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第70話 英雄、最後の遺産

 遠目には小山に見えたそれは、掩体壕えんたいごうだった。 開け放たれた扉の向こうから、一機の戦闘機が滑り出てくる。米軍岩国基地の航空祭へ何度か行ったことのある少年・吾妻良一郎は、その姿を一目見て慄いた。


 ホーカー・シドレー・ハリアーだった。垂直離着陸が可能なジェット戦闘機だ。操縦席には74式戦車を破壊され、復讐に燃えるヒデオ・イノカワの姿があった。低く唸るエンジン音が、空気そのものを震わせる。


「おいおい……まずいぞ。ノワールの回想にはアレはなかった。全然対策してないんですけどー」


 完全に想定外だ。


「ご主人様! どうします?」


 イリスの声には露骨な不安が滲む。


「奴の狙いは僕だ。とりあえず極流死ゴルシと逃げながら対策を考えるよ。イリスはトラ子達と合流して! 安全な場所まで逃げるんだ」


 自分でも分かる。声がわずかに上ずっている。


「ご主人様! それでは本当にまた死んじゃいますようー」


 涙声。縋るような目。


「死んだときはなんとか頼むよ」


 軽口のつもりだったが、冗談になっていない。


 僕は愛馬からイリスを降ろし、離陸しつつあるハリアーに向かって駆け出す。その頃、ハリアー戦闘機の操縦席ではイノカワが魔力探知を起動していた。機内に冷たい計器の光が走る。


「やはりか……上空に謎の魔力反応。奴らが俺の74式を破壊した元凶……アズマの前に始末してやる」


 憎悪が、その声を鋭くする。


 ハリアーが短い滑走距離で飛翔していく。僕はその姿を見送ることしかできなかった。戦闘機はぐんぐん速度を増し、上昇していく。その速度はこの異世界ではありえない速さだ。あっという間にアシュレイが駆る飛竜を追い越し、遥か上空に達するハリアー。


 高速で旋回しながら、アシュレイとユリシアが乗る飛竜をレーダーで確認する。いかに巨大で飛行に長けた魔物であっても、飛竜ワイバーンは所詮は生物。二人が風の魔法で飛竜を押し上げたり、進行方向へ加速させたりすることで、小型エンジン付きのグライダーくらいにはなっている。だが、ジェットには及ばない。


 獲物をロックオンしたハリアーが飛竜に襲い掛かる。飛竜の背でその物体を見ていた二人は、ただならぬ気配を感じて急降下を命じたが、時すでに遅しだった。ハリアーから30mm機銃が撃ち込まれる。


 バババババ!!! 空が裂ける。


 とっさに物理防御魔法を展開した二人だったが、その威力の前にはなすすべもない。飛竜は一瞬で翼を折られ、空中に投げ出される二人。銃弾が直撃しなかったのが不幸中の幸いだ。アシュレイとユリシアはそれぞれ自由落下していく。 重力が、容赦なく引きずり下ろす。


「いやぁーなんなのよーあれは?」


「あああぁー駄目ですわ。落ちるぅー」


 上空の邪魔者を始末したイノカワは、落下していく人影を顧みることなく、今度は地上に目を向ける。


「くっくっくっ……アズマよ。貴様の姑息な攻撃には負けん! このハリアーで今度こそ息の根を止めてやる」


 ゆっくりと降下して騎乗する僕に狙いを定めるハリアー。翼の下に吊り下げられたロケットランチャーから空対地ミサイルが発射される。次々と襲い掛かるミサイル。ただし、精密な攻撃ではなくバラバラとミサイルをばら撒く感じだ。僕と極流死はG1レースをぶっちぎりで勝つくらいの速さと、トリッキーな動きでミサイルを避けていく。

 

「凄いぞ極流死!」


「ヒヒィーン!」(俺っちだって死にたくないんだよー!)


 とはいえ高火力の攻撃に、じわじわと忍び寄る死の恐怖。


「ああぁーダメダメダメ……死ぬって!」


 すぐにやられるかと思った僕だったが、意外とミサイルは当たらない。それもそうか……イノカワはハリアーの操縦に熟練している訳ではない?異世界で高度なメカのジェット戦闘機など、そうそう飛ばせられるものではないのか。ホバリングもなにかぎこちない。付け入るスキはまだある。


***


 その頃、ハリアーに撃墜された二人は、僕の用意した簡易パラシュートで降下速度を落とし、風魔法などを使ってどうにか着地に成功していた。荒い着地で土煙が舞い上がる。衝撃で膝が軋み、呼吸が乱れる。奇跡的と言っていい生還だった。


「アシュレイ! ご覧あそばせ。あの空飛ぶアイテムが良一郎様を追いかけてますわ」


「ユリシア!なんとか援護できない?」 


「はぁはぁはぁ……あん~もう限界ですわ~これ以上撃ったら口では言えない状態になります♡」


 肩で息をする、メロメロのお嬢様。


「ああぁーめんどくさいわねー。私が何かその辺の魔獣でもテイムして加勢してくるから!」


 蕩けたユリシアを蹴り飛ばし、アシュレイが駆け出す。


「脚力強化! 加速!」


 地面を蹴るたびに土が弾け、身体能力が常人の域を超えていく。


 僕は近づいてくるアシュレイを見つける。迫る爆炎の閃光の中、その姿が頼もしく映った。


「アシュレイさん! 掴まって!」


 すれ違いざまに手を伸ばし、彼女を馬上にすくい上げる。極流死が体勢を崩さぬよう、絶妙なバランスで疾走する。


「ご無事でしたか?」


「ええ、どうにかパラシュートのおかげでね。それよりあの武器は?」


「僕の世界の戦闘機です。普通に戦ったら74式戦車以上に手強い相手です」


「勝てる見込みはあるのかしら? アズマくんの姑息な作戦はどうなのよ?」


「半分諦めてましたが、アシュレイさんが来てくれたので勝つ算段が出来ました」


 恐怖の奥で、計算がようやく噛み合う。 シュルルルー。 ドカァーン!! 僕らが会話する間にもミサイルが飛んで来る。背後で爆炎が弾け、衝撃波が背中を叩いた。


「……と言う訳です! テイムお願いします!」


「了解したわ。ちょっと可哀想だけど仕方ない」


 アシュレイの瞳が妖しく輝く。魔力が森へと波紋のように広がっていく。


「テイム! そして……行きなさい! みんな!」


 その声は命令であり、祈りでもあった。


***


 僕らの後ろを、ホバリングしながら追いかけるハリアー。そこへ、森の奥から大量の鳥が飛来してくる。空を埋める無数の鳥たち。まるで黒い波のようにうねりながら、いっせいに空へと噴き上がる。羽ばたきの音が重なり合い、不気味なざわめきとなって空間を満たした。そのうちの十数羽が、ハリアー戦闘機の前面にある空気取り入れ口へ吸い込まれる。高速回転するジェットエンジンへ、小さな命が次々と飲み込まれていく。


 ガガガガガ……。金属が軋む異音が響き、規則正しかった推進音が不協和音へと変わる。ペガサスエンジンが推進力を失う。バードストライク……地球でもしばしば航空機を墜落させる不幸な事故。風防に衝突した鳥はその死骸で操縦士イノカワの視界も奪う。前面が赤黒く染まり、計器の警告灯が次々と点滅する。突然の出来事にパニックになるイノカワ。握った操縦桿がわずかに震えた。


「なんだと!? こんなに大量の鳥が集まるなど……」


 計器は既に、ハリアー戦闘機が操縦不能に陥っていることを警告する。緊急脱出用のレバーを引くしかなかった。激しい振動の中、覚悟と焦燥が入り混じる。座席が射出され、中途半端な高度から半開きのパラシュートで地上に叩き落とされるイノカワ。 不完全に開いた傘が空中で揺れ、彼の身体は制御不能のまま落下していく。戦闘機は推力を失い機首から地面に突っ込み……轟音と共に四散するのだった。爆炎と衝撃波が演習場を震わせる。イノカワ一族の“英雄の遺産”は、黒煙と炎の中で無残に砕け散った。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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