第104話 極限の魔球・聖地を揺るがす神威
僕の魔剣が唸りをあげる! マンイーターは血に飢えていた。僕の身体や寿命への影響を極力抑えるため、普段はイリスが収納魔法で保管するようにしている。ここしばらく実働のない魔剣はその渇きを勇者の血に求めていた。
僕が何も意識しなくても剣自体に意思があるのだ。僕の身体を使って襲い掛かるその剣筋は「剣豪」と呼ぶに相応しい荒々しさ……そして強さだ。足元の土がえぐれ、甲子園のマウンドに深い溝が刻まれていく。剣の意思に引きずられるようにして踏み込むたび、僕の身体は確実に限界へ近づいていた。だが――それでも止まれない。
――ガキィーン!!!
僕の重い一撃を聖バットで受け止める大平さん。衝撃が空気を震わせ、耳鳴りのような金属音が反響する。内野の観客席がわずかに揺れ、神の力が現実を侵食しているのがはっきりとわかった。
「うおぉー重い! 体格じゃ二回りは違うのに……この力は一体?」
「ふふふ……舐めちゃいけませんよ。僕は今まで4回殺されて、その度に魔獣の血肉で蘇ってきたんです」
自分でも冗談のような経歴だと思う。だがそれが今の力の源であることもまた事実だった。
「なんだって? それじゃあー君は本当に身も心も闇に染まった魔王になってるのか!?」
「ハハハハハハ……そう思って頂いて結構。どんどん行きますよ! どこまで耐えられるかな!?」
(おかしいな? アズマくん……やけに芝居がかってる? この戦いを穏便に済ませたいっていうあの言葉は嘘じゃないと思うんだが)
大平さんの瞳に一瞬だけ疑念が揺れる。しかし、その迷いを許さぬように僕はさらに攻め込んだ。魔剣の歓喜が腕を震わせる。血を求める衝動が、理性を削り取っていく。
僕がどんどん斬り込んでいく。大平さんはバットで受け止めたり、距離を取って光球を投げてくる。メジャー仕込みの光球が猛スピードで迫って来るが、竜眼【ドラゴンアイ】を持つ僕にはスローモーションだ。回転、軌道、魔力の流れ――すべてが見える。避ける必要すらない。
――カキィーン!!!
魔剣で簡単に打ち返す。弾き返された光球は大平さんの顔の真横すれすれを飛んで行く。空気を裂く音が頬をかすめ、彼の表情が一瞬引きつる。
「はぁはぁはぁ……ヤバいぞ。全然勝てる気がしない。アズマくん……実はめちゃくちゃ強いんじゃ??」
「この程度で音を上げてたら、ディスフィア様に一撃を喰らわすどころか、僕に切り殺されちゃいますよ? いいんですか?」
「くそー……これでどうだ!」
大平が光球を聖バットでトスバッティング! 速度と威力が更にマシマシの打光球が僕の身体を目掛けて襲い掛かる。それはもはや球ではなく、光の砲弾だった。空気が焼け、一直線に僕へと突き進む。
「まだまだー。余裕ですからー」
――カァーン!
再び魔剣で打ち返す。光球は今度は更に更に鋭いライナーで、一塁側ベンチ前で立っていたディアリー(中身はアストリア)へ向かっていく。
《ふんっ!》
その砲弾のような光球を片手で簡単に受け流すディアリー。光球は観客席で大爆発……アルプススタンドを崩落させる。轟音と共に崩れ落ちる観客席。土煙が空を覆い、この戦場がもはや競技場ではないことを物語っていた。
《大平くん……不甲斐ないわね。このままじゃ私まで危険になるじゃない。もっと加護をあげるわ》
そう言うとディアリーの身体から淡い光が漏れ出し、その神聖な魔力が大平の聖ミスリル製バットに注がれていく。光は脈動し、武器そのものが生き物のように震え始める。
「うぉー……重い! だけど……振れる。金属バットが鬼の金棒になったみたいだ。行くぞアズマくん」
空気が変わった。圧が一段階跳ね上がる。僕の頬を、見えない力が押し潰そうとする。
今度は勇者から僕に向かってくる。ブゥーン!! 空気を割く凄まじい音と共に、威力を爆上げされた神器が僕を襲う。
――ガアァーン!!
魔剣でかろうじて受け止める。立場が逆になったのが判る。続けざまに振り下ろされ、打ち込んでくるバットの強さ・速さ・重さは先ほどとはけた違いだ。腕が軋み、骨が悲鳴を上げる。それでも踏みとどまるしかない。
***
劣勢になる僕を見て、イリス(中身はディスフィア)が僕に加勢する。
《良一郎! わしの力を分けてやるぞ。これでどうじゃ!》
今度はイリスの身体から黒い霧が漏れ出す。その闇の魔力が僕の魔剣に注ぎ込まれていく。ずしり、と質量が増したかのような重み。しかし同時に、底の見えない力が湧き上がる。
「くっ……重い! 魔剣が何本にも増えたみたいだ。だけど……振れる!」
――ガキィーン!!
僕のターンだった。再び鋭い剣筋で大平さんを追い込んでいく。均衡が戻るどころか、さらに危険な領域へと突入する。
「大平さんどうですか! 僕の魔剣の威力は?」
「凄いよアズマくん……こっちのバットの威力はどうだ!」
「凄いパワーです。これでぶっ飛ばされたら間違いなく消し飛びますよ」
「僕の方も君の魔剣で斬られたら、一発で消し炭にされそうだ」
互いに冗談めかして言うが、その実――どちらも本気で死を感じていた。ほんの一瞬のミスが、すべてを終わらせる。
魔剣と聖バットで激しい鍔迫り合いが続く。その光景を見て、アストリアに焦りが見える。ここまでの盤上遊戯では引き分けはあれども、勝ちらしい勝ちはない。兎にも角にもここはディスフィアのホームであることを改めて思い知らされる。
(くっ……下手にアズマに勝たせたら、ディアリーごと私も損傷してしまう。そうなれば復活までは200年? いやいや直接叩かれればどれだけ回復が遅れるか見当つかない)
《もっと……もっとよ。大平……受け取りなさい。私の力をもっと与えてあげる。だから勝つのよ!》
光がさらに濃くなる。眩しさに目が焼けそうだった。対抗するように闇もまた深く、重く沈んでいく。
《良一郎! 頑張るのじゃ! ここで負けたらイリスごとわしは消滅しかねん。持てる力の全てを注いででもお前を勝たせる! 行くのじゃ!》
二柱の女神の力がそれぞれの武器に全振りされ、正に『触れれば一発で消滅しかねない』ほどの凶器を持つことになった僕と大平さんだった。世界そのものが、この一撃に耐えられるかどうかすら怪しい。
***
――ズガアァーン!!!
魔剣と聖バットがマウンド上でぶつかり合う。その衝撃だけで爆風が吹き荒れ、グラウンドの砂が舞い、激しく反応する武器同士のパワーで耐えがたい不協和音が響き渡る。視界が揺れ、足元が崩れそうになる。それでも僕は踏みとどまり、目の前の勇者を見据える。
その大音響の中で、僕は大平さんに最後の提案をするのだった。
「僕は最初からこの戦いを穏便に済ませるつもりです。協力して下さい!」
「そうじゃないかと信じてたよ。どうしたらいい? 僕は異世界とかファンタジーは門外漢だ。君に任せる!」
「ありがとうございます! じゃあ……(密談)……こんな感じで」
ほんの刹那のやり取り。しかし、それで十分だった。
「了解だ! 行こうアズマくん!!」
バッとバックステップで退く二人。互いが一塁側と三塁側に分かれていく。呼吸を整え、互いの視線が交差する。それだけで意思は通じた。
互いに武器を大上段に構えて一直線に向かっていく。この一撃がすべてを決める。そんな意志を読み取り、身構える女神たち。空気が張り詰め、時間が引き延ばされたかのように遅く流れる。
勝負はどうなる??
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