第58話 コスプレ軍団参上・迫りくる諜報の影
人魚諸島にて。戦いの余韻がまだ海に残る中、王国海軍を沈めた海峡付近では、沈没した戦艦や巡洋艦のサルベージが昼夜を問わず行われていた。黒く沈んだ海面の下では、無数の影が忙しなく行き交っている。人魚族の戦士たちだ。
戦闘で大破した艦、主砲を失った艦、比較的無傷で沈んだだけの艦――それぞれの損傷具合を見極めながら、再利用可能な艦船から順番に引き上げていく。引き上げられた艦は、いずれ人魚族が魔大陸へ渡る際の護衛艦となる予定だ。
これは、海底で長時間作業可能な人魚族が多数いるからこそ成せる業である。船底に開いた破壊孔を魔法で塞ぎ、船内に空気を送り込む。そこへ、アシュレイがテイムした大型の海獣や海竜が現れ、巨体をうねらせながら艦を引き上げていく。捕虜の海兵たちが切り出した木材で筏を組み、それを海上作業の拠点としていた。
混乱と秩序が奇妙に同居した光景だった。僕らはここでは「正体不明の謎の首謀者」として陣頭指揮を執っている。身バレを防ぐため、ディスフィア様の提案で地球(日本)のコスプレで正体を隠すことにしたのだが……。 (どうしてこうなった)
サラトガ伯爵から託されている「お取り寄せアイテムボックス」を使い、それぞれに衣装を用意した。そのチョイスは闇の女神プロデュース。誰も逆らえないし、文句も言えない。言ったら最後、何が起こるかわかったものではない。
我らが爆弾令嬢ユリシアさんは、ミニスカポリスの制服に身を包み、髑髏の徽章の帽子を斜めにかぶって手に乗馬鞭を持っている。思いもよらぬ敗戦と捕虜になったショックで目も虚ろな海兵たちを、ビシバシこき使うお嬢様。
「ホーッホッホッホ! 働くのです! お働きなさいまし!」
高飛車なハッパに風魔法で乗馬鞭の痛みを飛ばして、容赦なく痛めつける。逃げ場のない叱責と魔法の一撃に、海兵たちの背筋が一斉に伸びる。 ビシバシ! ビシバシ! 「痛てっ!」 「あうっ!」 「もっとー♡」 ……最後のは聞かなかったことにした。重労働の部署にユリシアさんを監督として配置すると、作業の進み具合がとにかく早くなるのだ。
続いてトラ子は、キョンシー風の道士服に着替えて人魚族の戦士を従え、警備担当をしてもらっている。夜の海でも陸でも、その視線は一瞬も緩まない。とにかく勘が鋭く、夜目も鼻も利くトラ子によって、海兵たちの脱走は相当に難しいと言える。
「がるるるるー。海も陸もずっと見張ってるからねー!」 笑顔なのに、牙が見えている。実に頼もしい。
それから、圧巻なのは不死の王であるノワールだ。この人魚諸島でも、かつて海軍相手に戦って無念の死を遂げた人魚族の魂を呼び覚まし、数百のスケルトン軍団を覚醒させた。骸骨たちは文句も疲労も知らない。二十四時間戦える部下たちは、海中でのサルベージ作業から陸上の拠点づくり、海兵の監視や艦隊から引き揚げた物資の荷運びまで、黙々と、だが異様な統率で働いている。
「闇の眷属たちよ。マスターのために粉骨砕身働くのです!」
ちなみに彼女はハロウィンでお馴染みのピンクのゾンビナース衣装だ。あちこちに不自然にある血痕や、手足に巻いた包帯がヤバイ。だが、不死の軍団を率いるその姿は、妙に様になっていた。
そして、アシュレイさんはこれらの現場を束ねる総合プロデュース。ここ人魚諸島でテイムした飛竜に乗ってあちこちの現場を飛び回っている。彼女はCA(客室乗務員)の格好だ。なぜパイロットではないのか?そういう理屈は闇の女神には通用しない。
「ここの作業が遅れてますね。予備部隊から増援を! 計画の遅れはディスフィア様への不遜と心得なさい!」
「へへぇーっ!」 海兵たちの返事は、もはや悪の管理職に忠誠を誓うそれである。
最後に僕とイリスだ。とはいっても、僕は相変わらずの処刑騎士の格好だ。漆黒のフルプレートアーマー姿はどう見ても「悪の帝王」っぽい。視察に行くだけで海兵たちが飛び退くあたり、効果は抜群だった。ただし――このクソ暑い中で息苦しい甲冑は正直ツライ。中身が時々ショタ化していることも、もちろん秘密である。
イリスはいつもの冒険者らしい神官戦士から、僕の母校・密田高校の女子の制服……そう、セーラー服(夏)に着替えている。可愛い……めちゃくちゃ可愛い。僕は生きててよかったと、心の底から思い、少しだけ目頭が熱くなった。
彼女は体調不良の人魚や海兵の治療をして回っている。ダークエルフとして恐れられてはいるが、なにせ最高位クラスの癒し手だ。徐々に周囲の警戒が解け、視線に安堵が混じっていくのがわかる。
「イリス・・頑張ってるね。コスも可愛いよ」 僕は素直に褒めてみる。
「ありがとうございます!ご主人様の世界の正装なんですよね?この衣装気に入りましたようー」
「ハハハハハ。まあ正装と言えばそうだけど。いつか僕も学生服で一緒にデートできたらなぁ」(遠い目)
「はい!楽しみにしてますぅー」
僕の心のリクエストを実現してくれるディスフィア様の、さりげない優しさに感激する。だが――この程度のご褒美など、今後の苦労からみて「些細なモノ」に過ぎないと知るのは、もう少し先の話だ。
(え? 作者? 何を書いてるんだ? おい!)
***
僕らが人魚族と協力して海軍の敗残兵をこき使っていた頃――軍港イーストフォークでは、諜報騎士団支部長が王都に報告を出していた。この支部長は実に小物で、ノワールが先行して強制催眠魔法をかけ、こちらに引き込んでおいた存在だ。そのため、イーストフォークで起きた海軍の大事件は、僕らアズマ一行は「全く関与していない」という虚偽の報告が、淡々と本部に送り続けられていた。おかげで、僕らにはいまだに追っ手は来ていない。
――だが、そんな平穏は長くは続かない。人魚諸島から脱走兵が出たのだ。トラ子や人魚族、スケルトン軍団の目を掻い潜り、闇の女神の呪いによる破滅を覚悟した上で、男は逃げ出した。額の数字が燃え上がり即死する恐怖におびえながらだ。彼らは「消失したレキシントン艦隊」を捜索中の小型艦艇に救助される。そして、海軍の事情聴取で提督の敗北や僕ら一行の存在を報告した。その供述は、海軍のみならず王国中枢・首脳陣をも震撼させる。
ついに諜報騎士団長イノカワも、イーストフォーク支部から送られてくる報告が怪しすぎると気付いた。彼は即座に部下たちを招集する。
「部下『あ』よ。海軍筋から入ってきたこの情報だがどう思う?」
「私もさっき読みました。レキシントン艦隊を壊滅させ、人魚族を解放した一団ですが……この構成って、やはりアズマとダークエルフの仕業なんじゃ?」
「やっぱりそうだよな? だがノワールも潜入させているにも関わらず、こんなことが出来るだろうか?」
「彼女に明確な『抹殺』を命じてないからでは? 現在のオーダーは『潜入・監視』ですし」
「支部長からの能天気極まる報告は?」
「ノワールの報告を潰すよう、手を回しているとしたらそこなのかもです」
「とにかく今は事実確認が必要だ。『あ』よ。部下を見繕って早馬でイーストフォークへ飛べ。アズマはノワールを使ってすぐに抹殺しろ。自由に泳がせていた責任を取らされる前に、早くだ!」
「はっ! では直ちに出発します」
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