第六話 幼き復讐 その4
「申し訳ないが、俺の推理話に付き合ってくれ」
カイが突然そんなことを言い出した。
「はぁ!?」
戸惑うエルフであったが、お構いなしに話し始める――
「俺は事前に、彼女がカーネリアン家の娘であることは把握してある。もし、彼女に何かあれば連中が助けに来るであろう。だが、一向に来る気配もない。それも当然、既にいたからだ。護衛として」
「!?」
それを聞いたエルフは目を見開いた。
「ん? その反応は図星だな。恐らくお前は連中を金で雇った。両親なき今、残されたものは莫大な資金だけだからな。その金で、カーネリアン家の護衛部隊を雇った。『エルバの命を狙う暗殺者が今夜来る』みたいなことを言ってな。身を潜めるのにもってこいの場所が、今は使われてないここ――シトリン劇場だ。さすがに、連中もプロだ。ここにかくまっても敵が来ることは想定済みだろう」
「待て、お主の推理は間違っておらんか?」
「?」
エルフの疑問に、カイは首を傾ける。
「組織を護衛部隊と仮定したならば、どうしてエルバの拘束に黙っている。金で雇われたにしろ本来の主の娘の危機を、黙って見過ごすとは思えんのじゃが?」
「それは単純。エルバを拘束したのが護衛部隊のものではないからだ。外で取引をする際に出てきた男二人がいるだろ? あの二人にエルバを拘束し、この部屋に閉じ込めた。他の連中には『エルバ様の仮部屋だから許可なく出入りするな』とでも伝えたんだろう」
「だ、だから何だというんじゃ! それが事実だとして、エルバの気持ちとどう繋がるんじゃ!」
「ここからが本番だ。エルバを拘束するのは見ての通り成功ではあるが、おかしい点があった」
「それはなんじゃ?」
エルフが尋ねると、カイは懐から一枚の写真を取り出し、エルフに見せた。
「? これの何処がおかしいんじゃ?」
「口が縛られていないことだ。この部屋が防音とは思えん。騒ぎを他の連中にバレたら即終了の状況で、忘れるなどと凡ミスをすると思うか?」
「っ!? それに関しては我のミス――」
「わざと、だろ?」
「!?」
「お前はわざと縛らなかったんだ。万が一、俺達以外の何者かが襲ってきたことを考えて、助けを呼べるように」
「はぁ!? どうしてそんなことを!?」
「囮に利用しても、友は友。エルバの安全だけは確保したかったんだ。その証明として、彼女は足も拘束せず、その状態からでも立てるはずだ」
「え?」
その話を聞いたエルバがキョトンとした。実際に立とうとすると、椅子と体が縛られた状態のため前傾的な姿勢になったものの、その場に立て歩ける状態になった。
「本当だ」
「と、このように、エルフや護衛に何かあってもここから脱出できるようになっている。ここを出た廊下の右を真っ直ぐ行くと非常口があるからな」
「ならなぜじゃ! なぜエルバは助けを求めなかった! 脱出できる機会は何度もあった! 失敗しても護衛に出会せばすぐさま我らが排除できるというのに!!」
エルフが涙ながらに訴えた。
カイは動じることなく、冷静に口を開く。
「お前を助けたいと思ったからだ」
「は・・・・・・・・・・・・?」
帰ってきた答えに、エルフは茫然とした。
「な、何を根拠に・・・・・・!?」
「長くなるが、聞いてくれ。エルバをここに連れてくる際に、本人にも『暗殺者から狙われている』という嘘の情報を護衛を通して伝えたのであろう。両親は現在出張中で来週までいないため、非常に招きやすい状況であったな」
(出張? 財閥の主は自分の娘を置いていかねばならない仕事があったのか?)
そう思ったシグマであった。
「劇場に送るため車に乗せたとする。その車には運転手と例の護衛二人。向かう道中で睡眠薬入りのジュースでも与え、それを飲んだエルバは自然と眠りについた。劇場に着いた後、眠っていたエルバを護衛が運び、この部屋に閉じ込め拘束した。目が覚めてパニックになっているところを写真に撮り、文章を制作して俺達の元へ来たわけ――と、あくまで推測だ。ただ、俺の推測が正しくともエルバが脱出、救助を求める機会は多くあったはずだ。だがエルバはそれをしなかった」
「我を・・・・・・助けるためにか・・・・・・?」
「エルバは日本の財閥における令嬢の中でもトップクラスの頭脳を持っているそうだな。一度はパニックに陥ったものの、落ち着いて状況を整理したところ、人質にされていると思ったのだろう。実際は囮であったが、それをわかった上でエルバはじっとこの場に留まっていた。エルフの役に立てるなら――と」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
エルフは遂に黙り込んだ。
「以上――何か修正すべき点はあるかな?」
カイがエルバに縛られた縄を解きながら問いかけた。
「私がここまで連れて来られた経路に関しては信じられないほど合っています。ですが、私が大人しくしていたのには、別の訳もあるんです」
「それは何だ?」
カイはエルバの正面に立ち、訳を聞く。
「実は――」
昨日――午後四時頃。
「エルフ・・・・・・どういう事なの・・・・・・?」
椅子に縛り付けられたエルバが震え、目に涙を浮かべながらエルフと専属の護衛二人を見ていた。
護衛は既にエルバの写真を撮り終え、文の制作をしている。
「安心せい。邪魔さえしなければこれ以上危害を加える気はないぞ」
「これからエルフがやろうとしていることは犯罪だよね・・・・・・? 私を人質に取って何が目的なの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
エルバが尋ねるが、エルフは答えるのを躊躇っていた。
もう後戻りはできない――
「我の・・・・・・両親の敵討ちに協力してほしい!!」
エルフは、土下座してエルバに頼んだ。
「・・・・・・!?」
それにエルバは唖然とし、反応に困った。
「相手は探偵。エルバは奴らを誘き出すための囮になってほしいだけじゃ! 『親友を連れ戻してほしい』と依頼するから少なくともエルバに危害は出ないはずじゃ! これが終わったら我を煮るなり焼くなり好きにして構わぬ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「――なるほどな」
一連の流れを聞いたカイは納得した。
「親友である私であれば説得できたのに・・・・・・情けないですよね」
「いや、エルバの判断は間違ってない。その状況で下手に刺激を与えてはエルフが何をするかわからない。仕方のないことだ。だが、これだけは忘れるな」
カイは身を低くし、エルバと視線を合わせ、無駄に顔を近づける。
「親友の復讐のために、自分の護衛を多く犠牲にしたことを。責めている訳ではない。そいつらの分も生きるんだ」
「・・・・・・・・・・・・!」
優しく微笑みかけるカイ。エルバは思わず顔を赤くした。
カイは身を戻し、エルフ達の方に歩み寄った。
「エルフ、敵を取るためならば悪にでもなろうと思ったのだろうが、無理があったな。お前は優しい奴だ。皮肉ではない。その心を持ち続ければ報いは来る。今は耐えろ」
「・・・・・・我を、通報するといい」
エルフは負けを認め、その罰を受けようとするが――
「それはできない」
カイは警察に通報することを拒否した。
「!? どういうことじゃ! 我が子供だからなのか!」
「子供は俺達も同じだ。通報しないのはエルフを庇うわけではない。すれば俺達も連行されるからだ。既に何十人の護衛を殺したんだからな」
「確かに、そうじゃな・・・・・・」
エルフは納得できた。
「とはいえ、俺達を騙し殺そうとしたからには何か罰を与えたいところだが・・・・・・後ほど考えるとするか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
カイとエルフが話している中――シグマはずっと下を向いていた。
それに気づいたカイが話しかける
「どうした?」
「・・・・・・俺は、何の罪もない人たちを殺してしまった・・・・・・・・・・・・」
シグマは、護衛を殺したことを後悔していた。
「テロリストと違って、大切な人を守るために銃を向けていたのに――」
「気にするな」
カイが励みを入れる。
「今の世の中殺るか殺られるかだ。銃を向けた奴に慈悲はない、裏社会の基本だろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それと、『大切な人を守るために』と言ったが、それは善人にだけ当てはまるものではない。テロリストだって大切なボスを守るために武器を持つことはある。裏社会が複雑なのは、お前が一番知っていると思うが、深く考える必要はない」
「そう、ですね・・・・・・」
シグマは首を縦に振るが、表情が晴れることはなかった。
「さて、問題はここからだ。死んだ護衛の山をどう対処するかだ。カーネリアン財閥にこのことがバレたら非常に厄介だ。せめて俺達がやった証拠を消せば――」
「その必要はない」
「!?」
カイの後ろ――エルバのいる方から謎の声が聞こえた。
シグマ達三人が同時にそちらを向くと、エルバの背後に、背の高い三十代の男が立っていた。
「ひっ!!」
三人の視線を追って後ろを振り向いたエルバが驚き、飛び跳ねるように離れカイの背中に隠れた。
「誰だ」
シグマは冷静にマグナムを男に向ける。
男も動じずに、不気味な微笑みを浮かべて答える。
「私も、復讐者だよ」
大変おそくなってしまい、本当にすみませんでした!!
次回の更新は普段通り30日に行います。行事も終わり、夏休みに入るので今度は大丈夫かと(フラグ)
また、更新日に用事や行事が被ったりすることがほぼ毎回あるため、こちらも更新日を変えるかもしれません。




