第八話 機械人間
「復讐者・・・・・・?」
シトリン劇場内の一室――
シグマ達四人は、謎の男と対峙していた。
「やはり、私の事は覚えてないか。無理もない、初対――」
男が話しているにも関わらず、シグマがマグナムを構え撃った。
完全な不意打ちであったが、男はスッと身をかわした。
「人の話を聞かずに撃ってくるとは・・・・・・紳士と聞いたのだが」
「知らない奴の話を聞いて何になる?」
シグマは冷血な目で男を睨み、マグナムを向け直した。
それに動じず男は微笑む。
「【ディガンマ】の一員――と言ったらどうかな?」
「・・・・・・!?」
男が口にした名に、シグマは目を見開いた。
【ディガンマ】
数年前に突如現れた少人数テロ組織。
その正体は謎に包まれている。
唯一わかっていることは、テロを実行するときは必ず一人で行い、人手が必要な場合にはその都度他のテロリストを金で雇っていることだ。
「なっ、【ディガンマ】だと・・・・・・!?」
カイも驚きを露わにしていた。
「おや、そこにいるのは『殺し屋キラー』の<アメジスト>ではないか!」
「!?」
シグマは先程以上に驚き、カイの方を向く。
『殺し屋キラー』
現役時代のシグマと同時に裏世界に名をはせた謎の人物。
シグマと異なり、殺し屋を殺す謎の人物が現れた――というだけで、その人物の情報は一切不明であった。
その人物はシグマよりも裏世界から消えており、『冷酷紳士』に返り討ちにあったという噂が一時期流れた時があった。
「・・・・・・その異名を知る奴は全員殺したはずなんだがな」
カイは冷静に言いつつ、腰に付けていた日本刀を鞘から取り出し構えた。
「【ディガンマ】の情報網を舐められては困る。彼ら全員、君の事を知っているよ。なんせ、我らの組織に招きたい人物としてマークしているからね」
「断る!」
カイが素早く男の前に移動し、刀を振り下ろした。
その速度はシグマに負けないほど速いものだった。
しかし、男が刀を右腕で受け止めた。そんなことをすれば腕が切断されてしまうのが普通――だが男の右腕は無傷で、金属音が響いた。
「!? 何だ貴様は!?」
信じられぬ事にカイは思わず身を引いた。
「先輩は下がっていてください」
カイの背後からシグマの声が聞こえると同時に、シグマがカイの隣を横切り、男の腹に勢いよく蹴りを入れる。
男は後ろに吹き飛び、壁に背中をぶつけ体勢を崩す。
「奴は――いえ、奴らはただの人間じゃありません」
「ただの人間じゃない・・・・・・まさか、『機械人間』か!?」
「その通り」
男は平然と体勢を戻す。シグマの蹴りも効いていないようだ。
「と言っても、基本的に一部分を入れ替える程度のものだけどね。君たちが我々を『機械人間』と呼ぶものだから、その名が定着してアンドロイド扱いされて困ったものだ」
男は話ながら右手を前に出し、指鉄砲を作り構えると、人差し指の先端から弾丸が無数に放たれる。男は人差し指で宙に弧を描き続け、放射状に放った弾丸をシグマ達に当てようとする。
「くっ!?」
不意を突かれたカイであったが、落ち着いて日本刀で斬り裁いていく。後ろのエルフ達にも被害が及ばないよう、後退しながら広範囲に裁いていく。
シグマは弾丸をかわしながらマグナムの弾倉を入れ替えた後、男の真下に向けて撃った。床に着弾すると同時に弾丸が破裂し、部屋中が煙に包まれる。
「?」
なぜ煙幕を張ったのか不思議に思いながらも男は撃ち続ける。
至近距離でのスモーク。無意味のようにも思えたが――
「引き上げるぞ!」
「きゃっ!?」
「その声<アメジスト>か!? 何をする!? 離すのじゃ!!」
シグマの意図を察したカイは日本刀を鞘に収め、エルバとエルフの二人を抱えて部屋を素早く去っていった。
それを足音で確認したシグマは再び弾倉を入れ替え、床を撃つ。
着弾した弾丸は破裂し、突風を起こして部屋の煙を消し飛ばした。
「・・・・・・なるほど、仲間を逃がすためか」
視界が開け、辺りを見渡した男が納得した。
「復讐の対象は俺だけなんだろ? 先輩やエルフ達を巻き込む訳にはいかない」
シグマはマグナムを男に向けた状態で、弾倉を入れ替えながら言った。
「確かにその通りではあるが・・・・・・ここに留まっていた方が正解だったのだよ」
「どういうことだ!?」
「エルフとかいう娘に変わった護衛が二人いたのはわかるだろ? 彼らが既に援軍を呼んで外で待機しているだろう」
「!?」
シグマの顔が青ざめる。
(尚紀先輩が外に! それにラムダ先輩も! でもこの場を離れるわけにはいかない・・・・・・外はカイ先輩に託すしかない!)
「それと<ガーネット>、君は他人の心配はしても自分の心配はしないようだな」
「!?」
男の言葉を聞いてシグマはやっと自分の体を確認した。
全身の所々に弾痕ができており、血が溢れんばかり流れていた。
(いつの間に・・・・・・恐らく、煙幕を張っていた時にやられたか)
「? あまり動揺してないようだね・・・・・・」
男は少しの間思考を巡らせた後、口を開いた。
「もしや、痛覚がないのかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
男の問いに反応しないシグマ。
――図星である。
「なんと、そんな体で何十人と殺めて来たとは!? ・・・・・・これでは、仲間の恨みを晴らしきれないな」
男は表情を険しくさせ、右腕を剣に変形させた。
「苦痛を味合わせられぬのなら、とっとと地獄に落とすとしよう」
男がシグマに攻撃を仕掛ける
――改まって、戦いの火蓋が切られた。
※
一方、カイ達は――
「引き返すのじゃ! 既に援軍が来ておる!」
外に出るために、カイはエルフとエルバを抱えたまま、シトリン劇場を駆け巡っていた。
エルフ達に死体の山は見せまいと、来た道と異なる道を通っていた。
「我が連れていたあの二人に、万が一劇場内の護衛が壊滅しそうになったら援軍を呼ぶよう事前に伝えてしまっておる!」
「そんな!? このまま外に行ったら危険ですよ! えっと<アメジ――」
「カイ――俺の本名だ」
コードネームで呼ぼうとするエルバに対してカイが本名を出した。
仕事中のため本来であれば本名を出しては非常に危険なのではあるが、エルバに本名で呼ばれたいという訳のわからない願望のために、打ち明けたのだった。
「カイさん! ここに留まっていた方が――」
「安心しろ。実は頼もしい仲間がもう一人、外にいてな。今頃交戦中だろう」
「あのアホ面のことじゃろ? あいつ一人で何になるというのじゃ! 援軍は少なくとも五十人は来るはずじゃ!」
「普通の奴にはわからないだろうな。ああ見えて、あいつはかなりの危険人物だ。まあ後は出てみればわかるだろ」
出口の目の前に到達したカイは、二人を降ろす。
(銃声の一つ聞こえてこない。もう終わったか?)
カイは慎重に扉を開け、外を確認した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
無言で扉を閉めると、エルフに尋ねる。
「エルフ、これまで血を見た事は?」
「我は大丈夫じゃ。両親の自殺死体以上にグロいものなど存在せぬ。問題は・・・・・・」
エルフはエルバの方に視線を向ける。
「えっ、たくさん人が死んでいるのですか!?」
察したエルバが怯え、震え始める。
そんな彼女に、カイは抱き抱える。
「えっ、えぇ!?」
エルバは顔を赤くし、余計に震えが増した。
カイは右腕でエルバの体を支え、左手で彼女の頭の後ろを優しく押さえ、彼女の顔を自分の胸に押し当てた。
「!?!?!?!?!?!?!?!?」
何が何だかよく分からないエルバ。
カイは優しくこう告げる。
「俺がいいと言うまでじっとしていてほしい。目を横に逸らすのもダメだ。見るなら、俺の顔だけだ」
「あっ、はい・・・・・・・・・・・・!」
(なんじゃこいつ。これが世の言うロリコンって奴なのか? いや、それではロリコンに失礼じゃな。よくわからぬのにそう思えるということは、こいつは変態を超えた変態――というわけじゃな)
そう思ったエルフであった。
「エルフ、扉を開けてくれると助かる」
「うむ」
手が塞がっているカイの代わりに、エルフが扉を開ける。
その先には、血の雨でも降ったように血溜まりが転々とできている道路、体を蜂の巣のように穴を開けられ倒れている無数の死体があった。
「こ、これを一人でやったというのか!?」
思わぬ光景にエルフは度肝を抜かされた。
そしてさらに驚くべき光景が。
「よいしょ、よいしょ」
箒で死体を一つにまとめ、山を作ろうとしているラムダの姿があった。
「ふぅ、疲れるわ――て、<アメジスト>じゃんか!」
カイ達に気づいたラムダが箒を投げ捨て、彼らの方に足を運んだ。
「その二人誘拐してきたの?」
「アホ言うな。保護するだけだ。<ガーネット>がまだ交戦している。助けに行かねばならない」
「あれ? この二人の安全を確保するためにここに来たのはわかったけど、道中であいつを見なかった?」
「あいつ?」
カイが疑問符を浮かべていると、エルフが先に答える。
「それは<ガーネット>の彼女のことであろうか?」
「そうそう! コードネームぅ・・・・・・なんだっけ? もういいや! 尚紀だよ尚紀! 見なかった?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あっ、なるほど・・・・・・・・・・・・・ておい! ヤバいじゃねえか!!」
今回も遅くなってしまい、すみませんでした!
話の構成で手こずってしまいました。非常に情けないですね・・・・・・
8月に入りましたので、メイン作品の連載を再開させますが、こちらも疎かにならぬよう精進します!




