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第62話 潜入作戦と人魚の行方

 軍港イーストフォークにて。 夜明け前の港は、潮の匂いと魔力の残滓が混じり合い、独特の緊張を孕んでいた。軍港特有の規律正しさの裏で、何かが確実に狂い始めている――そんな予感だけが、肌にまとわりつく。


 コードネーム「あ」ことミランダと仲間たちは、諜報騎士団の権限で海軍側に人魚諸島への潜入協力を要請していた。幸いにも海軍側も人魚族や謎の敵対勢力アズマたちを探りたいという意図があり、利害は一致したのだった。だが一致しているのは目的だけで、互いの思惑までは共有されていない。ミランダはそのことを、交渉の最初から理解している。


 この世界の海軍には「攻撃魔法」という強力無比な代物があるためか、吾妻良一郎が使ったような魚雷による攻撃という概念はない。それは技術の未熟さではなく、魔法という万能の存在が生んだ“発想の空白”だった。もし地球で言う魚雷やミサイルがあったとしても、防御魔法によって簡単に防がれてしまうだろう。つくづく魔法という強大な力は多岐にわたってこの世界を支え、地球とは違う文明を発達させている。


 アストラリア王国海軍には駆逐艦というような艦船はなかった。あるのは小型の連絡艇だ。主に偵察などに使われる高速航行が可能な補助艦艇だった。ただし航続距離は短いので大型艦と併用して使う。ミランダは外洋に乗り出すための巡洋艦と連絡艇を確保し、さっそく乗り込むのだった。その胸中には、成功への冷静な計算と、説明できない不安が同時に渦巻いていた。


 数日後の深夜…… 闇に溶け込むように進む巡洋艦の艦橋で、突如として空気が凍りつく。人魚諸島へ接近した巡洋艦の乗員は驚愕に目を見開いた。行方不明になっていたはずの、レキシントン艦隊が姿を現したからだ。理屈では理解できない。だが現実として、海の上に“あってはならないもの”が存在していた。数は半減していたが、確かに海底に沈んだはずの味方戦艦だった。


 戦艦が持つ高性能の魔力探知レーダーが、これみよがしに強力な探知魔法を放ち、各艦からは光源魔法を最大限に灯した探照灯が海面を冷たく照らしている。その光は、あきらかな警告だった。乗っているのが人魚族なら、彼らのマーメイド・アイもある。人魚諸島へ近づくモノは直ちに撃退する体制が敷かれているのが、手に取るようにわかった。


「艦長……あれは敵なのですか?」


 声がわずかに震えたのは、恐怖というより“理解を拒む光景”への戸惑いだった。


「『あ』どの。あれは間違いなく味方艦でした。ですが……今は違うようです。面舵一杯! 回頭しろ! 全速全進……直ちに離脱する」


 艦長の判断は早かった。迷いがない分、それが事態の深刻さを物語っている。


「ええぇー? ここまで来て逃げるんですか?? 何とか撒けませんか?」

 

「『あ』どの、今は無理です。早く離脱しないと! 来ますよ……主砲が!」


 遠く水平線上の輝き。敵戦艦から放たれる攻撃魔法の光が、夜空を切り裂いて飛んで来る。それは美しく、そして致命的だった。


「防御魔法展開! 耐えるんだ!」


 ズズゥーン!!


 巡洋艦側面に展開した防御魔法がかろうじて敵弾を受け止めた。しかし、次々と放たれる敵艦の主砲弾。近くの海面が着弾の度に爆裂し、海水が蒸発するのがわかる。直撃したらただでは済まないだろう。 多勢に無勢だった。ミランダ一行は撤退を余儀なくされる。最初のアプローチで大型艦で近づくのは自殺行為だと、彼女たちは身を以て悟るのだった。


***


 ミランダ達の人魚諸島潜入は難航した。失敗を重ねるほど、敵の異常さだけが浮き彫りになっていく。 海上自衛隊の街、呉市で育った少年・吾妻良一郎の練った防衛策と、それを実現するアシュレイによって、守りは鉄壁と言っても過言ではなかった。それはこの世界の発想ではなく、“転生者ならでは”の発想だった。それにもし潜入したとしても、直ちに無力化される恐れもある。


 何度か潜入を試みるミランダ達だったが、ついにその努力が実る日が来る。一行を乗せる巡洋艦の艦橋で、魔法探知レーダーを操作する魔導師士官が違和感を感じ取った。


「艦長……今までと何か様子が違います」


 その声には、期待と不安がない交ぜになっていた。


「どうした? なにがあった?」


「それが……何も無いんです。こちらの魔力探知に、何も反応がありません」


 沈黙が落ちる。それは安心ではなく、嵐の前の不自然な静けさだった。


「好都合じゃないか……『あ』さん。連絡艇へ移って下さい。引き続き敵を避けつつ接近していきます」


「承知しました。艦長、よろしくお願いします」


 随伴する小型連絡艇に移り、いよいよ上陸の準備をしていく諜報騎士団員達。軽口を叩く者は一人もいない。サバイバル戦の準備は万端だ。数時間後……一行は無事に人魚諸島の端っこへ上陸する。そこから道なき密林を切り開き、時に夜の海峡を渡り、ようやく人魚諸島本島に到着したミランダが見たのは――「何もない平和な自然」だった。


 正確には人魚族や海兵の捕虜たちが生活や作業をしたであろう痕跡は、あちこちに残っていた。しかし、そこに人影は全くなかったのだった。「あ」達が潜入する数日前。人魚族はこの島での全ての作業・作戦を終了し、新天地である「魔大陸」へ向けてすでに出港していたのだ。捕虜となっていた海兵はすべて収容所島に移送され、本島は完全にもぬけの殻となっていた。


「これは……既にこの拠点から移動したという事かしら」


 ミランダの声は静かだったが、その奥には苛立ちが滲んでいた。


「『あ』よ。やられたな。アズマと『わ』の行方は全く分からなくなったぞ」


 敵は逃げたのか?その意図はわからなかった。


 その時、周囲を探索していた「き」から「こ」までのメンバーが、何かを発見したみたいだった。ミランダは「か」と一緒に駆け付ける。大人数を収容していたと思われる建物の中に、「音声を残す魔法アイテム」がぽつんと残されていた。それは、あまりにも無防備で、意味不明の置き土産だった。ミランダが試しに再生ボタンを押すと……野太いウンチョウ等の魔声で、朗々と歌が流れ出す。


「「「離れることは つらいけど♪ 愛想が尽きたよ~ お前らに~♪」」」


「「「別れに星詠みの~ ワルツを贈ろう……♪」」」


 次の瞬間、諜報騎士団の面々は悟った。これは罠だ。だが殺すためではない。“心を折るため”の、最悪の罠だと。熱い魂を持つ男たちの歌が、延々と続く。このアイテムは「停止」も「早送り」も「ボリューム操作」も出来ない仕様だった。大音量の魔声に、ミランダたちは膝を突き、腰砕けになる。


「いやぁー! 歌が……歌が……脳に突き刺さるー!」


「ぐはぁー! 耳を塞いでもダメだぁー!」


「ぐるぐるぐる 目が回る〜、立ってられんー!」


 バタバタと倒れる諜報のエリートたち。剣も魔法も意味をなさない、純度百パーセントの精神攻撃だった。漢たちの熱い合唱が三時間続いたのち……最後に「魔大陸へ旅立ちます。探さないでね」という軽いメッセージが空しく流れた。


「くっ……これを持ち帰って報告を……というか……また再生しないといけないのだろうか……バタッ」


 全員が立ち上がれるまで、半日以上の時間を必要としたのだった。

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