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第103話 謀神の継承・聖地の決戦

 ユリシアとミランダ……二人の試合が終わる。役目を果たしたレフェリーがリング上から消えると、戦いの舞台は蜃気楼のように揺れながら消えていく。熱気も歓声も、すべてが嘘のように霧散していき、残ったのは静まり返った盤上だけだった。


 ダブルノックアウト状態だった二人は、盤上の外にあるそれぞれの待機所に移送されていた。見るからにボロボロのユリシアを見て、僕は思わず声を上げる。胸の奥がぎゅっと締め付けられる。


「タイム!! タイムを要求します」


《魔王アズマ? どうしたのよ?》


 女神の声音には、わずかな興味と退屈が混じっていた。


「すいません、少しでいいんでユリシアさんの手当をしてきていいですか?」


 それを聞いて勇者・大平も同意する。彼の表情もまた深刻だった。


「僕もミランダさんが気になります。同様にタイムをいただいても?」


《ふむ……最終決戦の前じゃ。心残りがあっては戦いの覚悟も鈍ろうよ。わしは認めよう》


《仕方ないわね。私もOKしましょう。10分あげるわ。手短に済ませなさい》


「ありがとうございます!」


 大平さんも深々と頭を下げる。その姿に、敵同士であることを一瞬忘れそうになる。


 僕は神の力で一時盤上から離れ、ズタボロのユリシアの元に転送される。足元の感覚がふっと消え、次の瞬間には彼女のすぐ側に立っていた。ディスフィア様の気持ちなのか、手には回復ポーションがいつの間にか握られていた。


 急いで駆け寄り彼女を抱き起こし、その口にポーションを流し込む。しかし、ユリシアは薬を上手く飲み下せない。身体は強力な電撃の連続で痺れ切っていた。呼吸も浅く、見ているだけで不安になる。


 時間がなかった……僕は意を決してポーションを口移しで飲ませる。躊躇している余裕はない。コクンと喉が動くと、虚ろな瞳に輝きが戻って来る。その変化に、ようやく胸を撫で下ろす。


「良一郎様……ごめんなさい。勝てませんでしたの」


 その声はかすれていたが、確かな意志が宿っていた。僕はぎゅっとお嬢様を抱きしめる。壊れてしまいそうで、思わず力が入る。


「いいんです。勝てなくてもユリシアさんが無事だったから」


 彼女も僕の背中に手を回し、強く抱きついてくる。その温もりに、ようやく現実を実感する。僕は優しく抱きしめながら耳元で囁く。誰にも聞かれないような小声で。幸い盤上では光と闇の女神がうだうだと先ほどの戦いの感想を言い合っている。


《ミランダにも困ったものだわ。なぜあそこで即死系の毒を使わなかったのかしら。甘すぎて砂糖を吐きそうよ》


《ルールありの試合にしようと言ったのはそちらであろう? そこまでやったらわしとて黙っておらなんだぞ》


 二柱の女神は喧々諤々(けんけんがくがく)の言い合いに夢中だ。その無神経さに苛立ちを覚えながらも、今は利用するしかない。僕は盤上から目を移し、ユリシアに話す。


「よく聞いて下さい。僕に考えがあるんです。ユリシアさんの協力をお願いしたいんです」


「ええ……もちろん良一郎様のためなら何でもやりますわ。でもリタイアしたわたくしに何が出来るのでしょう?」


 その瞳には迷いがなかった。


「一か八かの大勝負です。ユリシアさんには…………可能ですか?」


 僕の説明を聞き、納得する彼女。表情がふっと妖しく緩む。


「もうーまったく……どうやったらそんな姑息な作戦を思いつくんですの? でもやってみる価値はあると思いますわ」


「僕の地元の戦国武将・毛利元就は謀神とまで言われた作戦家だったのです。僕は元就公をリスペクトしてますから」


 その名を口にした瞬間、不思議と背中に力が宿る気がした。


「わかりましたわ。微力ですが必ずややってみせますわ。それと……もしみんな生き残ったら……私も良一郎様の妻にしてくださいませ」


「えーと……」


 あまりにも直球で、一瞬思考が止まる。


「世界を統べる魔王が一夫一妻なんてナンセンスですわ。イリスの次の二号の座を約束して下さいませ」


「ううう……僕でいいんですか?」


「貴方だからいいんです」


 その一言は妙に重かった。逃げ場を塞がれるような、でも嫌ではない感覚。そう言うとユリシアは思い切り熱いディープなキスをしてくる。完全に不意打ちだった。女性に免疫のない僕はそれだけで鼻血噴出だ。頭が真っ白になる。


「しっかりして下さいー! 旦那様!」


「はいっ! 頑張ってきます」


 あっという間に10分の手当休憩は終わる。余韻に浸る暇もない。気が付くと僕は再び盤上に戻っていたのだった。


***


 闇の女神ディスフィアが盤上に戻った僕を見て、クスクス笑いながら回復魔法で鼻血を止めてくれる。


《さあ行くぞ》


「ええ!」


 覚悟は決まっていた。そして盤上の向こうに控える勇者と女神に話しかける。空気が一瞬で張り詰める。


「最後は2対2で神と人の共同戦にしませんか?」


《へぇー? 魔王アズマくん。それはどういう意味なの?》


「それはですね……貴女をぶっ飛ばしたいからですよ」


《ホホホホホ。なかなか勇ましいわね。でもそれは敵わないわよ》


 余裕の笑み。その態度が逆に火をつける。


「そうですか? ディスフィア様の力を借りれば一太刀くらいは浴びせられると思ったんですけど」


《ふふふ……良一郎の言う通りじゃ。わしが闇の力を魔剣に与えればアストリアとて無事ではすむまい》


 その言葉に、空気が一変する。遊びではない本気の気配。勇者も賛同する。


「その提案……乗りますよ。この戦いの元凶である闇の女神ディスフィア。僕も一発くらい殴らないと気が済まない!!」


《そうね……私が光の力を聖バットに与えればディスフィアとて粉砕できるかも。面白いじゃない》


 女神同士の殺意が交錯する。


「では決まりですね」


「アズマくん……お互い恨みっこなしの真剣勝負でいこう」


 僕と勇者・大平の視線が絡まり合う。その瞬間……僕らは戦いのフィールドへ飛ばされていく。はっ!っと気付いた時には、僕らはそこにいた。その巨大な闘技場は……阪神甲子園球場だった。


 異世界に再現されたそのグラウンドに立つ僕と大平さん。三塁側のベンチ前には闇の女神の憑依したイリスが立ち、一塁側のベンチ前には光の女神が憑依したディアリーが立っている。空には炎熱の太陽……まるで夏の全国高校野球大会みたいだ。乾いた土の匂いと熱気が肌を刺す。


 ふと目をやれば、ベンチの上にはユリシアが観戦している。そしてその横には霊体になったノワール・アシュレイ・トラ子の姿も見える。静かに、しかし確かにこちらを見ている。一塁側のベンチの上も同様だった。実体のミランダの横には不機嫌極まってるシャルル王子に、再会を喜び合うカップル……アイオワとセリアの霊体があった。


(あ! アイオワがセリアにどつかれてる……しかし……アイオワはボコボコに殴られてるのにめっちゃいい笑顔だなぁ)


 緊張の中で、ほんの少しだけ力が抜ける。ああいうのを見ると、不思議と怖さが和らぐ。


 最終決戦の用意が整ったのか、どこからともなく試合開始のサイレンが鳴る。乾いた音が球場に響き渡る。僕は背負っている魔剣・マンイーターをすらりと抜く。手に伝わる重みが、現実を突きつける。勇者も手にした聖ミスリルバットをぶんぶんと素振りしてゆっくり近づいてくる。


 マウンド上でぶつかり合う二人。互いに一歩も引かない距離。死闘の幕が上がる。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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