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第66話 非情なり!諜報騎士団

 王都まで、飛竜の翼で一昼夜ほど。 距離としては、もう「引き返せる」とも「踏み込める」とも言える、微妙な地点だった。その野営地での魔導通信中――空気が、一瞬で凍りついた。交信していたサラトガ伯爵の身に、明らかに“何か”が起きた。魔導通信機の向こうから、いつもの落ち着いた声が消えたのだ。


 嫌な予感が、背骨を駆け上がる。僕は通信機に、思わず身を乗り出した。


「サラトガさん!? 大丈夫ですかー?」


 返事はなかった。代わりに返ってきたのは、耳障りな笑い声――そして、冷え切った男の声だった。


「ハハハハハ。アズマ……初めましてだな。私が諜報騎士団長のイノカワだ」


 その名を聞いた瞬間、仲間たちの表情が一斉に強張る。


「なんだって? どうして騎士団長がそこにいる?」


「アズマよ、ハッキリ言おう。お前はアストラリア王国から『魔王認定』された」


「なんですとぉー!? 僕のどこが魔王なんだようぅー!」


 思わず素で叫んでしまう。だが通信の向こうからは、冷淡な空気しか返ってこない。


「うん……まあ……俺も相当な過大評価だと思う。お気の毒だがな」


「僕に関する正確な情報があるなら訂正してくれよぉー(血涙)」


 軽口を叩いているようでいて、イノカワの声には一切の揺らぎがない。最初から、こちらの反応を楽しむ余裕すら感じられた。


「それはともかく、サラトガ伯爵並びに屋敷内の獣人メイドは全て我々が拘束した。彼らの命が惜しければ、貴様らアズマパーティーだけで王都に来い。大人しく従うなら命は取らない」


 その言葉に、胸の奥がズシリと重くなる。


「人質を取るなんて卑怯だぞイノカワ!」


「なんとでも言うがいいさ。貴様が俺の目の前に現れるまで、サラトガとメイドたちには厳しい拷問をする。奴の娘もいるらしいな。父親を見捨てて逃げるのか?」


 その瞬間―― 「パパ! 大丈夫? トラ子が助けに行くからー!」 トラ子の声が、震えながら通信に割り込む。


「トラ子ー! アズマくん! ここへは来るんじゃない! 諜報騎士団だけじゃないぞ、王国騎士団や聖堂騎士団も待ち構えているんだ。逃げろ……逃げてくれ!」


 必死に絞り出されたサラトガ伯爵の声。 だが――  バシッ! 乾いた衝撃音が、通信越しにはっきりと響いた。


「黙れサラトガ! アズマよ、逃げるなよ。次はこちらから発信する。我々の指示に従え。さもなくば……わかるな?」


 プツッ。 魔導通信は、無情にも切断された。焚き火の音だけが、やけに大きく耳に残る。一緒に聞いていた仲間たちの表情は、完全に曇っていた。


「えーん! まずいですようー、どうしたらいいのか……」


「がるるるるー! イノカワめぇー! パパを取り戻すんだからー!」


 怒りで前に出ようとするトラ子を、ユリシアが背中から抱きしめて制止する。


「トラ子さん、落ち着いて下さいまし。お父様を奪い返すチャンスはありますわよ」


「諜報騎士団……やはり一筋縄で行かない相手ね。だけど、遅かれ早かれ戦わなくてはならないわ」


 僕はというと、頭を抱えて地面を転げ回っていた。正直、現実を受け止めきれていない。そんな僕の手を、イリスがそっと取った。


「ご主人様……落ちきましょう。こういう時こそディスフィア様に指示を仰がねばですぅー」


 イリスの赤い瞳が、妖しく輝く。次の瞬間、空気が変わった。闇の女神が降臨する。


《会いに来たよ 会いに来たよ 会いに来たよ  ヤア! youに~♪……呼んだ?》


「ディスフィア様〜! サラトガ伯爵がぁー! イノカワの手に落ちたみたいです。どうしたらいいですか?」


《くっくっくっ……なるほどのお。そう来たか》


「ディスフィア様……イノカワの思惑がお判りになるのですか?」


《いやぁー、全然わからんのうー》


 ずさぁー…… 全員が、綺麗にずっこけた。


《じゃがノワールなら何かわかるかもじゃ》


「私ですか? うーん……マスターに敗れる前の記憶でよく思い出せない部分があって……何とも言えません」


《よし! わしが過去の記憶を見てやろう。それで何かが分かるはずじゃ》


 イリスがノワールの額に、自分の額を重ねる。記憶の奔流が、闇の女神へと流れ込んでいく。初代転生者イノカワとの死闘。無残な敗北と再生。そして……体操服……競泳水着……ブルマ……ゴスロリ……様々なコスプレが思い出される。逆らえない屈辱の日々。ディスフィアを宿したイリスの瞳に、キラリと光る涙が浮かんだ。


「イリスぅ……大丈夫?」


《ふふっ、ノワールの記憶で幾つか分かった。イノカワはレキシントンとつるんでおった。人魚ビジネスの顧客の一人じゃ》


「なるほど……自分の犯罪歴が表に出る前にアズマくんやサラトガ伯爵を始末したいって感じかしら?」


《そのようじゃな。しかも功名もあるのじゃろう。王国はまだ連携してない。イノカワ一人なら十分倒せる。全員で円陣を組め》


 女神の声に、自然と背筋が伸びる。


「ええー? 対策とか一緒に考えてくださいようー」


《じゃかましい! わしには切り札は分かるが、どう倒すかは分からん! ここは良一郎の出番じゃ》


「わかりました! アズマくん、みんな円陣を組んで!」


「ふふっ、よろしくてよ」


「イノカワを倒すためならなんでもやるよー!」


「私もここで過去の悪夢と決着をつけたいです」


「「「「おおっ!」」」」


 こうして僕らは、女神から“重要なヒント”を託されるのだった。


***


 一方その頃――王都。 諜報騎士団本部では、非公開の尋問が続いていた。拷問椅子に縛り付けられたサラトガ伯爵は、身動き一つ取れない。拳と鈍器が、容赦なく振り下ろされる。 ドスッ! バキッ!! 顔を腫らし、血を流しながらも、伯爵は歯を食いしばって耐えていた。


「吐け! サラトガ! 貴様がアズマ一派と裏で手を結んでいるのは既に把握してるんだぞ」


「俺を舐めるなよ。誰が吐くか……それにアズマくんはもうここには来ない」


 虚勢だと分かっていても、言わずにはいられなかった。


「アズマはどこに行くつもりなんだ?」


「知るかよ。アズマくんはどヘタレなんだ。王国を敵に回したって知ったらビビッて逃げだす……そういう男だ!」


「うーん……伯爵さぁー、言ってて情けなくならない?どヘタレに見捨てられるってことだよ?」


「うん……まあ……ちょっと悲しいかなー。いやいやいや、いいんだよっ!(うちの娘もいるんだから)」


 だが、その余裕もここまでだった。


「しぶといな。だがこれを聞いてもまだ耐えられるかな?」


 伯爵の耳に、別室で拷問されている獣人メイドたちの声が聞こえてくる。


『がるるるるー! 卑怯者! そんなモノで私たちを拷問するなんて!』 『キュウーン』『クゥーン』『キャンキャン』 もの哀しそうな獣人メイドたちの泣き声だった。


「くそっ! 卑怯だぞ……拷問するなら俺だけにしろ! あの子たちに罪はないだろう!」


『ご主人〜そこにいるのですか? 私たちは大丈夫ですっ! だから……屈しないでください!』


「ウル美〜!」 サラトガ伯爵の両目から涙が溢れてくる。


「伯爵……貴様が屈すればメイドたちへの拷問も終わる。どうする? アズマ一行の情報を吐くだけだ。ここに来ないなら問題あるまい?」


「くっ……すまんアズマくん。俺にはウル美やメイド達を切り捨てられない……屈する」


「よし……では洗いざらい喋ってもらうぞ」


 サラトガは話した。アズマ一行の事を。  


 一時間後。メイド達の収監されている牢に移された彼が見たモノは……。涙を流しながら、カツ丼を食べているウル美達だった。


「ご主人〜、屈したんですね? 私たちずっと食べたいのを我慢してたのにぃー。でもまあ……お腹ペコペコだったんで助かりましたー」


「……君らへの拷問って……カツ丼?」


 ガクッ。全身の力が抜けるサラトガだった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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