち回る。


「いやぁーパパ~死なないで~」


「くそっ! 外れたか! 今度こそアシュレイよ……死ね!」


 ダァーン! イノカワの狙いすませた弾丸が、アシュレイを襲う……ことはなかった。


 ドシュ!


「ええぇ? がはっ……」


 撃たれた弾丸は僕の胸から闇の甲冑を貫通し、身体の中で弾けた。一瞬、何が起きたのか分からない。音も景色も遠のき、息が出来ない。口や傷口から血が噴き出す。


「ああぁーご主人様~死なないでぇ~」


「どうしてこの距離で……標的を外すんだ……ガクッ」


 予期せぬ弾丸で僕は大量の血を吐きながら絶命した。僕が最後に見たのはイノカワの「信じられないものを見てしまった」という驚きの顔だった。吾妻良一郎死亡。享年17歳くらい。


「すまん……射撃の腕がイマイチで。まあ結果オーライだ」


***


 演習場に衝撃が走った。絶命した僕を抱きながら、イリスが絶叫する。


「ああぁーご主人様~! 許せないイノカワ!」 イリスの紅い瞳が復讐に燃え上がる。


 その時だった。イリスより早くイノカワに向かう一人の影。両手の指先から鋭い爪を長く伸ばしたノワールだった。黒い残像を引くような速度。瞬時に自分の目の前に現れたノワールを見て、イノカワは凍り付く。


「『わ』じゃないか!? アズマに殺されたんじゃなかったのか?」


「ええ……そうよ。一度は灰にされた……でも蘇ったのよ。マスター・アズマの血でね!」


 ダァーン!  ダァーン!  ダァーン!


 再び小銃が火を噴く。しかし不死の王に進化しているノワールは物理攻撃無効の頑丈さだ。銃弾は虚しく弾かれる……と思いきや、弾丸は少し離れた場所で拘束されていた部下「さ」「た」「な」にヒット!


「いたぁー!」「うぉおー」「ぎゃあー」 致命傷にならない絶妙の着弾だ。


「あっ……すまん……くそー、なんで当たらないんだ?」


「チートアイテムに頼ってばかりで、自己研鑽とかしてこなかったからですよ。マスターの敵討ちです」


 冷酷な声でノワールが宣言し、吸魂の爪がイノカワの脳と心臓を同時に貫く。


「え??」


 諜報騎士団長として絶大な権力を握った男は、自分の身体に何が起こったか分からないまま、その人生の幕を閉じた。その両手から、転生者の孫に伝えられた最後のチートアイテム、64式小銃がゴトンと地面に転がる。


「馬鹿な男……生きていたいならさっさと逃げればよかったのに」


「イノカワ先輩らしいわね。自分の力じゃない、受け継いだアイテムを嵩にずっとイキってた。それよりアズマくんは!?」


 僕の死体を前に、イリスが蘇生の儀式を行おうとしていた。空気がぴりつく。ユリシアが心配そうに寄り添う。


「イリス!蘇生は大丈夫ですの? 血肉が足りないのでは?」


「はい……何か適当に……イノカワの死体を使います?」


「いやぁーそれだけは止めて。マスターがロリコンになっちゃうー」


 それを聞いてトラ子が猛ダッシュで走り出す。


飛竜ワイバーンの死骸がまだ新鮮なはずだからー。トラ子が取って来るー!」


「トラ子さんお願いします! ご主人様~すぐに蘇生しますから、しっかり生き返って下さいようー」


 ……返事がない、ただの屍のようだ。 そんなベタな小ネタを挟みながら、僕は蘇生された。


***


 はっ! と気がつくと、僕はトラ子の爆乳の谷間に顔を埋めていた。


「えーん……怖い夢を見たんだ。イノカワの撃った銃弾が、全然狙われてない僕に当たるんだ」


「良ちゃん! よかったー生き返ったぁー」


「えーと……やっぱり死んでた?」


「よかったですぅー。最後に殺されちゃいましたが、無事に諜報騎士団をぶっ潰しましたようー」


「ハハハ……そうか……僕以外はみんな大丈夫だった?」


「どうにかね。けが人はイリスと私で治療したわ」


 ――こうして僕らはイノカワを倒し、全ての人質を解放したのだった。朝日はすでに高く昇り、戦いの跡を容赦なく照らしている。予期せぬ弾道がもたらした結末は、僕らに勝利と、そして一度の死を残したのだった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。


もし「面白い!」と思っていただけたら、評価(☆)をぽちっと押していただけると励みになります。

星は何個でも構いません!(むしろ盛ってもらえると作者が元気になります)


そして、何らかのアクション&ひとこと感想(一行でOKです)をいただければ幸いです。

特に感想はめっちゃ元気になりますw 


よろしければ、ブックマーク登録もお願いします。

更新時に通知が届くので、続きもすぐ追えます!


今後の展開にもどうぞご期待ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ