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桜狼伝  作者: 水鳥川 陸
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【3日目】


重い気持ちで居間に向かうと、今朝は結城や佳代子だけでなく幸三も在宅していた。

そして今度は結城どころか本田夫妻にまでこう言われてしまった。

「何だか疲れてるみたいだな、よく眠れなかったかい?」

夢の話などもちろん知らない村長がそう言うと、あらあらと佳代子が立ち上がり、奥から栄養ドリンクを持って戻ってきた。

「やっぱり枕が変わると眠れなかったりするのかしら。これ飲んで、無理しないで頑張ってちょうだいね」

「・・・ありがとうございます」

大丈夫です、と。

意識的に笑顔を作った南に、結城は何か言いたそうにしたものの、結局その場は黙っていた。

「尚に聞いたけど、あんまりいい塩梅じゃないらしいな」

「・・・そうですね。せっかくお世話になってて申し訳ありませんが」

「そんなこと気にすんなって。何件か、土蔵のあるうちには連絡しといたから、そこも回ってきたらいいわ。まあ、うちにもあるんだけど、ちょっと前に尚に整理してもらったばっかりだからな」

「結城君が?」

食後に佳代子が淹れてくれたほうじ茶を飲んでいた結城が、そうそうと頷いた。

「俺がここ来てあんまり経ってない頃だよね。あんまりにもぐっちゃぐちゃだったから、綺麗好きの俺には見逃せませんでしたよ」

「お前は本当に調子のいい奴だな。・・・でもまあ、爺さんたちの頃からそのままになってた置物やらなんやら、すっかり片付けてくれたからなぁ。助かったよ」

役に立つ男でしょ、と結城が笑った。


昨日同様、二人で車に乗り込む。

まずは神社に向かうことにした。

この時間帯ならば、千香ちゃんが学校でいないから、というのが理由だ。

結局結城と千香の関係性には疑問が残るままだが、南としてもことがスムーズに運ぶのであれば反対する理由もなかった。


運転しながらも、助手席から無言の圧を感じる。

聞きたいことは分かってる。当然、南が見た夢の話だ。

「約束しましたよね、全部話すって」

「話したくないわけじゃないんだけど、ちょっとリアルすぎたというか・・・」

もちろんそれは時代や服装の話ではない。

あの少女-うたの気持ちが痛すぎて。

朝目覚めると、あろうことか南自身が涙を流していた。

昨夜に続き、年下の結城に話すのはかなり恥ずかしい類の話ばかりなのは何故だろう。


話の切り口を探して、南はこう切り出した。

「結城君はさ、お百度参りって分かる?」

結城が真っ直ぐに南を見つめた。

「・・・お百度参りの、夢を見たんですか?」

「そう。昨日話した、うたって女の子がやってた」

「お百度参りって、満願成就のお祈りですよね。100回お参りをやり遂げることで願いが叶うっていう。・・・そのくらいしか分かりませんけど」


南はできるだけ、見たものすべてを伝えた。

夢の内容は頭に焼き付いてたので、それは左程難しくはなかった。

そして最後に自分の意見を付け加えてみる。

「俺、あれはうた自身の記憶だと思うんだよな」

南が悦明している間に一言も言葉を発しなかった結城が、その意見に漸く口を開いた。

「・・・記憶?」

「うん。見えた光景。あれはきっと、うたが見ていた景色だ。俺があの夢の中でうたを見たのは、水瓶にその顔が映った時だけだ。俺が彼女自身だったんじゃないかと思う」

だからあんなに辛くて切ない気持ちになったのではだろうか。

父を思う気持ちと、それ以上に、宗次郎を思う気持ち。

「うたは宗次郎って人のことが本当に好きだったんだよ。それでもやっぱり、お百度参りに掛けた願いは父親を助けること、だったのかなぁ」

何を願ったのかは結局あの夢では分からなかったけれど。

「・・・もしもそれが本当に、その子の記憶なんだとしたら。・・・願いが叶っていたらいいですね」 

結城がぽつりと言った。

「そうだな」


彼女は救われたのだろうか。

なぜ、今自分にこの記憶が見せられているのだろうか。

そもそも彼女は桜狼と関係があるのだろうか。

彼女と桜の因縁は掴めたけれど。

「もしかして、うたが桜狼だったりするんだろうか」

ふと思いついて口に出した言葉。

だが、結城は即座に否定した。

「それはないでしょう」

「・・・なんで分かるんだよ」

余りに早い結城の返しに、南は憮然とする。 

と、次の瞬間結城が声を上げて笑った。

「もう、南さんは本当バカ真面目すぎるんですよ。南さんの話からすると、うたは可愛い健気な女の子なんでしょう?・・・そんな子が狼なんてなるわけないでしょうが」

「・・・そこ?」

「当たり前でしょう。可愛い女の子はそれだけで正義なんです!」

何だかどこかで聞いた宣伝文句のようだ。

そう思って笑顔が伝染する。

先ほどの微妙な空気が一変した。

やはり結城の持つ天性の能力なのだろうと、南は思う。

「でも俺は南さんの見た夢を疑ってるわけじゃないですよ。むしろ信じたいんですけど。・・・でも何か流石に超常現象的な話になってきましたよね。はっきり言って、俺には全部は理解しがたいんです」

困ったように、結城が言う。

「だよな、俺だってそうだもん」


いっそのこと、自分の見た夢をベースに記事を書こうか。

上司は呆れるだろうが、あの先輩なら、おもしろがってくれるかもしれない。

そう脱線しかけた己の頭に、先ほど言い忘れていたことがひとつ戻ってきた。

「あ、それと、あと一つ。俺が気になっていることなんだけど」

結城が首を傾げた。

「昨日のあれが、うたの記憶だとしたらだよ。前の夜の夢は、やっぱり宗次郎の記憶なんだろうな」

あの日、ずっと渡したかった手毬を手渡した。

彼女の手を取り遊びに連れ出した。

楽しくて嬉しくて仕方がない気持ち。

まだ子供の、純粋な気持ちが真っ直ぐに伝わってきた。

一体彼らは自分に何を訴えているんだろう。

「はい、ストップ!!」

強い声で結城が南を呼んだ。

驚いてとっさに急ブレーキを踏む。

結城がいつも通りの笑顔で外を指さした。

「つきましたよ、神社。ていうか通りすぎるとこでした。危ない危ない」


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