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第106話 融合の奇跡・勇者の帰還

 その握手こそ、光と闇の融合だった。


 互いに秘められた膨大な力が繋がり合うことで、かつてないほどのエネルギーが放たれる。眩しい光に包まれる僕ら……だがその光は優しい暖かさで……ただただ心が安らぐのだった。肌に触れる光は、熱ではなくぬくもりだった。胸の奥に溜まっていた恐怖や後悔が、ゆっくりと溶けていくような、不思議な感覚。戦いの記憶さえ、遠い夢のように霞んでいく。


 僕は視界を奪われ周りが見えなくなり……やがてその心地よさで静かに眠りに入っていく。意識を遮断し、安らぎに身を任せる。抗う理由はなかった。ただ、この光に委ねてしまえばいい――そんな確信にも似た安心感があった。


 ……それからどれほどの時間が経ったのだろうか?はっ! と目を開けると、僕はイリスの胸の中で目を覚ます。柔らかな感触と、かすかに香る甘い匂い。現実に引き戻された僕は、状況を理解するより先に感情が溢れ出していた。


「えーん……怖かったようー。光と闇の女神の死亡遊戯でみんな死んでいくんだ……僕は……僕は……女神にお仕置きすることしか出来なかったんだ」


 情けない声だと思う。でも止まらなかった。あれだけの戦いを経て、ようやく張り詰めていたものが切れたのだ。泣きじゃくる僕の頭を、イリスが優しく撫でてくれる。


「お疲れさまでした。イリスはご主人様の活躍をずっと一緒に見てましたからね。本当にカッコよかったですぅー」


 その声音はいつも通りで、だけどどこか誇らしげだった。まるで自分のことのように喜んでくれているのが分かる。


「イリス……世界はどうなったの? ここはどこなんだ?」


 まだ頭がぼんやりしている。夢なのか現実なのか、その境界が曖昧だった。


「目をしっかり開けて周りを見てくださいませ。みんないますよ……ほら!」


 促されるまま、ゆっくりと身体を起こす。視界がはっきりしていくにつれて、信じられない光景が広がっていった。


***


 僕がイリスから身体を離して、恐る恐る辺りを見渡すと、そこは僕らの秘密の地下迷宮基地……勇者パーティーと戦う前にいた「おもてなしの部屋」だった。そこには魔王パーティーの面々……ユリシア、アシュレイ、ノワール、トラ子が、戦う前の姿でそこにいた。みんな目を瞑り、床に横たわっている。戦いの痕跡は一切ない。まるで時間が巻き戻ったかのように、穏やかな寝息だけが静かに響いている。


 部屋の向こうに目をやると、聖女ディアリーが大平さんを膝枕していた。そして、その傍らには……アイオワ、セリア、シャルル、ミランダが横たわっている。敵味方という境界すら、ここでは意味を失っていた。誰もが同じように、ただ眠っている。盤上遊戯で消滅した者も、惨たらしく死んだ者も、深く傷つき倒れた者も、みんな元の姿に再生されていた。


 胸の奥に溜まっていた重石が、すっと消える。ああ……終わったんだ。やっと。


「ははは……みんな無事なのか……よかった」


 自然と笑みがこぼれる。こんなにも安堵したのは、いつ以来だろうか。


「全てご主人様のおかげですぅー。やっぱり貴方は私が見込んだ人でした」


 イリスが誇らしげに胸を張る。その姿に、少しだけ照れくさくなる。


「そうだ! ディスフィア様はどうなったのかな?」


 あれほどの存在が、こんな形で終わるとは思えない。僕はゆっくりと立ち上がり、イリスの手を取って辺りをもう一度見渡してみる。そこに闇の女神の気配はなかった。いつも感じていたあの神気は消え去っていた。


 そのとき、ふと光の聖女ディアリーと目が合う。彼女は静かに口を開く。


「アストリア様もどこかに行かれたみたいですわ。わたしもあの方の神気を感じませんの」


 彼女の声にも、どこか不安が混じっていた。主を失った巫女のような表情。


「まさか……握手しただけで対消滅とか……しちゃったのかな?」


 冗談めかして言ったが、あり得ない話でもない。あの規模の力がぶつかり合ったのだ。


 その時だった。僕らの頭上……遥か彼方の空の上……いや……宇宙の果てからか……声がする。


《やっほー! 良一郎! わしらはここにおるぞ》


《ふふふ……みんなー! 元気にしてるかな?》


 聞き慣れた声。それも、どこか以前よりも軽やかで――一つに重なっているような響き。


「えーと……どこなんですか??」


***


 やがて、光と闇のパーティー……全員が目を覚ます。みんな休養十分……ぱっちりとした目で……元気よく起き上がって来る。誰もが最初は状況を理解できずに戸惑うが、次第に互いの無事を確認し合い、安堵の空気が広がっていく。


 そして女神の声……その声は僕らの心に直接響き……今の状態を教えてくれるのだった。光と闇の女神は前回の戦いの際に、現世に持ち出しできる力のほぼすべてを僕と大平さんの武器に注ぎ込んだため、著しく弱体化していた。人間に屈するという精神的なショックもあり、存在自体も不安定になっていた。そこに相反する属性の二人が握手という『かつて経験したことのない接触』をしたわけで……二柱の女神は……なんと! 融合して一柱の大女神になってしまったらしい。


 その説明を聞きながら、誰もが言葉を失っていた。常識の外側で起きた出来事。それでも、不思議と納得してしまう自分がいる。二つの力が融合大爆発したことで、闇の呪印や獣人化の呪い……光の加護もなにもかも、融合する前に行った神の力は全てバラバラに消し飛んだらしい。


 だが、ディスフィア様もアストリア様もこの融合にはご満悦の様子だった。とにかく神格が格段に上昇したらしく、その力も奇跡もより多く行使可能になっているとか。ただし、全ての宇宙を統べる神のルールで、巨大な力を持つ神であるほど現世への介入が制限されるらしかった。


《というわけでなー。わしらはこれからは遠くから見守る事しか出来ぬのじゃ》


《でもでも安心してね。今までどおり神聖魔法や癒しの奇跡は行使できるようにしておくから》


 その声には、どこか吹っ切れたような明るさがあった。長い争いの果てに辿り着いた、新しい関係。


「えーと……ありがとうございます。みんなも回復して下さったんですよね。感謝申し上げます!」


《フフフ……良いのじゃ。新たに得た奇跡の力を使ってみたかっただけじゃよ》


《とかなんとか言って……本当は罪滅ぼしなのよ》


《まあの……わしら姉妹の戦いに終止符を打ってくれたお主らに報いぬわけにはいかんでのう》


《いつから始まったのか理由さえも忘れ……どこまでやるのかゴールも見えなかった。その戦いを終わらせてくれた魔王アズマ……そして勇者大平……本当にありがとう》


 その言葉は、今までの女神たちからは想像できないほど素直だった。


《アストリアよ……感謝せよ。わしが吾妻良一郎を選んだからじゃぞ》


《はいはい……わかってます。最後に……私たちはこれでもう争わないことを誓います。そして過度な加護も呪いも無くすからね》


《これからはお前たちが時代を作るのじゃ。世界で一番優しい魔王アズマよ……好きにやれ! 応援しておるぞ》


《勇者・大平くんは元の世界に帰してあげるからね。そうね……ひとつ面白いサプライズをプレゼントするからお楽しみにー》


「アストリア様! ありがとうございました。地球に帰ったらめちゃめちゃ暴れますよ! よかったら見守って下さい!」


《もちろん見てるからね。大平くんさようなら……使徒のみんな……聖大陸は任せたわよ》


《じゃあの。みんな仲良くせいよ。イリス……わしの愛しい巫女よ……幸せになるんじゃぞ》


「ディスフィア様ぁ~ (涙)はい! イリスは幸せになりますぅー」


 いつも側にあった声が、だんだん遠くなっていく。それと同時に勇者・大平の身体が光に包まれていく。その光は別れの合図だった。


「おおっ! 遂に帰れるのか!? アズマくん……お世話になりました! 地球で精一杯頑張るから……君も頑張って!」


「大平さん! WBCにMLB……頑張ってください! そのプレーで世界を笑顔に!」


 最後の言葉は、どこか照れくさくて、それでも本心だった。


「ああ! 光の使徒のみんなも本当にありがとう!ずっと忘れないから!」


 仲間たちに向けた笑顔。それは戦いの中では見せなかった、ただの一人の青年の顔だった。……そして勇者は静かに帰還していくのだった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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