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第64話 イーストフォークの闇払い

 イーストフォークの中央公園にて。 昼下がりの公園は、事件の余波など存在しないかのように穏やかだった。噴水の水音、行き交う市民の笑顔、そして——平和の象徴のように足元をちょろちょろする鳩たち。僕たちはベンチに座り、鳩に豆をやるふりをしながら深刻な対策を練っていた。周囲から見れば、ただの旅人一行だ。


「あわわわー、どうします? こんな手配書が回ってるんじゃ、いつ官憲の手が回ってもおかしくないですようー」


 声を潜めているつもりでも、僕の焦りは滲み出ていた。背中に冷たい汗を感じながら、無意識に周囲を見回してしまう。涙目の僕に、アシュレイさんがビシッとハッパを掛ける。


「大丈夫よ。ここが事件の中心地ってことは彼らも承知のはず。そんな場所にノコノコ犯人が現れるなんて思ってないわ。まだ余裕はあるわよ」


 その口調は落ち着いていて、場数の違いを痛感させられる。ユリシアも大きく頷いて同意する。


「ノワールさん……諜報騎士団の支部の方は、もう制圧済でして?」


 にやりと口の端を歪め、ノワールが悪巧みをする子供のような顔で言った。


「駐在してた部員と新支部長には、既に強制催眠を施しといたわ。それで王都から『あ』と数名が追手として来てるみたいだけど」


 軽い口調とは裏腹に、その内容は物騒極まりない。


「ええぇ? そうなんですか? 見つかったらヤバイのでは?」


「それが、何やら人魚諸島へ行ったみたいで、誰もいなかったんです」


 胸を撫で下ろす僕の横で、イリスが満面の笑みを浮かべ、僕に微笑みかけてくる。


「ふふふ。やっぱりご主人様にはディスフィア様のご加護があるのですぅー」


 その笑顔に、根拠のない安心感が芽生えてしまうのが我ながらチョロい。


「まだまだ時間は稼げそうね。もう少し滞在して、ここでやっておきたいことを片付けましょう」


「「「「おう!」」」」


 こうして方針は決まった。僕らは再び、旅の豪商に変装した。今回はオーザカの廻船問屋「タカタ屋」の若旦那だ。前回とは別の、さらにハイランクなホテルに逗留し、闇が落ちるのを待った。昼の顔を捨て、夜の街が本性を現すその瞬間を。


***


 深夜。 月明かりの下、僕たちはイーストフォークの裏社会を仕切るマフィアの社屋に忍び込んでいた。男の名はブッシュ。元は海軍将校だったが、十数年前に自ら辞任してこの街に根を下ろした男だ。その裏には、レキシントン提督の明確な意思があった。提督から流れる豊富な資金と武器を背景に、時には官憲をも動かし、既存の裏社会勢力を一掃。今やイーストフォークでは提督と並んで誰も逆らえない絶大な権力者となっていた。


 ブッシュが営む表向きの商売、貿易会社の社長室を目指す。行く手にはアシュレイの広範囲状態異常魔法が放たれ、警備は音もなく沈黙していく。僕に随伴するノワールからは、見た者を死後の世界へ誘うような危険なオーラが漂っていた。受付に応対した部下は、ノワールの目を見た瞬間に篭絡された。


 本来なら来客などあるはずもない時間。取り次がれるはずもない商談。ブッシュは戦慄しながら、手元の名刺を確認した。


「ボス……先ほども申し上げました。レキシントン閣下からのご紹介の、タカタ屋リョウイチロー様です」


「本当に閣下の紹介なのか? 何かの間違いでは……?」


「重要案件だとか。すぐにお会いになった方がよろしいみたいですが」


「くっ……今更なんだ? (閣下は健在なのか?)……会おう。お通ししろ」


 数分後。 張り詰めた空気を切り裂いて、重厚なドアが蹴破られた。


 バァーン!!!


 そこに飛び込んできたのは、処刑騎士姿の僕。そして、密田高校の緑のジャージ(ノワールのお気に入り)に、真っ黒な丸いサングラスをかけたノワールだ。


「な、ななな……何だ貴様は!? タカタ屋はどうした!」


 僕は一歩前に出る。逃げ場を与えない距離だ。


「レキシントンの手足となって密貿易や奴隷売買で巨万の富を築いたらしいな。貴様の悪事もこれまでだ」


「ふざけるな! どうやってここにたどり着いたかは知らんが、生きて帰れると思っているのか? 出あえ! 出あえい!」


 ブッシュの叫びに応じ、数人の手練れの剣士が躍り出る。


「ひとーつ、人の世……えーと、なんだっけ?」


 ズバーン! 横から斬りかかる剣士を魔剣の峰でぶっ飛ばす。


「ふたーつ、不埒な……えーと、なんだっけ?」


 ドゴーン!! 背後から襲いかかってきた剣士を、振り向きざまに叩きのめす。


「みーっつ、醜い浮世の鬼を……うーん、思い出せないようー」


 ガキィーン!!! 正面から挑んできた剣士を、剣ごと薙ぎ払う。


「えーと……まっいいか! 桃太郎見参!!」


「くそっ! 何なんだお前は! セリフはグダグダなのに、めちゃめちゃ強いじゃねぇか!」


「えへへ、褒められちゃった」


「もうー! 喜んでる場合じゃないです! さっさとやっつけて下さいー!!」


「そうだった。天誅!! アズマあたーっく!!!」


「ひいっ!! ぐはぁー!」


 ブッシュは抜いた海賊刀を振るうことも叶わず、魔剣の一閃で斬り倒された。


「うーん……もっとちゃんと時代劇専門チャンネルを視聴しとけばよかったー」


「良ちゃん、何悩んでるの? こっちも片付いたよー」


 トラ子がひょっこり顔を出す。港湾マフィアのボス・ブッシュは倒され、アジトは一時壊滅した。


***


 その後。 アシュレイが例によって修復魔法でオフィスを直し、部下たちの記憶操作を行っていく。一方で、ボスのブッシュは闇の血によってアンデッドとして再生された。復活したブッシュがノワールの前に跪く。


「ノワール様に、忠誠をお誓い申し上げます」 その姿は、もはやかつての裏社会の帝王ではなかった。


「ブッシュ社長……あなたはこれからは、出来るだけ真っ当な商売を心がけるんだ。魔大陸から攫ってきた獣人や亜人は大切に扱え。やがて僕らが引き取りに来る」


「ははっ! 仰せのままに」


「私たちがいつか魔大陸に渡るときが来るかもしれない。秘密のコードを設定しておくから、そのコードでオーダーがあったときは、有無を言わさず『船』を用意しなさい。外洋も渡れる大型船を目一杯集めること。いいわね?」


 ブッシュは、かつての主人レキシントンに平伏するかのごとく、僕とノワールに対して床に額を擦り付けた。


「全てはディスフィア様のために! アズマ様の闇の覇道にご協力できること……心から感謝申し上げます!」

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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