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桜狼伝  作者: 水鳥川 陸
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【2日目】


目を覚ました南は、自分が直前まで見ていた夢に困惑する。

まるで映画のように鮮やかに、自分の知らない世界が存在していた。

しかも目覚めてもはっきりと覚えている、夢。

ここに来たことが、何か関係しているんだろうか。

しかし、とりあえず桜狼に関するものではなかったように思う。

あの女の子の父親が桜の木の下で話していたのが気になると言えばなるが。

疑問を残しつつも、手早く身支度を整え、ついでに枕元のスマホをチェックした。

昨夜先輩に送っていた状況報告ラインへの返信は、死ぬほどやってみろ、の一言。

そして春奈からも返信があった。

―もう、無理だと思う―

それを見て、自分でも驚くほど何の感慨も湧かなかった。


居間に入ると、既に結城が座って朝食を食べていた。

南に気付くと、人懐こい笑顔を見せて手を振る。

「おはよう、南さん。よく眠れました?」

「あ、うん。おはよう」

奥から出てきた佳代子にも挨拶をして、用意された膳の前に座る。

幸三は既に朝食を済ませ、畑の様子を見に行っているという。

「すみません、俺だけ寝坊しちゃって」

謝る南に、佳代子はいいのいいのと笑い飛ばした。

「慣れないとこでよく眠れなかったでしょう。しっかり食べて出かけなさいね」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます。俺、おかわりお願いします!」

「尚は自分でやりなさい」

「・・・何か南さんが来てから、俺の待遇が悪くなった気がする」

子供のような言い草に、思わず南は吹き出す。

「笑うことじゃないからね、ここ」

「悪い」

ふと、ここにくる前にこんな風に笑ったのはいつだったか考えたが、思い出せなかった。


朝食の後、まずは昨日回り切れなかった家に聞き込みに出ることにした。

本当は学校にある図書館に行きたかったが、流石に子供たちの授業が終わってからの方がいいだろうということになったのだ。

司書と懇意にしているという佳代子が学校に連絡を入れてくれるという。

何から何まで世話になり、恐縮しきりで本田邸を出発する。

冷え込んでいた昨日とは一転、村はあたたかい春の風が心地よい。

何となく車の窓を開けて走り出した。


「・・・で、何かあったんですか?」

昨日同様、助手席に座った結城が、それまでと変わらない軽い口調で話しかけてくる。

「・・・え?なに、なんで?」

「疲れてます、顔が。俺、そういう気配みたいの何か分かっちゃうんですよね、昔から」

「手ごわいなぁ」

「敏腕助手ですから」

「頼りにしてるよ」

苦笑して返すが、結城の興味津々の瞳は全く揺るがない。

「あぁ、分かった。話すよ、話す。・・・でも、一応先に断っておくけど、意味があることかは分からないからな」


そして結城に昨夜見た夢の話を語る。

全然知らない世界なのに、違和感ではなく、感じた懐かしさ。

それがとても不思議だった。

きっと笑われると思ったが、話し終えた後も返る言葉がない。

ちらりと横を窺うと、結城は何かを考え込んでいるようだった。

「絶対笑われるか、もしくは引かれると思ったんだけど」

すると、結城はなぜか驚いたようにこちらを見返した。

そして一呼吸おいて、小さく笑う。

「ま、確かに信じがたい話ではありますけど。・・・でも南さんは気になってるんでしょ?南さんがここに来て、そんな夢をみたことに、何か本当に意味ってあるのかもしれませんよね。・・・切り捨てるだけじゃ何も生まれないと、俺は思います」

そして再び考える様子を見せると、ポンと手を打った。

「そうだ。また何か夢をみることがあったら、とりあえず俺にも必ず教えてください。・・・1人より2人で考えましょうよ」

敏腕助手ですからね、と。

その声に含まれる微かな熱。

随分興味を持ってくれたようだ。

これからの取材には助かるな、と南は思った。


ところが結局、その後も日中は昨日と同じように世間話と飲み食いで終わってしまった。

畑仕事に出ている者も多く、結城は慣れた様子でそれを手伝いながら、上手に話を振っていく。

もちろん南も続こうとしたのだが、あまりに頼りなくあっという間に農具を没収されてしまった。

役に立たないから座って見てろという。

対して結城は、確かに昨日言っていた通り、慣れているのか随分手際が良かった。

確かに自分は文系肌で、スポーツ全般苦手だけれども。

流石に己を情けなくおもいながら、道端に座り、結城たちの作業を眺めていた。


と、農作業中の男性が、手を止めずに思いついたように言った。

「学校もいいけどよ、神社になんか残ってないんかな。あとは、ほれ、あちこちの蔵ん中とか」

それを聞いた結城が肩をすくめる。

「神社ね・・・それは確かに俺も思ったんだけどさぁ」

何故か元気を無くした様子の結城に、男性が破顔した。そして思い切りその肩を叩く。

「なんだ、尚。気にしてんのか。らしくねえなぁ」

兄ちゃん、と男性が南に声をかけた。

「こいつ、こんなんだから村の子供たちにも懐かれてんだけど、ただ一人だけ例外がいてな。それが神社の一人娘の千香ちゃん。あの子は、どうあっても尚が気に入らんみたいで、しょっ中無視されとる」

お前、あの子になんかしたんじゃねえのか。と結城の頭をかき回す。

「ちょ、ちょっと人聞き悪いこと言わないで。…あれは、きっと何か勘違いしてるというか。もしくは女子特有の思春期とか…あ、それか俺がかっこよすぎるとか」

言い訳がましい結城に、男性だけでなく南も吹き出してしまった。


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