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第107話 新たなる門出・それぞれのダイヤモンド

 ――カキィーン!!!


 乾いた金属音が青空に突き抜けるように響き渡る。スタンドに詰めかけた観客のどよめきが、一瞬遅れて爆発する。その凄まじいスイングは投じられたボールを捉えた。一瞬へしゃげたボールは信じられない速さで弾き返され……大きな放物線を描いて球場の最上段に飛び込んでいた。


 WBCアジア予選・初戦の一回表……一番バッターDHの大平翔太の先頭打者ホームランだった。歓声の渦の中、大平はゆっくりとダイヤモンドを回る。その表情はどこか柔らかく、そしてどこまでも晴れやかだった。かつて死線の中で見た絶望とは対照的に、今ここにあるのは純粋な「生」の実感だった。


 WBC開始前に神隠しにあったスーパースター。その男がチームに帰って来たのはNPBと侍ジャパンの練習試合が始まった頃だった。謎の山籠もり(?)から、ひょっこり帰って来た大平を見て、監督・コーチ・チームメイトも目を見張った。昨シーズンを上回るビルドアップされたボディ。メスを入れた肘の調子はもちろんコンディションは完璧。そして何よりもその顔つきが大きく変貌していた。


 まるで別人のような落ち着きと覚悟。だが同時に、少年のような無邪気さも宿している。そのアンバランスさが、かえって周囲に強烈な印象を与えていた。死線を潜り抜けた男の迫力……強靭な精神力は更に鍛えられていた。そして何よりも『とことん野球を楽しむ』姿勢が感じられるのだ。


(生きて帰って野球が思い切りできる……こんな喜びはない! 楽しいなぁ野球は……アズマくん……君にも見せたいよ僕のプレーを)


 観客の歓声を背に受けながら、大平はほんの一瞬だけ空を見上げる。あの異世界の仲間たちが、どこかで見ているような気がした。


 ちなみに彼が貰ったアストリアからのサプライズは、MLB開幕前にLAの自宅に戻って判明する。愛犬のデコッパチが話しかけてきたのだ。


「おうおうおう……ご主人よぅー。ママを心配させてどこに行ってたんだよう!」


「ええっ? うちのわんこがしゃべった?」


 目を丸くする大平と、ドヤ顔で尻尾を振るデコッパチ。そのシュールな光景に、家族はしばし呆然とした後、大爆笑に包まれるのだった。


 そしてこの年……大平さんと意思疎通に成功したデコッパチはドヤーズスタジアムで始球式を務めるなどして、大人気者になるのだが……それはまた別の話だ。


***


 ところ変わって異世界……光の使徒はその後セリアとアイオワが結婚。完全に尻に敷かれるアイオワを、国民は暖かい目で応援している。(わかる)ミランダは官職を辞して冒険者に転向……後に数々の大発見を成し遂げて英雄となる。隣国ではシャルル王子とディアリーが正式に婚約し、リミュエール王国を継ぐことに。正統派ヒロインのディアリーは、光の聖女としての奇跡の癒しで多くの人々を分け隔てなく救うのだった。


 そして、アストラリア王国は『勇者と魔王の盟約』(世界分割)より、再び国家を取り戻した。王国は立憲君主制となり、平和憲法を制定して新たなスタートをすることとなった。呪印の爪痕が残る街にも、少しずつ活気が戻っていく。人々の表情には不安も残るが、それ以上に「これから」に向かう希望が灯っていた。


 国王以下……官僚役人たちの満場一致で初代首相に就任したのはサラトガさんだった。


「ええぇー?? 俺が光の勇者の代わりに国の立て直しと舵取りをやるのか!?」


 書類の山を前に頭を抱えるサラトガ。その背後でウル美が静かに微笑みながら紅茶を差し出す。文句たらたらのサラトガだったが、魔王アズマの下で宰相をしていた頃と仕事の内容は大して変わらない。結局また馬車馬のように働く日々である。唯一いいことがあったとすれば、長年サラトガを支えてきた狼獣人の美女メイド長・ウル美さんと正式に結婚(再婚)したくらいだ。ちなみに愛娘のトラ子は魔王アズマの仲間として彼の元から巣立っている。


「ううう……寂しい」


 ぽつりと漏らした本音に、ウル美がそっと寄り添う。


「もうー私がいますよ。子供沢山作りましょう♡」


「おおっ……(身体がいつまで保つだろうか?)」


 サラトガ首相はその後に憲法発布・普通選挙・議会招集などやり遂げ……生涯で更に5人の子供に恵まれるのだった。


***


 僕はどうしたかって? 勇者との約束どおりあれから魔大陸へ渡った。イーストフォークに着くと、魔大陸からウンチョウら人魚族が迎えに来てくれていた。僕とイリス……着いてきてくれたのはユリシア・アシュレイ・ノワール・トラ子……それから帰郷を望む元奴隷たちだった。


 見渡す限りの荒野と未知の種族たち。だが不思議と恐怖はなかった。むしろ胸の奥に湧き上がるのは、冒険への高揚感。魔大洋を渡って着いた大陸は未開の大地だ。人間のみならずエルフ・ドワーフ・ケンタウロス・ホビット・トロール・コボルト・ゴブリン・ダークエルフもいる。亜人獣人が入り乱れ、部族間の争いも絶えない。僕は人魚族の小さな拠点から、魔大陸制覇の活動を始めるのだった。


 大陸の端……僕の住む古城の前に集まった数千の軍勢とスケルトン軍団&魔獣たち。魔獣軍団長兼軍師のアシュレイが僕に跪き話しかける。


「アズマ様……魔王軍侵攻の準備が整いました」


 爆弾令嬢ユリシアが続く。


「ホーッホッホッホッ! 旦那様……魔導師軍団長ユリシアいつでも行けますわよ」


 身長2Mのナイスバディ・トラ子さんが元気いっぱいで吠える。


「獣人・亜人軍団長トラ子も絶好調だよー!」


 そしていつものゴスロリJSアンデッドが妖しく微笑む。


「不死者軍団長ノワール……マスターのためにスケルトン兵一万を用意して参りました!」


 僕の側に控える魔王妃・イリスが微笑む。


「さあ……ご主人様~ いよいよ魔大陸での初陣ですぅー。イリスも派手に暴れまわりますから期待してて下さいませー」


(うんうん……みんなやる気満々だ。実に頼もしい!)


 期待の眼差しが一斉に僕へ向けられる。僕は王座から立ち上がり、全軍に向かって宣言する!


「えーと……とりあえず周辺の部族から和平交渉で僕がなんとかするんで、今日は皆さん解散して下さいー」


 一瞬の静寂のあと―― ずさぁー……やる気満々だった魔王軍全軍がずっこける。


「もうーアズマくんってば……どこまで甘いのよ? ああんー犯したい♡」


「ホーッホッホッホッ。まあそこが良一郎様らしいですわ。抱いて♡」


「だったら暇になったね……へへットラ子ねぇー実は発情期なんだ。子作りしよ♡」


「ああぁーつまんない。それじゃあ私はスケルトン軍団と都市開発&開墾作業に戻りますので……皆さんごゆっくりー」


 ノワールが去り、残ったアシュレイ・ユリシア・トラ子が僕を独占しようと睨みあう。空気が一気に危険な方向へ傾く。その雰囲気を察知して、気付かれないよう僕はこそこそと姿を消す。


「あれ? いない……逃げたの!?」


「またですの?やれやれですわ」


「がるるるるー・・寝かせない・・今夜は寝かせないんだからぁ~」


***


 僕は行く……そう……僕はコミュ障なのだ。幽霊馬の極流死ごるしに跨り、古城を飛び出す。風を切る音が心地よい。背後の喧騒が遠ざかっていく。いつの間にか僕の背中には寄り添うイリスがいる。


「えへへ……いいですね魔大陸。ご主人様といっぱいイチャイチャできますもの」


 彼女の体温が背中越しに伝わる。そのぬくもりが、何よりの現実だった。


「うん……今日は森の向こうでデートしようか」


「はいっ! どこまでもイリスは一緒ですぅ」


「ああ、ずっと一緒だ。約束するよ」


 森を抜けてどこまでも広がる青い地平線へと駆けていく。新しい世界、新しい日々、新しい物語。僕とイリスの新たな伝説が始まる。やっと手にした二人の楽しい時間は始まったばかりだ。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。


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星は何個でも構いません!(むしろ盛ってもらえると作者が元気になります)


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