第56話 狙われたスキル・必死の抵抗
僕とトラ子の前に、王国最強騎士の呼び声高いレキシントン提督が立ちはだかる。戦争は終わった。だが、真の戦いはここから始まる。魔大洋の上、視界を遮るものは何もない。空と海が溶け合う水平線のただ中で、逃げ場は存在しなかった。剣一本で艦隊を蹂躙しかねない“怪物”が、今、目の前にいる。
レキシントンは走りながら肩に担いだ大太刀を握り直し、大上段に構えた。海面を踏み砕くたび、水柱が弾ける。その一歩一歩が、圧力となってこちらへ迫ってくる。
「わしの前に立ちふさがるとは笑止。さしずめわしの首を狙いに来た剣士というところか」
僕は魔剣マンイーターを中段に構えて睨みつける。喉の奥がひくりと鳴ったが、視線だけは逸らさない。少し離れた隣では、トラ子さんが謎の拳法の構えを取っていた。重心が低く、全身の筋肉が張り詰めている。
提督の狙いは巡洋艦そのものなのだろう。走り抜けざまに僕らを斬り捨てるつもりだ。迷いのない一直線の突撃だった。僕と提督がぶつかり合う刹那――トラ子が間に割り込んだ。次の瞬間、大太刀が唸りを上げて振り下ろされる。
「超神技的足捌!」 闇の女神ディスフィア様から授かった「絶対回避」のスキルが発動する。 ――スカッ! 空間そのものがずれたかのように、提督の凶刃は空を切り、激しく水面を叩いた。衝撃で海が跳ねる。
僕はその一瞬の隙を逃さず、魔剣を振り抜いた。 「アズマあたーっく!!」
注:アズマあたっくは、当たれば必ずクリティカルヒットになる必殺技です
スキルの力で死角に回り込んだトラ子も、全身の力を拳に込め、渾身の一撃を叩き込む。「ギャラクティカなファントム!!」
「ぐはぁーっ!」
首に僕の必殺剣を受け、さらにトラ子の拳が脇腹を貫く。 致命傷――誰もがそう思う一撃だった。 だが、その巨躯が膝を突くと同時に、「残機」が発動する。光り輝く粒子が噴き上がり、肉体が逆再生されるように修復されていく。僕はその過程で、はっきりと彼のステータスウィンドウを視認してしまった。
(残機数が……三桁を超えてる!?) 勝ったはずなのに、戦況が一ミリも動いていない。背筋が凍る。レキシントンは何事もなかったかのように立ち上がり、首を鳴らしながらこちらを睨みつける。
僕とトラ子は反射的に飛び退き、再び構えを取った。
「お前たち……全然強そうじゃないが、なかなかやるな。二度目は手加減はせんぞ」
暴風のような殺意が放たれる。それだけで、意識が刈り取られそうになる。
(クソッ、威圧だけでこれか!?)震える足を必死で押さえ込み、僕は虚勢を張って叫んだ。
「貴様が巨悪レキシントンかっ! 新選組局長・近藤勇だっ! 歯向かえば斬り捨てる!」
「御用改めである! 新選組副長・土方歳三見参!」
トラ子も即座にノリノリで便乗する。完全に大嘘だが、勢いだけは本物だった。
「近藤に土方か……面白い。本気で相手をしてやる。わしの隠れスキルの強さを見ておけ」
提督の瞳が妖しく光る。そう、この男の出世の秘密。本来は転生者特典であるはずの【ステータス閲覧】を、ある歪んだ方法で手に入れていたのだ。
「ふむふむ……近藤? 貴様、本名は『吾妻良一郎』と書いてあるぞ。……大して強くないが。ん? 貴様、あの伝説のスキル【物干し竿】持ちなのか!?」
「くっ、それがどうした! 一度も使ったことないけどな! なんなんだよ!」
「知らないのか? 世界最強のピー(伏字)だぞ。別名は『女啼かせの物干し竿』。わしが永年求めてやまなかった憧れのスキルだ」
「そ……そうなんだ。知らなかった。残念だったな、僕が持ってて」
「ハハハハハ! 嬉しいよ、近藤。そのスキル、わしが貰った。そっちの獣人の【超神技的足捌】もいいな。どちらもわしが貰ってやろう」
高笑いする提督を睨みながら、僕とトラ子の頭には疑問符が渦巻く。 「スキルを貰う?」 提督は大太刀に光の加護を再注入しながら、僕の身体を舐め回すように見ていた。
「なんだよう、気持ち悪いんだが」
「ううっ、なんか嫌らしい目だよ、良ちゃん……」
提督が不気味に舌なめずりをする。
「クックックッ、実に美味そうだ。貴様らまとめて喰ってやるぞ」
嫌な予感が、確信へと変わる。
「えーと、それって僕を殺害して……屍肉を食するってことでいいのかな?」
「その通りだ、近藤。わしのスキル【悪食】で、喰った相手のスキルを奪えるのだ。土方も美味しく頂いてやる。お前ら覚悟しろ」
――冗談で済む話ではなかった。僕もトラ子も、見る見る顔色が青くなる。
「いやだぁー! こんな気持ち悪い化け物なんか相手にしたくないようー!」(涙目)
「トラ子も殴りたくないんですけどー!」(半泣き)
返答を許さず、レキシントンは破壊のオーラを纏って再び突進してきた。
「まずは近藤、貴様からだ。活〆にしてくれるわ!」
大太刀の性質が変わる。それは「斬撃」ではなく「衝撃」。生かしたまま捕らえ、喰らうためのスタンガンだった。ただし殺害から生け捕りに意識が変わったのか、その鋭さは先ほどとは違っている。
重い攻撃を咄嗟に魔剣で受け止めるが、衝撃が骨の奥まで貫く。 『我が主よ! たまらんぞ! あのビリビリは防ぎきれん!』 魔剣の悲鳴が脳内に響く。一合ごとに、明らかに剣の力が削られていく。
トラ子が勇気を振り絞って援護に入るが、提督は片手で展開した魔法バリアで軽々と弾き飛ばした。しかし痛みを噛み殺し、健気に立ち上がる。闘志は消えてない。
「ふふっ、ここまでだ近藤。大人しくわしの食材になれ。ピー(伏字)は念入りに調理して喰らってやるぞ」
「やーめーてー!!(号泣)」
その時だった。水面下から鋭い蛇矛が突き出され、レキシントンの腹を貫いた。
ドスッ!!! 「ううっ! なんだ!?」
海中からのヨクトクのアシストだ!
僕は反射的に叫ぶ。 「アズマあたーっく!!」 必殺剣が、今度は確実に頭頂から叩き込まれる。
さらに、海面を割ってウンチョウが飛び出した。 「うりゃあーっ!!」 青龍偃月刀が唸りを上げ、筋肉人魚たちが次々と現れ、レキシントンを切り刻んでいく。
その瞬間、巡洋艦の甲板からユリシアの「マーキング魔法」が放たれた。復活の瞬間、その頭上に光の的が点灯する。
「よし! 逃げろー! あとは主砲で蒸発させよう!」 僕とトラ子は全力で巡洋艦へ向かって走る。
背後では、ズタズタになった提督が、再び身体を構築し始めていた。
「ん? あれ? 近藤? 土方……?」
意識が戻りかけた、その刹那。戦艦レトヴィザンの主砲魔法弾が直撃した。
「あんぎゃぁぁー!!」
蒸発レベルの死。だが、それでも残機は尽きない。再生しかけた無防備な身体を――ウンチョウが掴み、海底へ引きずり込んだ。海上から音が消える。
「海の裁きを受けてもらうぞ、レキシントン」
人魚族の、壮絶で静かな復讐劇の幕が、深い海の底で開かれる。
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