第102話 場外の死闘・暴走する二人
頂上の女子プロレスを見ていた僕らだったが、その試合がいよいよ越えてはならない一線をぶっ飛び始めるのを感じた。リングの上だけで完結していたはずの戦いが、徐々に歯止めを失い、どこへ転がるか分からない危うさを帯びていく。観戦しているだけのはずなのに、胸の奥がざわついて仕方がない。
リング中央で立ち上がったユリシアが美しい顔を歪めながら、口からぴゅーと水を吹き出す。麻酔針で撃ち込まれた薬がまだ効いているのか少しふらつくが、どこからともなく取り出した解毒ポーションのアンプルを呷り、空瓶をリング外に投げ捨てる。その仕草はいつも通り優雅……とは言い難く、どこか焦燥と苛立ちが滲んでいた。
場外では敷かれたマットの上で吹き飛ばされたミランダが頭を振りながら起き上がろうとしている。かろうじて受け身は取れたみたいだ。しかし巻き添えになったレフェリーは、リング反対側の観客席(誰もいないが)までぶっ飛び失神している。その異様な光景に、もはや試合というより災害に近いものを感じる。
遂に訪れた完全無法地帯……極悪令嬢のゴールデンタイムだった。ユリシアの目に宿る光は、勝敗を超えた何か――純粋な破壊衝動のようにも見えた。
「ディスフィア様! ヤバくないですか? ユリシアさん……何をしでかすかわかりませんよ」
思わず声が上ずる。あの人はブレーキが壊れると本当に止まらない。
《そうじゃのうー。まああいつは良一郎より魔王向きの性格じゃしなぁー》
呑気な声に、思わず力が抜けそうになる。いや、笑い事じゃない。
「狂気・狂暴・狂犬の権化ですからねー」
半ば本音が漏れる。隣で誰かが小さく頷いた気がした。
《今までなら迷いなくユリシアを魔王にしておった。だが、イリスとの相性もあるでな……今回は良一郎を選んだのじゃ》
その言葉に、胸の奥がわずかにざわめく。選ばれた理由――それは決して単純な強さだけではない。
「つまり……ユリシアさんの方が『真の魔王候補だった』ってことですか?」
《過去のわしなら自らの力を躊躇なく敵に向けるユリシアのような人間こそ最高と思っていたな。実際に勝ち始めると止まらないのじゃ。……じゃが今は違うぞ。何度同じ轍を踏んだかのう。敵を討つだけがリーダーではないと気付くまでに。この戦い……最後はお前に任せるつもりじゃ》
「ディスフィア様……」
重い言葉だった。逃げ場のない覚悟を突きつけられた気がする。
《イリスとも話した選択じゃ。お前たち二人の為にわしは全力で力を使おう。心しておけ》
「はい! ……それよりユリシアさんは!?」
意識を無理やり現実に引き戻す。今は目の前の戦いだ。
《うろたえるな! アストリアの強制力もあるのじゃ。決められたルールは覆せん。あの娘の戦いを見守ろうぞ》
僕は最後まで見届けるしかなかった。祈ることすら許されないような、そんな無力感が胸に広がる。
***
ミランダは衝撃からの回復に、ユリシアも麻痺からの回復に少し時間がかかった。しかし何でもアリな異世界プロレス……たちまち回復する二人。その異常な回復力すら、この世界では当たり前になりつつある。
ロープに飛んだユリシアが反動を利用してスライディングキックを決める。ぶっ飛ぶミランダ。ユリシアは倒れたミランダの髪を魔力強化された右手で掴むとそのまま引きずり回し、リングの支柱(鋼鉄製)に額をガンガンぶつける。乾いた金属音と鈍い衝撃音が、やけに生々しく響いた。防御魔法が間に合わない……その額から血が吹き出す。
そのまま倒れるミランダ……ユリシアは素早くリングに戻り場外カウントをアピール。しかし……レフェリーは絶賛失神中だ。
「やれやれですわ……さっさと目を覚ましなさい!!」
苛立ちを隠さず、右手をかざしてプチ爆弾魔法をレフェリーの近くで爆発させる。――ボォーン!! 爆風と衝撃で目を覚ますレフェリー。
「うーん……ここは? まだ夢の中なのか? 試合は?」
「さっさとリングに戻りなさい! わたくしの勝ちをお前が宣言するのです。かもーん……ですわ!」
「ううっ……体中が痛い。しかし……決着がつくまで俺は帰れないのか……くそー」
夢と現実の狭間で苦悩するレフェリー。その姿が妙に哀愁を誘う。だが戦いは待ってくれない。よろめきながらもリングに戻ろうとするレフェリーにアピールするユリシア。しかし、その背後からミランダの反撃が始まる。
――ピシッ!リング外からロープの間を抜けて鞭が襲う。ミランダもどこからともなく取り出した鞭で、ユリシアの背中を激しく叩く。 パシーン!!
「アウッ! 痛いですわね」
振り返ったユリシアに追撃が見舞われる。鞭は空気を切り裂きながらユリシアの足を絡め取り、リングに引きずり倒す。そのまま身体ごと場外に引き寄せるミランダ。
「お痛がすぎるよお嬢様。喰らえ電撃!」
鞭は諜報騎士団特製の雷魔法を仕込んだスタンガン仕様だ。――バリッ!! パチパチパチ!
「ああああああああ」
痛みと衝撃で身体が痙攣するユリシア。場外でミランダと絡み合い、もつれにもつれる二人。互いに引かず、意地だけでぶつかり合っている。
「ユリシアお嬢様……ふふっ……貴女の弱点は知ってるのよ」
「ううっ……なんですって? わたくしに弱点などありませんわ」
「魔法を使いすぎると『呆ける』みたいじゃない」
(それは……エッチな気分になって……ヤバイ……そろそろかも)
ミランダがガンガン電撃を喰らわす。
「ああぁーん♡」
「電撃を防ぐには魔法バリアしかない。さぁー魔力を使って呆けるがいい!」
***
場外で絡み絡まる二人……ユリシアの魔力は防御に消費され、呪印の効果でどんどんエッチな気分になっていく。その様子に、見ているこちらの方が焦りを覚える。
(ああぁーユリシアさんは魔法封印の呪印を解呪したときの副作用があるんだ。このままではお嬢様の尊厳が……)
「あぁぁーちくしょう! ムラムラが止まりませんわ! この怒り晴らしてくれるぅー」
最後の力を振り絞ってミランダの顔にアイアンクローをする。魔力で強化された握力100キロ超の白魚のような細指がミランダの額を掴み、ギリギリと締め上げる。
「クッ……どこにこんな力が!? 離しなさい! このっ!!」
電流がユリシアの身体に再び放たれる。――バチッ! バリバリバリ!! ど反則の応酬が止まらない二人。
その時……リングの上からレフェリーの場外カウントが始まる。
「1・2・3…(高速カウント)…19・20!!」
散々な目に遭ったレフェリーの「やけくそ」な高速カウントが響き渡る。その雑さに思わずツッコミたくなるが、結果は変わらない。
「両者とも場外リングアウト! 引き分け!!」
「「え? ええぇー??」」
二人は場外で絡み合ったまま動けなかった。へなへなと脱力して大の字になるユリシアとミランダ。互いに睨み合う気力すら残っていない。勝負は決まらず、しかし確実に何かを削り取ったまま――試合終了。無情のゴングが鳴り響くのだった。
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