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第54話 呉市民の知恵・吾一号作戦

 イーストフォーク軍港。アストラリア王国海軍――「常在戦場」の精神で鍛え抜かれた海兵たちが、緊急出動の命令を受けキビキビと働いている。突発的な命令にも関わらず、埠頭には怒号や混乱よりも、訓練で叩き込まれた規律が支配していた。魔導クレーンが唸りを上げ、弾薬と補給物資が次々と艦へ積み込まれていく。


 レキシントン元帥の突然の指令に右往左往しながらも、艦隊司令部は機敏に動いていた。港湾の不測の事態を考慮し、全艦隊の出動は不可能と判断されたものの、それでも全戦力の三分の二が招集された。これは「演習」としては異例の規模であり、現場の士官たちの胸中には、理由の分からない緊張が広がっていた。


 大和ミュージアムの年間会員になっている少年・吾妻良一郎の立案した『吾一号作戦ごいちごうさくせん』。その第一段階である「巡洋艦爆破」というハッタリは、艦隊司令部を若干弱気にさせていた。原因不明の大爆沈は、どんな熟練の指揮官であっても無視できない不安を残す。とはいえ、出撃する艦隊は戦艦八隻、巡洋艦八隻という強力なものだ。他にも連絡や索敵のための小型艦艇が多数随伴する。正直、周辺国とまともに戦争をしても蹂躙してしまうほどの圧倒的な大戦力である。


 対する闇の勇者アズマと人魚族の戦力は、戦艦レトヴィザンが一隻と、拿捕した高速巡洋艦(足は速いが戦闘力は低い)が一隻のみ。出撃した大艦隊に捕捉されれば、あっという間に撃沈されて終わるだろう。艦隊運用並びに海戦の玄人であるレキシントンと作戦参謀たちも、出撃後の成り行きには楽観ムードが漂っていた。


 また、艦船に乗り込んでいる一般の士官や海兵は、これがガチの追跡・掃討作戦だとは夢にも思っていない。海軍記念日前に行われる突然の演習に戸惑いながらも、「これが終われば大宴会だ」くらいの想いで、あくまで「安心して帰港できる訓練」として気合を入れていた。その油断が、後に命運を分けることになるとも知らずに。


 巡洋艦大爆破の翌日。艦隊はレキシントン元帥を乗せた旗艦ツェザレウィッチを先頭に、各艦が魔法動力炉をフル回転させ出撃していく。その姿は、通常の演習とは思えぬ凄まじい迫力だった。海面を震わせる重低音が連なり、巨大な艦影が次々と外洋へ滑り出していく光景は、まさに王国海軍の威信そのものだった。


***


 出港から三日後。艦隊は先行させていた小型艦艇の一隻からの魔導通信を受信する。


『ワレ戦艦レトヴィザンヲ発見ス 現在追跡中』


 旗艦の艦橋に歓喜の声が上がる。張り詰めていた空気が一瞬だけ緩み、士官たちの表情に自信が戻った。レキシントン以下、作戦参謀たちが逐一受信する報告を分析しながら海図を確かめていく。失踪した戦艦レトヴィザンは比較的低速で航行していた。進行方向は、かつて人魚族が棲んでいた海域であり、そこには彼らの故郷となる諸島もある。艦橋に設置された海図の一点に、無言の視線が集まった。


「奴らめ……今更ながら故郷が懐かしいのか。あの島には廃墟しか残っておらんのにな」


 嘲るような声が、艦橋に低く響く。


「人魚族が我々から逃れるとしたら魔大陸しかありません。そこに行くための船でも隠しているのかも?」


 参謀の推測に、レキシントンは顎に手をやり、わずかに考え込む。


「その可能性はあるな。だがまずはレトヴィザンの拿捕……もしくは撃沈が先だ。戦艦を叩きつぶせば人魚どもは手も足も出ないだろう」


「直ちに全速で追撃します。人魚諸島本島に到達するまでには必ず追いつきます」


「よし。引き続き警戒を怠らず全速で追うのだ」


「はっ!!」


 号令と同時に、艦隊の全艦艇が唸りを上げて加速していく。その姿は、哀れな獲物に襲い掛かろうとする猟犬の群れのようだった。


***


 この世界の索敵は「魔法探知」が主だった。それは全方位に行われ、空中や海底も例外ではない。魔大洋には人智の及ばない海棲モンスターも存在する。その姿を捉えれば、直ちに攻撃するか魔法バリアを展開して防ぐようになっているのだ。魔法の力は大きく、それはある意味で「地球の常識」を超えていた。

だが、魔法への絶対の信頼は、時に大きな油断を生む。


 旗艦ツェザレウィッチの魔導レーダーが、遥か先に目標の戦艦レトヴィザンを発見した。艦隊の耳目はこれから屠ろうとする一隻の戦艦に集中する。レトヴィザンの攻撃力は旗艦と同等の大火力だ。慎重に掛からねば被害が大きい。艦隊は人魚諸島の島陰を縫いながら速度を落とし、緩やかに海峡を抜けて近づいていく。まるで罠にかかるとは思いもせずに。


 その時だった。近くの海中から、見慣れぬ「何か」が高速で近づいてくる。魔力反応は極めて薄く、一見すると大型の魚類か、魚竜のようなものだ。しかしおかしいのは、その何かが複数で、しかも一直線に速度を落とさず、海峡に侵入する各艦に向かってくることだった。


 魔導探知の魔導師士官の判断が一拍遅れた。海底から来るそれに対し、各艦は魔法バリアを展開することはなかった。それが「未知の何か」だったからだ。魔力反応の薄さは危険ではないという癖が染みついている。気がついた時には、その何かは既に各艦の船底に達していた。船底に「小さな魔力反応」を取り付けた何かは、不意に気配を消す。異変に気づいた時には、すでに手遅れだった。


 暫くしてだった。 ――ドーン! ドーン! ドーン!


 海底から突き上げるような衝撃音が連続して響き渡る。レキシントン艦隊の主力艦十六隻に、一斉に異変が起きた。艦内に鳴り響く警鐘と悲鳴が、遅れて海上に溢れ出す。


 それは吾妻良一郎が導き出した現代戦術――「雷撃戦らいげきせん」だった。ウンチョウたち屈強な男人魚たちを「生きた魚雷」として使うという、非道極まりない姑息な戦法。(もちろん、人魚たちの生還を期しているけど)レトヴィザンの主砲に使う魔力結晶弾に、爆弾令嬢ユリシアが時限爆破魔法陣を施し、それを彼らが泳いで運搬、船底に直接仕掛けるという荒業だ。闇の女神ディスフィアの「闇のバリア」に包まれた拿捕巡洋艦は、ウンチョウたちを送り出す潜水艦として、艦隊が必ず通るであろう海峡の底に潜んでいたのだ。


「ハハハハハハハ! 見たか! これが海上自衛隊の街・呉市で育った僕の作戦だぁ!!」


 如何に強靭な戦艦といえども、同時に三発の魚雷(爆弾)を喫すればひとたまりもない。レキシントン艦隊は訳も分からぬまま、ズブズブと沈下していく。巨大な艦影が傾き、海水が無慈悲に飲み込んでいった。


「なんだぁー!? 何が起こっている? わしの……わしの艦隊がぁー!!」


 旗艦の艦橋で、レキシントンは絶叫した。海の王者を自称していた無敵の艦隊が、一発の砲弾も交わさぬまま、海の底へと引きずり込まれようとしていた。

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