第69話 超音速の制裁
夜明けの演習場に、74式戦車の爆音が響き渡る。 低く腹に響くその音は、獣の咆哮というより、鋼鉄そのものが唸っているかのようだった。その姿は紛うことなき、かつての陸上自衛隊の主力戦車。その動きは、完璧に訓練されたそれだった。異世界の大地を踏みしめながらも、迷いも躊躇もない。
幽霊馬に乗って逃げる僕らに、巨大な砲塔を滑らかに旋回させ、照準を合わせてくる。逃げているはずなのに、常に視線を感じる。下手に74式戦車の前に行こうものなら、7.62mmの機銃から容赦なく弾丸が発射される。
「いやいやいや……機銃の銃弾だけでも死ぬって……いやだぁー死にたくないようー」
喉から絞り出した悲鳴は、自分でも情けないと思うほど震えていた。
「ご主人様~ふぁいと!」 背中越しに聞こえるイリスの声だけが、かろうじて意識を繋ぎ止めてくれる。
74式戦車の最高速度は時速約50キロ。ダッシュも凄い。重戦車とは思えないほどの加速で、距離がみるみる詰まっていく。たちまち追いつかれるかという所で、僕の愛馬が爆走を始める。「極流死」(ゴルシ)と名付けた幽霊馬は、サラブレッドのG1ホース並みの速さでぶっちぎりにかかる。アンデッドなので疲れも知らず……そして実体もあやふやな極流死は空中をも走れるのだ。あり得ない角度で曲がり、時に軽々と立木を飛び越える。地面を蹴るたび、現実感が薄れていく。さすがの74式戦車もなかなか捉えられない。
態勢を整えたとき、イリスが闇の攻撃魔法で戦車の履帯を狙う。だが――対魔法防御が施されているのか、全く効果がない。
「ご主人様!こっちの攻撃が全然効きませんようー」 嫌な予感が、背筋を冷たくなぞった。
その時だった。 ズドーン!!
105mmの主砲弾が発射される。鼓膜が破れたかと思うほどの衝撃音。僕は全く反応できず固まった。その側を外れて飛んで行った砲弾は、遥か先で大爆発を起こす。砲弾にも光の魔法効果が施されているのか、かすりもしないのに僕のキメラボディが風圧で悲鳴を上げる。
「痛い痛い痛い」
「あの砲弾で昔のノワールさんが粉々にされたみたいですね」
「レーザー照準やら弾道計算コンピューターとかもあるんだ。魔導探知とかも組み合わされてるかもだし、いずれ当たるから……いやだぁー死にたくないようー」
理屈では分かっている。分かっているからこそ、余計に怖い。僕らの逃げっぷりを感心しつつ見ているイノカワ。その表情には、焦りも怒りもない。部下たちも僕の無様な姿に失笑を漏らしている。そこにローブ姿の影が三つ。偽造アズマパーティーの凄腕スケルトンだ。微妙な距離で立ち止まり、部下たちを挑発する。
「チッ!雑魚が。お前たちあの三人を倒してこい! 遠慮はいらん……首を取った者には賞与と昇進を約束するぞ」
「「「おおっ!」」」 「団長! 俺が仕留めるぞ!」 「いえ、私の獲物よ!」
功名心に駆られた声が、次々と飛び出す。イノカワの周りから続々と部下たちが、偽アズマパーティー目掛けて追いかけていく。
「ふふっ……全員の処刑も時間の問題だな」
完全に勝ったつもりの声音だった。
***
その頃、アシュレイの操る飛竜は静かに空中へ舞い上がっていた。羽音すら消し去るほどの制御。高度な隠蔽魔法で隠されたその飛翔体は、誰にも見破られることなく、やがて演習場の遥か上空に達する。
「ここまで気づかれずにきたわよ。合図があったらすぐに行けるよう準備して!」
「わたくしはいつでも行けますわ! あーん♡良一郎様~早くぅー」
緊張感の中でも、ユリシアだけは平常運転だった。
その時、地上からユリシアへ魔力的サインが伸びてきた。それは、近くに陸上自衛隊の駐屯地もある呉市出身の少年・吾妻良一郎の決死のアクションだった。74式戦車をスピードと機動力で上回る幽霊馬・極流死との人馬一体の跳躍!74式戦車の主砲と機銃を掻い潜り、ターンと大地を蹴り跳躍する。
「そこだっ!」
イリスの収納魔法から取り出した、ユリシア特製の誘導魔法陣が刻まれた極少の魔法結晶を、戦車の後方……エンジンルームの上に落とす。小さなその塊はエンジンの排熱部分の隙間にコトンと落ちて、光を放ち始める。 極々細い誘導の光。 しかし、ユリシアにはそれで十分だった。
「来ましたわ……行きますわよ! 地中貫通魔法弾・バンカーバスター発動!!」
ユリシアの瞳に狂気が宿る。天才爆弾令嬢が、気に入らない敵(恋敵?)をダンジョンごと破壊し尽くそうと開発した悪魔の爆弾魔法だった。飛竜からさらに上空に打ち上げられた魔素結晶。そのマナの塊に、何重もの強化と破壊と重量と加速の力を込めていく。どす黒い悪意の魔法爆弾は音速を超えて、なおまっすぐ目標に向かって降下していく。
74式戦車にマーキングしてから、全力で逃げる極流死。そこへ天空からの一撃。
チュドーン!!!
元来の頑強さに魔法による強化。決して破壊できないと思われた最強チート……その74式戦車が吹き飛んだ。車体後部のエンジンごと消滅する大貫通魔法だった。凄まじい威力に火柱と土煙が上がり、
かろうじて残された車体からは、戦車を操縦していた兵士が火だるまになりながら這い出して来る。
「なんだ!? 何が起きた? 俺の74式が……吹き飛んだ……だと?」
戦車を操縦していたのは、イノカワの部下でもなく――人間でもなかった。戦車から出てきたそれは「フレッシュゴーレム」。死んだ人間の身体などを材料に作られた「柔らかな魔法ロボット」だった。
約五十年前に転生した猪川陸上自衛隊三佐と部下たち。チートアイテム74式を駆使して武勲を上げた四人も年齢には勝てず、全員が鬼籍に入った。その操縦技術を受け継ぐ者はおらず、結果として遺体をロボット化して操縦を任せるという禁忌に手を出さざるを得なかったのだ。イノカワは、祖父とその部下の遺体を使った。ヨークタウンから入手した人魚の肉や血液を魔法材料として補填して、だ。
「おおおぉぉぉー。おじい様……信じられない……最強のアイテムが……」
絶対的な兵器を無残に壊された諜報騎士団に衝撃が走る。イノカワの部下たちが血相を変えて逃げていく。
「もうだめだぁー」 「やはりアズマは魔王なのか!」 「いやだー呪われたくないー」
散り散りに逃げ出す騎士団員たち。その隙を見て、トラ子とノワールが磔台に駆け寄る。
「パパ!助けに来たよ!」
僕は馬上からその光景を見ていた。トラ子たちにスケルトンも加わって敵を蹴散らし、獣人メイドさんを解放していく。
「はっ!イノカワはどこだ?」
気が付くと、さっきまで呆然としていた団長の姿が消えた。暫くしてだった。少し離れた小山から、偽装された扉が開いて何かが出てくる。格納庫に土を盛って隠していたソレは、イノカワ一族のもうひとつの最終兵器だった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
もし「面白い!」と思っていただけたら、評価(☆)をぽちっと押していただけると励みになります。
星は何個でも構いません!(むしろ盛ってもらえると作者が元気になります)
そして、何らかのアクション&ひとこと感想(一行でOKです)をいただければ幸いです。
特に感想はめっちゃ元気になりますw
よろしければ、ブックマーク登録もお願いします。
更新時に通知が届くので、続きもすぐ追えます!
今後の展開にもどうぞご期待ください。




