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「これは・・・どういうことだ」
「2年前、結城さんが村にやってきたのは、私がこの内容を理解したすぐ後のことだったんです。とても驚きました。どうしたらいいのか、分からなかった。この巻物を信じていいのか、結城さんが何かしようとしているのか。そもそもこれは結城さんのことなのか」
誰にも話せず、千香は一人悩んでいたのだ。
そんな日が続いたある深夜、寝つけぬ千香は何とはなしに家を抜け出た。
星を見上げ、何となく境内を歩いている途中、お堂の中で小さな明かりが揺れているのを見つけた。
お父さん蝋燭をつけっぱなしにしちゃったんだな、消しておいてあげよう。
そう思い、そっと近づいて、錠前が壊されていることに気付いた。
恐る恐る中を窺い、そして見てしまったのだ-お堂を漁るように探る結城の姿を。
「・・・気づかれたの?」
「わかりません。でも、それからもずっと、私に対する態度は変わりませんでした。結城さんはだれにでも優しい。でも私、それが逆に怖かったんです」
いつの間にか千香の目にうっすらと涙が浮かんでいた。
まだ中学生の少女が、ずっと一人で抱え込んできた秘密。
さぞかし心細かったろう。
「南さんが取材に来るって話を聞いて、すごく悩みました。話していいのか。もしかしたら結城さんじゃなくて南さんが桜狼なのかな、とか」
「・・・え、俺?」
思いもよらなかったが、言われてみれば南も対象人物に入り得るのかもしれない。
慌てて否定する。
「いやいや、俺じゃないよ」
初めて、千香が笑った。
「わかってます。本人がそんな風に調べまわるはずないし」
確かにその通りだろう。
逆に本人なら、あれこれ嗅ぎ回る人間を監視したくなるんじゃないだろうか。
そう思えば思うほど、浮かぶ顔は一人しかいない。
「それでも南さんに話していいかどうかずっと分からなかったけど、さっき南さんがあの場所を開けてるのを見て、南さんは助けてくれる人だと思ったんです。きっと、私のご先祖様が呼んだ人なんだろう、って」
千香は密かに自分の家の過去帳も調べていた。
比較的長命な家系だった滝本家で、100年以上前に若くして亡くなった神主がいた。
代々伝わる話では、持病も何も無く、あの石段の頂上から転落して死亡したのだという。
巻物の表紙に記されていたのは、その神主の名前であった。「あの、これ借りてもいいかな。必ず明日、返しにくるから」
気づけば正面の障子戸を染めていた夕陽は完全に落ち、お堂の中は薄暗くなっていた。
結城はもう家に戻ってしまっているかもしれない。
「構いません。でも、結城さんに見つからないようにしてください」
「分かった、約束する」
念のため、辺りを窺い外に出た。
誰もいないのを確認し、外に出る。
階段を駆け下り車に飛び込むが、急激な運動とやっと掴んだ事実に、落ち着くのに時間がかかる。
しっかりしろと己を叱咤し、ふと思いついて
スマホを取り出し、電話をかけた。
ラインよりも、直接依頼したい話だった。
ツーコールで応答がある。
よかった、取材中ではなかったようだ。
「南、どうした?」
「先輩。折り合ってお願いしたいことがあるんですが・・・」




